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 外来に発熱の患者さんが来て、診察後にお母さんに聞かれました。「これは夏風邪ですか?」、「えーと、夏にかかる風邪という意味では夏風邪です。夏風邪の中でも有名なヘルパンギーナやプール熱や手足口病かっていうと、そうではないですね」と返事しました。保育園や幼稚園では、先生が子どもどうしでうつし合うことをとても心配するので「なんの病気だか聞いてきてくださいね」と言われ、お母さんたちも聞いておかなくちゃと思っているのかもしれません。

 一般に、風邪は寒くなる頃に多いですが、夏にも風邪を引くことがありますね。風邪はおもに ウイルス感染症ですが、気温や湿度が高い夏が好都合のウイルスがいるんです。鼻水・咳・発熱といった普通の風邪以外に、夏風邪には以下のような特徴的なものがあります。

 手足口病は、例年に比べて今年は多いという報道を目にした方も多いと思います。主にエンテロウイルス属のコクサッキーウイルスA16やエンテロウイルス71によって起きる感染症で、手足の水疱(すいほう)と口の中の発疹が特徴的です。発熱はある時とない時があります。小さい子だと機嫌が悪くなったり、喉(のど)が痛くて飲み込めないためによだれが増えたり、食欲が落ちたりします。糞便へのウイルス排泄は数週間続き、呼吸器へは1週間程度排出されます。手洗い、うがいをよくしましょう。出席停止になる感染症ではないので、全身状態が安定していれば登園・登校は可能です。安定というのは、元気があり熱が下がって1日以上経っていて、食事が少なくとも半分以上食べられていればいいでしょう。園によっては「登園許可書」を出してくださいと言われることがあるので、担任の先生に聞いてみましょう。

 ヘルパンギーナは、コクサッキーウイルスA群などにより起きます。高熱が続き、喉の奥が赤くなり白っぽいブツブツができます。ご家庭でも口をあけて喉の奥を懐中電灯とスプーンなどを使ってのぞいてみると、口蓋弓部(こうがいきゅうぶ)という半円形の粘膜に発疹があるのを見ることができます。これも手足口病のように、お子さんが喉が痛いと言ったり、言えないくらい小さい子だと機嫌が悪くなったり、飲んだり食べたりをしたがらなくなったりします。飛沫、つまりくしゃみや咳で飛ぶしぶきや接触によってうつり、他にも唾液や鼻水がついたおもちゃや手を触ることでうつる接触感染もあります。手洗い・うがいをして、おもちゃの共用をしないようにしましょう。きょうだいがいる場合は、感染者と同じタオルや寝具を使わないようにするのも大事です。全身状態が安定していれば登園・登校できます。

 プール熱は、咽頭結膜熱とも呼ばれます。アデノウイルスによって起こり、医療機関によっては迅速診断キットがあって検査できます。高熱と喉の痛み、目の充血が起こるのが特徴。過去にプールで集団感染したことがあったためにこのように呼ばれていますが、 プールに行かなくてもかかります。飛沫感染しますから、上記2つと同じ予防方法です。また、消毒用エタノールや次亜塩素酸ナトリウムで拭くことも有効です。( 「ノロ・ロタウイルス感染症って?」http://www.asahi.com/articles/SDI201611253274.htmlを参照ください )学校保健安全法により出席停止になる感染症で、登園・登校の基準は主要症状が消失して2日後です。

 リンゴ病も夏に多く、パルボウイルスB19によっておきます。軽い風邪症状の後に、両方の頬が赤くなり、手足に網目状あるいはまだらに盛り上がりのある発赤疹が出ます。大人では関節炎を伴うことがあります。頬が赤くなる頃には人にうつさないので、登園・登校は構いません。これも飛沫・接触感染するウイルスであることに加えて、胎内感染するので注意が必要です。妊婦さんがリンゴ病になった場合、少なくとも2ヶ月くらいはエコーでお腹の赤ちゃんの様子を注意して診てもらいます。産婦人科の先生と相談しましょう。

 こういったウイルス感染症は、ウイルスそのものに働きかけて治す薬はありません。抗菌薬も効きません。発熱がつらかったり、どこかが痛かったりしたら解熱鎮痛薬、鼻水・咳がつらかったら去痰薬、胃腸症状があったら整腸薬など、それぞれの症状にあった対症療法の薬でつらさをやわらげます。薬のおかげで早く治るわけではないので、つらいときだけ使います。普通の風邪のようにやはり、安静にして休養を取り、水分・栄養を摂る以外の早道はありません。よく聞かれますが、嘔吐や下痢がひどくなければ、何をあげても構いません。脱水になるほどの嘔吐や下痢を伴うことは少ないので、経口補水液でなくて構いません。手足口病やヘルパンギーナのように、口の中が痛いと刺激が少なく冷たくて甘いものなら口にしてくれるかもしれません。形のあるものは食べないで、母乳や粉ミルクだけになってしまうかもしれません。一時的なので偏った食事になっても、気にしないようにしましょう。

写真・図版

 

 夏は活動的になる季節ですが、お子さんの体調に合わせて遊び・旅行の計画を立ててください。場合によっては思い切って中止しなくてはいけないでしょう。私も経験があり、多くの人がそうしているように、ときにお子さんのためにスケジュールを変更して、貴重な休みとお金を看病に費やさざるを得ません。とても残念です。でも人生の中で、思い通りにならない事の1つが子どもの病気。辛い時間を一緒に過ごすことも必要ですね。

 

<アピタル:小児科医ママの大丈夫!子育て>

http://www.asahi.com/apital/column/daijobu/(アピタル・森戸やすみ)

アピタル・森戸やすみ

アピタル・森戸やすみ(もりと・やすみ) 小児科医

小児科専門医。1971年東京生まれ。1996年私立大学医学部卒。NICU勤務などを経て、現在はさくらが丘小児科クリニックに勤務。2人の女の子の母。著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』(メタモル出版)、共著に『赤ちゃんのしぐさ』(洋泉社)などがある。医療と育児をつなぐ活動をしている。