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 自費診療で高額な治療を提供しているクリニックのウェブサイトでは、治療前後でCT画像を提示して「がんが消えた」と称するなどしています。本当にがんが消えるのならいくらでもお金を出す患者さんもいるでしょう。私も患者さんを紹介したいです。

 ただ、信頼できるかどうかを検証するためには情報が必要です。科学においてはデータは第三者が検証可能なように論文として発表されますが、こうしたクリニックのウェブサイトでは論文の文献情報が記載されていることは稀です。また、文献情報があっても元の論文を読むと、動物実験や試験管内レベルの話にすぎないことが多いです。仕方がないのでウェブサイトに載っている情報を吟味するのですが、治療前後の画像をよく見ると撮影条件が異なるなどします。

 撮影条件の一つに造影剤の使用の有無があります。造影剤とは画像検査のときに診断能力を上げるために使う薬剤です。造影剤にもいろいろあって、一般の方にいちばん馴染みのあるのが上部消化管造影(胃透視)のときに使うバリウムでしょう。バリウムはX線を通しませんので画像上は白く映ります。バリウムを含んだ液体を飲み込むことで消化管の形がよりくっきりとわかります。

 CT検査のときによく使われるのがヨード系造影剤です。こちらは主に静脈に注射して使います。腫瘍によっては血管に乏しかったり、逆に血管が豊富だったりしますが、造影剤を使うと血管に乏しい腫瘍は黒く、血管が豊富な腫瘍は白く映ります。腫瘍があるかどうかだけでなく、どのような腫瘍かを知るのにも役に立つのです。

 以下に示すのは80歳台の転移性肝がんの患者さんのCT画像です。転移性肝がんの多くは血管に乏しく、造影剤を使うと黒く映ります(正確には腫瘍以外の正常組織が造影剤で白くなるので相対的に黒く見えます)。赤い矢印に囲まれた黒い部分が腫瘍組織です。示した場所以外にも複数の転移巣があります。

 同じ日に撮影した造影剤なしの画像では、腫瘍部分はあまりはっきりしません。専用のモニターで見れば腫瘍部分がわずかに黒いのがわかるのですが、小さい画像ではわかりにくいと思います。

 この造影剤あり・造影剤なしの画像を並べて、「治療によってがんが消えた」と言えば、信じる人もいるでしょう。

 治療効果を示したければ治療前後で同じ撮影条件の画像を比較する必要があります。医療従事者が見る論文や学会発表での症例報告で、撮影条件の異なる画像が提示されることはまずありません。しかし、高額な自費診療を提供しているクリニックのウェブサイトではよく見ます。不思議ですね。

 情報を吟味した結果、患者さんを積極的に紹介したいと思えるような信頼できる自費診療クリニックはいまのところ一つもありません。

<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/sakai/

(アピタル・酒井健司)

アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。