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 本年2月から連載してまいりました「よくわかる糖尿病の話」ですが、第12回の今回が最終回となります。

 最終回は、近い将来の治療の展望と全体のまとめについて解説いたします。

1) 吸入インスリン製剤から飲み薬のインスリン製剤へ

 インスリン注射は、製剤も器具もとても進歩してきましたが、やはり毎日注射をするのはたいへんです。 また、ご高齢の方ではどうしてもご自分で注射がうまくできない場合もあります。

 

 気管支喘息(ぜんそく)の治療薬と同じように吸入するインスリン製剤は、すでに米国では発売されています。ただし、注射インスリンよりもとても高価なこと、細かい単位数(量)の調節ができないこと、喫煙者や肺の疾患がある患者には使用できないことが欠点です。

 

 飲み薬のインスリン製剤は、1921年のインスリン発見時からの悲願ですが、いまだに研究段階です。すでに糖尿病患者での研究段階になってはいますが、作用時間と効き目をうまくコントロールすることが課題です。

 飲み薬のインスリンが実現することは、糖尿病治療における重要な目標の一つです。

 

2) 人工膵臓(すいぞう)

 自分の免疫システム(本来は外敵と戦う仕組み)の異常によって、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞が破壊されてしまう1型糖尿病では、インスリン分泌がほとんど無くなってしまいますので、毎日4回以上の血糖自己測定をし、その血糖値に応じて1日4回以上のインスリン注射が、一生涯必須となります。

 

 人工膵臓とは、これらを自動化するために、小型のインスリン注入用のポンプと皮下の血糖値を連続的に測定するセンサーを腹部に取り付け、皮下の血糖値を連続的にモニターしながら、血糖値に応じて自動的にインスリン量を調節しながら注入する装置です。

 すでに米国では、臨床試験として使用されています。

 人工膵臓は、日本でも実際の臨床で使用される日が近いと思います。

 

3) 1型糖尿病の根治に向けて

 2016年3月、東京大学分子細胞生物学研究所のチームが、「ヒトのiPS細胞から作製した膵臓の細胞をサルに移植して、血糖値を下げ正常化することに成功した」と学会で発表しました。

 ヒトのiPS細胞を使用して、サルの血糖値を正常化したのは、世界で初めてです。

 

 この実験は、ヒトのiPS細胞を培養、変化させ、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞を含む細胞のかたまりを作製し、事前に膵臓の一部を切除して1型糖尿病に近い状態にしたマーモセットという小型のサルのお腹に移植したものです。

 移植後にはマーモセットの血糖値は正常化し、その血液中からはヒト由来のインスリンも検出されました。

 まだ動物実験の段階ではありますが、近い将来の1型糖尿病の根治に向けて大きな希望が持てます。

 

 東京オリンピックの翌年2021年は、1921年のバンティング博士とベスト博士によるインスリン発見から記念すべき100周年となります。

 この年まであと4年しかありませんが、内服インスリン製剤の実用化、人工膵臓の実用化、そしてiPS細胞による1型糖尿病の根治が実現することが、世界中の糖尿病専門医・研究者、そして患者たちの大きな目標であり、希望でもあります。

 

4) 全体のまとめ

 糖尿病とは、「高血糖状態が慢性的に続き、全身の血管が障害される病気」です。

 「血糖」とは「血液中のブドウ糖濃度」のことで、健常な人では常に一定値に保たれています。健常な人の「空腹時血糖値」(寝る前から何も食べていない状態で、朝起きたときに測った血糖値)は70~109mg/dl、食後でも140mg/dl未満です。

 これは健常な人では、膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンというホルモンが、常に血糖値を一定の値になるよう調節しているからです。

 

 日本人糖尿病の約95%を占める2型糖尿病では、遺伝的な体質と長年の生活習慣により、このインスリンの分泌される量またはその働きが不足することで糖尿病になります。

 糖尿病治療の目標は、図に示しますように、「しめじ」や「えのき」をはじめ、認知症、うつ病、がん、感染症などのさまざまな合併症・関連する病気を防ぎ、「健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)を維持し、健康な人と変わらない寿命を確保すること」です。

 そのためには、1型糖尿病では適切なインスリン療法が、2型糖尿病では生活療法(食事療法と運動療法)が特に重要となります。

 

 

 糖尿病を良好にコントロールするためには、以下の項目が重要です。

 1.血糖コントロール 

    原則としてHbA1c 7.0%未満(HbA1cは過去1~2カ月間の平均血糖値を表します)

    ※ただし、年齢・合併症・その他の病気の有無・サポート体制などにより、この目標値は個別に設定します。

 2.血圧コントロール 

    130/80 mmHg未満

 3.脂質コントロール  

    LDLコレステロール(悪玉) 120 mg/dL未満

    HDLコレステロール(善玉)  40 mg/dL以上

    中性脂肪  150 mg/dL未満

 4.禁煙

 5.肥満の是正 

    BMI(Body Mass Index:体格指数、{体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)}) 25未満 

 

 糖尿病を根治してくれる治療法は、残念ながら現時点ではまだありませんが、地道に取り組めば、元気で長生きできます。

 そして、趣味を持ち、いろいろなことに興味も持ち、友達をたくさん作り、よく笑い、よく歩きましょう。これらは血糖値を良好にコントロールするだけでなく、老化や認知症の予防にも役立ちます。

 

 「あわてず、あせらず、あきらめず」

 どうぞ、健やかにお過ごしください。

 長い間のご愛読、どうもありがとうございました。

 

<アピタル:よくわかる糖尿病の話・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/tounyou/(アピタル・岩岡秀明)

アピタル・岩岡秀明

アピタル・岩岡秀明(いわおか・ひであき) 船橋市立医療センター代謝内科部長

船橋市立医療センター代謝内科部長、千葉大学医学部臨床教授。1956年生まれ。1981年千葉大学医学部卒。日本糖尿病学会学術評議員、専門医、指導医。日本内科学会総合内科専門医、指導医。主な編著書「ここが知りたい!糖尿病診療ハンドブック Ver.3」(中外医学社)、「糖尿病コンサルトの掟」(金原出版)など。