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 経験談は、同じ悩みを抱えている人にとっては、身近に感じられ、つい信じてしまう人もいるでしょう。ですが、経験談は、情報としての信頼性に疑問符がつくことも多いのです。今回は、経験談の問題点について考えてみたいと思います。

 

 ▼「3た」論法を使えば、どんなサプリも効果があることに

 ▼経験談の表現には、法律違反が紛れていることも

 ▼「個人の感想です」は、免罪符にはならない

 

 「これだけ飲んで10kg減量成功!」

 「これを飲んだら膝の痛みが消え、階段を登れるようになった!」

 

 個人の体験に基づく「経験談」が載っている記事や広告の見出しは人をひきつけます。このところ、お腹周りが気になる筆者も、ダイエット関連の精進の広告記事には、つい目がいってしまいます。では、このような経験談の情報にはどのように向き合っていったらいいのでしょうか?

 

 ■「3た」論法にご注意!

 「3た」論法という論法を聞いたことがありますか。代表的な例としてよく取り上げられるのは、「雨乞いをした、雨が降った、ゆえに雨乞いは効いた」があります。3つのフレーズの最後が「た」で終わっているため、「3た」論法と呼ばれるのです。

 雨乞いなどという非科学的なもので、雨が降るはずがない、と多くの人が感じるでしょう。しかし、雨乞いの踊りや太鼓、お祈りは、いつまでも続けることができます。ですから、根気よく雨乞いを続けていれば、いずれ雨は降ってくるのです。ですから、「3た」論法を使うと、どんな雨乞いも有効であると言えてしまうのです。

 馬鹿げていると感じる人も多いかと思いますが、実は、この「3た」論法は、薬の効果を評価する方法として、50年以上前には普通に用いられていました。「薬を使った、病気が治った、ゆえにその薬は効いた」といった具合です。しかし、現在では、この論法で薬の効果を評価することはありません。なぜならば、「3た」論法の最大の問題点は、薬を飲まなくても病気は治ったかもしれない可能性があることです。

 

 みなさんも、風邪やちょっとした傷の場合、特別に何かをしなくても自然な経過で治っていくことは実際に経験したことがあると思います。また、頭痛や目眩(めまい)などの症状が、あらわれては自然に消え、しばらくしたら、またあらわれるということを経験したことがある人もいるでしょう。このような場合、薬を使って病気や症状が良くなったら、本当に薬が効いたのでしょうか?それとも、自然の経過なのでしょうか?

 残念ながら、どちらなのか区別ができません。ですが、本人は、薬のおかげでよくなったと考えがちです。さらに、本当は効かない薬でも、多くの人が試しているうちに、症状があらわれた時期と薬を使った時期が、折良く重なるようなケースが出てきます。そうすると、その薬は、たちまち特効薬のように考えられるようになることがあります。

 「3た」論法で説明できるのは、「薬を使った時期」と「病気が治った時期」が、時間軸でとらえたら、ただ単に関連があったということだけです。その薬が本当に効いたのかの因果関係を証明するためには、「薬を使わなかったときにはどうなったのか」という情報がないといけません。

 そのため、現在では、薬の効果は、「実薬群(評価の対象となる薬を使った人たち)」と「対照群(評価の対象となる薬を使わなかった人たち)」との間で、治療効果に違いがあるかどうかを確かめる、より厳しい方法で検証されています。

 しかし、この「3た」論法、健康食品やサプリメントなどの宣伝では、今でも広く用いられています。

 

 「ダイエットサプリを使った、やせた、ゆえにそのサプリは効いた。」

 「××エキスを使った、膝の痛みが改善した、ゆえにそのエキスは効いた。」

 「△△発酵食品を使った、夜ぐっすり眠れた、ゆえにその発酵食品は効いた。」

 「◯◯水を使った、アトピーの症状が良くなった、ゆえにその水は効いた。」

 例をあげれば、枚挙にいとまがありません。

 そんな「3た」論法をもちいた商品広告やCMを目にしたり耳にしたりしたときは、「それを使わなかった時にはどうなるのか?」という点をぜひ思い出してください。案外、「それを使わなくても目的は達成できたのではないか?」と思えてくるかもしれません。

 

 ■経験談の問題点を検証してみる

 具体的な経験談(注:筆者が作成した架空のものです)を例に、他にも問題点がないのか検証してみましょう。

 

 最初に注目してもらいたいのは、「がんに効く!」という宣伝文句です。日本では、健康食品やサプリメントを含め、食品について、病気への予防や治療の効果・効能を表示・広告することは、医薬品医療機器等法などの法律で厳しく禁止(※1)されています。この点は是非とも覚えておいてください。ですから、懐疑的にこの商品をみると、法律に違反していることを承知の上で販売されていると考えなければなりません。

 次に、「手術もできず」という箇所を見てみましょう。がんの治療は手術だけではありません。手術以外にも、抗がん剤治療や放射線治療などがあります。この経験談を書いた女性は、どうだったのでしょうか?残念ながら、この経験談からの情報だけでは、正確なことはわかりません。もしかすると、抗がん剤治療をおこなっていたのかもしれません。ですから、「手術もできないような大腸がんが、健康食品だけで治った」と短絡的に考えるのは早計だということになります。

 「余命3ヶ月と主治医に宣告されました。(中略)半年経過した今でも元気でいます。」についてはどうでしょう。ここで、重要なのは、「がんは治ったのか?」になります。一般的に、がんが治っているかどうかの判定は、CTなどの画像検査でおこないます。しかし、その重要な情報がこの経験談からはわかりません。つまり、「健康食品でがんが治った」とは言い切れないのです。ですから、この経験談の女性は、実は、がんは治っていない可能性も考えられます。「体重が増えた」というのも、本当は、がんが進行してしまい、お腹に水が溜まってきたりしているのかもしれません(ただ、その場合は、「元気でいます」とつじつまがあわないので可能性は低いですが…)。

 

 ■「個人の感想です」は免罪符にならない?

 腰が曲がり関節の痛みを訴えている初老の女性が、ある健康食品を飲み始めたら、階段を楽々と登れるようになり、ニコニコ顔で映っているCM映像。

 「いろんなダイエット法を試してみたけど全くダメ。でも、このサプリメントを飲み始めたら、みるみる痩せてきて、以前はいていたズボンがブカブカに」という証拠写真入りの広告。

 

 このようなCMや広告、よく目にしますよね。そして、映像や写真の下の方に小さく「個人の感想であり、効果を保証するものではありません」と断り書きが表示されていることに気が付いている人も多いのではないでしょうか。一応、スポンサーとなっているメーカーも、「万人に聞くわけではないですよ」と注意喚起をしているわけですが、映像や写真のほうがインパクトは強く、断り書きに注目している人は少ないのではないかと思います。苦肉の策とはいえ、よくできた手法だなと感心します。

 しかし、消費者庁は、平成28年に制定した「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」(※2)のなかで、「個人の感想です」「効果を保証するものではありません」という但し書きをしたとしても法律違反にあたるかどうかの判断には影響しない、としています。

 つまり、「『個人の感想』とさえ記載しておけば何を言っても構わないと考えていた」という言い訳は通用しないということになります。関連する事業者の方には、是非、襟を正してもらえたらと思います。なお、「個人の感想」という文言を書いてはいけない、ということではありません。虚偽誇大広告にあたるかどうかは、体験談などを含む表示内容全体から判断されることになっています。

 

 ここまで、架空の経験談を批判的に吟味してきました。まだ、検証すべき点も残っていますが、経験談の最大の欠点は、客観的視点にたって正確に理解し判断するための情報が決定的に不足しているという点です。そのことに注意していただき、経験談の情報と向き合ってはいかがでしょうか。

 

 [参考資料]

(※1)

・大阪府「健康食品について」:http://www.pref.osaka.lg.jp/yakumu/kenkoushokuhin/別ウインドウで開きます

・東京都福祉保健局「健康食品の取扱について」:http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kenkou/kenko_shokuhin/ken_syoku/index.html別ウインドウで開きます

(※2)消費者庁「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」(平成28年6月30日):http://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/pdf/160630premiums_9.pdf別ウインドウで開きます

 

<アピタル:これって効きますか?・健康・医療情報の見極め方>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/kiku(アピタル・大野智)

アピタル・大野智

アピタル・大野智(おおの・さとし) 大阪大学大学院准教授

大阪大学大学院医学系研究科統合医療学寄附講座 准教授/早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 客員准教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大医学部)卒。主な研究テーマは腫瘍免疫学、がん免疫療法。補完代替医療や健康食品にも詳しく、厚労省『「統合医療」情報発信サイト』の作成に取り組む。