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 怒りは誰かに何かを伝えたい時の感情です。上手に怒ることは、自分の価値観と異なる現実に対して生じた感情や相手への要望を適切な形で伝えることです。そのための一つのステップとして、前回は事実と思い込みを分けて、事実に自分の感情を添えて相手に伝えてみるという話をしました。今回は、さらに「要望を伝える」段階について説明します。

 前回の場面は、病院の外来に勤務するAさんがBさんに怒っている会話でした。

 Aさん:「Bさん、どこに行っていたのよ。探している時に限っていつもいないんだから。」

 Bさん:「病棟へ書類を届けに行っていました」

 Aさん:「病棟に行くだけなのに、なんでこんなに時間がかかるのよ」

 

 「事実」と「思い込み」を分けて、「事実」に、その時の「感情」を添えてAさんのセリフを言い換えてみました。

 Aさん:「Bさん、探していたのよ」

 Bさん:「病棟へ書類を届けに行っていました」

 Aさん:「見当たらないから焦ったよ。実は急ぎでお願いしたい仕事があるの」

 状況によっては「次は誰かに行き先を伝えて行ってね」と提案しても良いかもしれません。

▼怒りを伝えるコツ「事実と感情を分ける」http://www.asahi.com/articles/SDI201707240231.html

 

 今回はこの提案の部分を掘り下げます。

 上手に怒ることは、上手に伝えるということでしたね。ここでは自分の意見を押し付けて相手が渋々受け入けるのではなく、納得して折り合いをつけられるように進めることが大切です。そのためには、相手が取り組みやすく、実現可能性の高い行動を具体的に提案することがポイントです。できれば一回の提案では、いろいろ欲張らずに一つのことを伝えるようにします。

 ここでいう提案は命令ではなく、あくまでもお願いですから、相手がその提案を受け入れない場合もあることを想定しておきましょう。相手が納得しないことを無理に押し付けようとせずに、次にまた別の提案をします。

 Aさん:「次は誰かに行き先を伝えて行ってね」

 Bさん:「でも病棟から急ぎの依頼でしたし、外来の忙しい時間帯は患者さんの対応や処置に追われて、スタッフに声をかけられないこともあります」

 Aさん:「たしかに、スタッフが忙しいと声をかけられないときもありますね。ただ、Bさんがどこにいるのかわからないと私も困るので、外来の外にでるときは医療用携帯電話を持っていってもらえるかしら」

 

 このように、一つ目の提案が受け入れられないときは、相手の意見にも共感を示しながら、自分の気持ち・感情を添えて、次の提案をしていきます。一見、面倒で回りくどいように感じるかもしれませんが、職場内のコミュニケーションを良好に保つためには、互いに歩み寄ろうとする姿勢が不可欠です。

 怒ることは感情を爆発させたり、相手を服従させたりすることではありません。このように伝えていくプロセスとして考えてみてはどうでしょうか。

 

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■編集部から

 田辺有理子さんの本もご参照ください。タイトルは「イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ」(中央法規出版、2160円)です。(詳しくはアマゾン:http://goo.gl/52wVqv別ウインドウで開きます

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。