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 私たちの体は、DNAと呼ばれる設計図をもとに作られています。

 医学の進歩により、いくつかの病気は、このDNAに変化が生じたことが影響して、発病することが分かってきました。

 そこで、そのDNAの変化を調べることで新しい治療方法を見つけたり、発病したりすることを予防できないかという医療が、「ゲノム医療」として登場しました。

 

▼ゲノム医療という新しい技術の登場

▼ゲノム医療が及ぼす社会的不利益とは?

▼ゲノム医療の推進には、国民啓発とデータ提供者の擁護が大切

 

●家族性腫瘍とは?

 2016年1月、アメリカのオバマ前大統領はNational "Moonshot" initiative(米国がん撲滅ムーンショット・イニシアティブ)というゲノム医療を推進する一大国家プロジェクトをスタートさせました。新しい技術を応用したこのような研究には、私たちがん患者も多くの期待を寄せており、日本でも、企業や研究機関などが参加した組織が立ち上がっています。

 こうした研究を進めていくために必要なのが、遺伝子情報ですが、これは個人だけの問題ではなく、血縁者の全てに影響を及ぼす大切な情報にもなり得ます。

 2013年、アメリカの女優、アンジェリーナ・ジョリーさんが遺伝子検査を受けた結果、生まれながらDNAに変化が生じている家族性腫瘍であることが判明、乳がんの発症リスクを下げるために乳房を切除したというニュースが流れました。このニュースは、テレビや新聞でたくさん報道されたので、覚えている方は多いと思います。

 彼女のように、遺伝子の変化が血縁者に継がれる可能性があるのが「家族性腫瘍」と呼ばれるがんです。乳がんや卵巣がんだけではなく、大腸がんなど他のがんにも存在することが分かってきています。

 子孫や親類など、血縁関係を重視する日本社会の中では、ひょっとすると、このような遺伝子の変化があることが、結婚や出産、就職などの局面で、新たな社会的偏見を生み出す可能性があります。そのため、遺伝子の研究を進めるためには、当事者やその血縁者が、間違った知識からくる偏見や不利益に遭遇することがない社会の仕組みを用意することが大切です。

 私たちの団体では、20代~50代までの、一般100人、がん患者100人(10年以内に乳がん・卵巣がんの診断を受けた人)を対象に、遺伝子検査の受診の意向と不安に関するアンケートを2016年に行いました。その結果を少しだけ紹介します。

 

●社会的不利益とは何か?

 調査では、「遺伝性のがんの可能性が高い」場合でも検査を受けたくない理由は、「お金がかかるから」が、一般の人、患者さん、そろって第1位でした。

 そして、数は少ないのですが、検査を受けたくない理由の中には「生命保険に入れないかもしれないから」「結婚に影響するかもしれないから」「パートナーや周囲に知られたくないから、出産に影響するから、就職に影響するから」といった声があります。こうした治療以外の問題が、いわゆる「社会的不利益」と呼ばれるものです。

 

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 「遺伝性のがん」であることが分かっても「子どもに伝えない」を選択する人は約3割います。その理由には、「いじめが心配」「結婚や出産に影響を与える」「生命保険に入れない」「周囲の人へもれる」などの声があがります。

 科学技術がいくら進んでも、人の意識や心に植え付けられた偏見はなかなか急には変わりません。ゲノム研究を進めていくためには、国民啓発と、そこに参加する人たちが安心してデータを提供できる環境づくりが欠かせません。

 それでは、アメリカではどうなっているのでしょうか?

 

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●GINA法(The Genetic Information Nondiscrimination Act)

 アメリカには、日本の個人情報保護法に近い「HIPPAプライバシールール」があり、まずは「情報が漏れること」を防いでいます。

 そして、万が一、ハッキングなどの事件や事故で情報が漏れたとしても、ADA法(採用時の差別を禁止する法律)やGINA法(遺伝子差別禁止法)によって、「もれることを予防する」「もれたあとも社会的不利益から守る」という「二重の体制」が用意されています。

 GINA法には、雇用主が遺伝情報を利用して、雇用や解雇、昇降格人事をしてはいけないことやそうしたデータの提出を求めてはいけないことが定められており、生命保険会社に対しても、これから加入しようとする未発症の人からデータの提出を求めたりしてはいけません。

 アメリカでは民間保険へ加入していないと高額な医療費がかかり、治療を受けられなくなることもありますから、こうした法律で患者の権利を守ることはとても重要です。

 イギリスでも生命保険会社の間で消費者保護協定が結ばれており、情報が漏れる前の対策と、万が一漏れたとしても社会的不利益から擁護する仕組みが用意されています。

 

●ゲノム医療に関わる正しい知識の普及が大切

 日本でも、今国会で「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律案」が提出されており、2018年からの実現が計画されています。この法律は、医療に関する様々なデータを研究開発に利活用をし、国民の健康や長寿を享受できることを目指したもので、医療情報の管理方法についても言及されています。

 遺伝性の病気はがんだけではありませんし、今後、遺伝子情報の解析が進むともっと様々な病気との関連がわかってくるかもしれません。遺伝を含めた医療情報の活用は、「治療」という私たち患者の希望につながる可能性が大きなものです。

 期待が大きな新技術なだけに、国民へのゲノム研究やゲノム医療に関する正しい知識の普及とあわせ、安心して研究参加ができる体制整備を行っていくことも大切になります。

 

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http://www.asahi.com/apital/healthguide/cancer/(アピタル・桜井なおみ)

アピタル・桜井なおみ

アピタル・桜井なおみ(さくらい・なおみ) 一般社団法人CSRプロジェクト代表理事

東京生まれ。大学で都市計画を学んだ後、卒業後はコンサルティング会社にて、まちづくりや環境学習などに従事。2004年、30代で乳がん罹患後は、働き盛りで罹患した自らのがん経験や社会経験を活かし、小児がん経験者を含めた患者・家族の支援活動を開始、現在に至る。社会福祉士、技術士(建設部門)、産業カウンセラー。