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 「現代医学は無力だ」といった意見をときに耳にします。たいていは「無力な現代医学の代わりに私が推薦する○○式治療法を使うと治る」といった主張とセットになっています。「現代医学の薬やワクチンが病気の原因だ」とまで言う人もいます。

 確かに、現代医学で治せない病気はたくさんあります。みなさんのお知り合いで、がんや心筋梗塞や脳血管障害で亡くなった方はたくさんいらっしゃるでしょう。でも、現代医学だってそんなに捨てたもんじゃないですよ。

 脚気は第二次世界大戦前までは日本では1万人以上が死亡する病気でした。脚気の原因はビタミンB1の欠乏で、治療法もビタミンB1の補充です。劇的に効いたそうです。現代でもきわめてまれに偏食などが原因で脚気が起きますが死亡事例はほとんどありません。

 天然痘はウイルス感染によって起こる致死率の高い疾患ですが、効果の高い予防ワクチンがあります。日本では1955年を最後に天然痘は発生していません。世界中でも天然痘は発生しておらず、根絶されたと考えられています。

 日本の乳児死亡率は100年前は出生1000人あたり150人ぐらいでした。死因の多くが感染症でした。いまでは出生1000人あたり約2人です。赤ちゃんの6~7人に1人が亡くなっていたのが、約500人に1人になりました。しかも現代の乳児死亡の多くは、先天異常や出生前後のトラブルや不慮の事故などが原因で、普通の赤ちゃんが感染症で死亡することはきわめてまれです。

 みなさんの中にお知り合いが脚気や天然痘で亡くなられたという方はほぼいないでしょう。赤ちゃんが亡くなった事例をご存知の方はいらっしゃるかもしれませんが、かなり珍しいと思います。

 現代医学が治せるようになった病気は忘れられ、意識されなくなり、治せない病気が残るのです。結果として、現代医学が一見、無力であるかのように見えるのでしょう。「現代医学は無力だ」と主張する人の何割かは、現代医学がなければそんな主張ができる年齢になる前に死亡していたものと思われます。

 人は必ず死にます。もし、がんや心筋梗塞を治せるようになっても、別の病気で人は死に、現代医学は無力だという意見は残り続けます。

<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/sakai/(アピタル・酒井健司)

アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。

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