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 先日、バニラ・エアが車いすユーザーの搭乗を拒否したというニュースが話題になりました。普段なら「車いすの話題」がこれほど社会の関心を得ることはないだろうなあと思いながら、各種報道を見ていました。しかしながら、感情的な意見や偏った意見も多く、私は問題の本質がどこか置き去りになっている印象を受けました。過程の良い悪いに関係なく、何事にも現場にいた人にしか分からない空気感や状況があるものです。中途半端な状況把握で、この件の是非には触れられないと思い至りました。

 

 自身の生活を振り返ると、私は周囲の方々の親切やさまざまな工夫に支えられていますが、車いすユーザーが不自由なく暮らすためには、まだまだ多くの障壁が社会には潜んでいます。私の経験だけをとっても、飛行機の搭乗に限らず、公共交通機関の乗車拒否、ホテルの宿泊拒否、飲食店の入店拒否、教育機関の受け入れ拒否などは未だになくなっていません。歩けていたころには想像できないくらい、障害者の自由は制限されていて、外に出れば出るほど「○○拒否」に遭遇する確率も高くなるのが現状です。そのことを社会に認知してもらうことが改善への第一歩ですが、マイノリティゆえに声が届きづらい現実があります。

 

 そんな中で今回の件は社会への問題提起となり、「移動困難者」が飛行機を利用することについて考えるきっかけになりました。

 

 航空会社の業務改善で車いすユーザーへの対応は見直されましたが、障害者側の訴えが正論だったとしても、双方にとって後味が悪かったように思います。いくら今後の対応が改善されたとしても、体裁だけの表面的な対応ではなく、必要性を理解した上でのサポートであってほしいと思うことは、高望みなのでしょうか。

 

 たとえば、駅などの公共施設には、今では当たり前にエレベーターが設置されています。JRの在来線も、今では事前連絡なしに乗ることができます。これらのように、ひと昔前には当たり前ではなかった現実の背景には、車いすの「先人」と「社会」が戦ってきた、きれいごとだけではない歴史があるのです。その末に今の生活があると思うと、ときには強く訴えかけることも必要なのかもしれないと考えさせられます。

 

 けれども、立場が違っても話せば分かり合える――。車いすユーザーだけではなく、多様な人のバリアを取り除く方法を皆で考えたい――。どうしても、そんな風に思ってしまうのです。

 

 一方で、この一件は、結果として、障害者差別解消法の意義を示したとも言えます。関係省庁へ「これは、おかしいんじゃない?」と言ったことで、結果的に行政から航空会社へ指導が入りました。法律ができたことで相談ルートが確立され、きちんと改善してもらえたという好事例だったのではないでしょうか。

 

 私も以前、別のLCCから車いすを理由に搭乗を断られ、予約を諦めたことがあります。このとき理不尽だと思いながらも、他の手段を選びました。静かに諦めている障害者がたくさんいるということは想像に難くありません。

 

 今回を機に飛行機の設備面が改善され、選択肢が広がったのは紛れもない事実です。「5営業日前に連絡してください」という但し書きが搭乗を断る免罪符にならないことを願いつつ、まずはそれを素直に喜びたいと思います。

 

 障害者差別解消法が施行されてから、まだ1年しか経っていません。障害の有無に関わらず、みんなが心地よく暮らせる社会のためには、建設的な問いかけと前向きな議論が不可欠です。また、これは障害者だけの問題ではありません。今は健康でも、ケガで一時的に身体が不自由になることもあれば、歳を重ねて自由がきかなくなることだってあります。誰もが直面することなのだから、すべての人が「将来の自分や家族が過ごしやすいように」と当事者意識を持つことによって、気持ちよく議論できるのではないでしょうか。設備投資や規則・責任というものに縛られがちですが、設備などのハードで補えることに限りはあっても、私たちのハートで越えられる壁はたくさんあります。ときには、重い荷物を持っている高齢者を手伝うくらいの身軽さも必要なのかもしれません。責任の所在ばかりを追求するのではない柔軟な改善と過渡期を見守る姿勢、困ったときはお互い様と臨機応変に対応できる、そんな寛容さを持ち合わせた社会になってほしいと願います。

<アピタル:彩夏の〝みんなに笑顔を〟>

 http://www.asahi.com/apital/column/ayaka/

(アピタル・樋口彩夏)

アピタル・樋口彩夏

アピタル・樋口彩夏(ひぐち・あやか)

1989年、東京生まれ。中学2年の時、骨盤にユーイング肉腫(小児がん)を発症。抗がん剤、重粒子線などの治療を経て、車いすでの生活に。「いつ、誰が、どんな病気や障害をもっても、笑顔で暮らせる日本にしたい!」を目標に日々、奮闘中。当事者の視点から建設的に伝えることをモットーに執筆・講演も行っている。