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 前回、「十分な分煙対策を行うのであれば、屋内喫煙も容認されうる」と書きました。しかしながら、日本の現状において、はたして十分な分煙対策ができるかどうかは疑問です。なぜなら、受動喫煙のリスクが周知されているとは言い難いからです。

 あくまでも仮定の話ですが、客だけではなく従業員も含めて受動喫煙の害について多くの人が理解している社会であれば、全面禁煙ではなく個々の飲食店が喫煙可能か禁煙かを自主的に選択するという案に私は賛成するでしょう。喫煙状況について表示を義務付ければ、タバコの煙を吸いたくない人は喫煙可の店を避けることができます。タバコを吸いながら外食したいという喫煙者の希望もかなえられます。多様な価値観を許容する、より望ましい社会です。

 しかしながら現実にはどうでしょう。受動喫煙のリスクはどれぐらい知られているでしょうか。「私のこどもや孫は受動喫煙に文句もなく元気」というような発言もみられます。受動喫煙のリスクは確率的なものですから、受動喫煙を受けていても元気な例があったところで、リスクを否定することはできません。受動喫煙のリスクを理解していれば、このような発言は絶対に出てきません。

 また、子や孫から文句がないからといって不満がないとは限りません。弱い立場にいる人は表立って文句を言えないのです。飲食店の喫煙状況について表示を義務付けたところで、受動喫煙の害について理解不足の上司に喫煙可の店に連れていかれて、意に背く受動喫煙を強いられる人が出てくるのは目に見えています。というか、今でもそうでしょう?

 従業員についても同じです。受動喫煙問題は労働問題でもあります。「サービス残業が嫌なら別の職場で働けばいい」と「受動喫煙が嫌なら別の職場で働けばいい」は似ています。受動喫煙を容認させたい人たちは「サービス残業は法律違反だが、受動喫煙は法律違反ではない。一緒にするな」と反論するのでしょうが、「だったら受動喫煙も法律で規制しないとだめだ」ということにしかなりません。

 自主規制では雇用者は守れません。「がん患者は喫煙可能な職場で働かなくていい」というような主張もありました。そういうことは受動喫煙の害が周知されて、雇用条件を落とさず受動喫煙にさらされない職場がいくらでも選べるようになってから言ってください。

 受動喫煙のリスクどころか、能動喫煙のリスクすら認めようとしない人すらいまだにいるんです。そんな人が「分煙方法の知恵を堅持しよう」などとおっしゃったところで、まともな分煙対策は期待できません。「なんちゃって分煙」でお茶を濁されて受動喫煙の害を受ける人が生じるぐらいなら、価値観の多様性が犠牲になっても全面禁煙のほうがまだましでしょう。

<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/sakai/

(アピタル・酒井健司)

アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。