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 「大学教授」「医学博士」といった肩書の人が登場する健康番組や広告・CMを目にすることが多いのはなぜでしょうか。そうした肩書がもたらす「権威」や「ブランド」があると、番組や広告に含まれる情報の信頼性が高まったかのように感じさせる心理効果が隠されているからです。こうした広告やCMの情報は、そのまま鵜呑みにしていいのでしょうか? 今回は、こうした権威やブランドが情報の受け手に与える影響について考えてみたいとおもいます。

 

 ▼世の中には「権威」「ブランド」の影響力を利用した宣伝手法があふれている

 ▼「権威」や「ブランド」は、人の認知をゆがめてしまう

 ▼権威者の発言の意図は何なのか?考えてみることが必要

 

人は、権威、地位、ブランドに弱いものです。例えば、健康食品や美容器具などのCMや広告で、こんな宣伝文句を目にしたことはありませんか?

 

 「○○大学医学部と共同で開発したダイエットマシン」

 「米国の一流大学教授も注目する脅威のサプリ」

 「肌のことを知り抜いた医学博士の研究から生まれた美顔器」

 

 そして、博学そうに見える白衣を着た人物が商品を手にたずさえている写真や映像がいっしょに掲載されていることがあります。こうした人物の存在は、商品の信頼性を高めるために一役も二役も買っています。

 

 ■権威やブランドは人の認知を歪ませる

 まず、人の「評判」による認知への影響について検証した実験(※1)があります。

 あるテーマに関する講義をビデオテープで受講する際、半分の被験者はその講師についての肯定的な評判を、残りの半分の被験者は否定的な評判を伝えられました。その結果、講義のテーマにもともと興味のあった被験者は、評判に左右されずに講義内容を評価したのに対し、講義のテーマに興味のない被験者による講義内容の評価は、講師の評判に大きく左右されたというのです。

 この実験結果は、「不知案内なこと無関心なことに関しては、情報を提供する人の評判や肩書きに影響されて、内容の良し悪しを判断しやすい」と言えると思います。言い換えると、情報の内容を吟味せず、自分の頭で考えることを放棄してしまうと、権威やブランドといったもので判断してしまう恐れがある、ということになります。

 このように、人が情報を判断するときには、権威のあるものを信頼しやすい傾向があり、この心理効果を「権威への服従原理」といいます。情報を発信する人の「権威」は、情報を受け取る人の判断に強く影響するのです。

 美顔器に関する架空の広告があるとします。次の二つの広告の文言、どちらが魅力的に感じますか。

●肌のことを知り尽くした医学博士の研究から生まれた美顔器

●お肌の曲がり角を迎えた主婦のアイデアから生まれた美顔器

 

 権威や肩書きがなくなると、なんとなく効果も薄れてしまったように感じないでしょうか。「権威への服従原理」を応用すると、人の認知はゆがんでしまうことがある、という事実を、是非知っておいてください。

 

 ■「権威への服従原理」は禁じ手なのか?

 誤解しないでください。筆者自身、「企業が権威への服従原理を応用した宣伝行為をすることはまかりならない」と言いたいわけではありません。ただ、権威への服従原理を「悪用」しているケースについては苦言を呈したいと思います。

 

 例えば、次のようなケースがあったらどうでしょうか。

 

 ●医学博士が推薦する健康食品。実は、その健康食品の会社の株式を、医学博士自身が大量に保有していた

 ●美容のカリスマ主婦が雑誌でお勧めしていた化粧品。実は、その化粧品の会社から、カリスマ主婦は多額の謝礼を受け取っていた

 ●芸能人がブログで紹介した愛用している健康グッズ。実は、その芸能人は、健康グッズの会社の役員だった

 

 何かだまされた感じがするのは、私だけではないかと思います。

 

 ここで、「利益相反」という言葉について少し説明します。

人には、親子関係・夫婦関係などの家族関係から、出身校、勤務先などの組織関係など、無数の利害関係があります。そして、その関係性をよいものにするために、ひとりひとりが全力を尽くして調整をしています。しかし「忠ならんと欲すれば孝ならず、孝ならんと欲すれば忠ならず」といった利害関係の葛藤が生じる場面に、誰しも遭遇することがあるかと思います。つまり、利害が衝突している状態、これを「利益相反」と呼びます。

 個人としての利益相反とは、「自分以外の誰かの利益を優先する義務のある者が、自分の利益を得ること(または、そのように見えること)」を言います。

 前述の例で言えば、医学博士は、健康でいたいと願う消費者に対して、有益な情報を提供する立場と、健康食品の売上から利益を得る立場の相反する二面性を有していることになります。

 そのようなことを踏まえ、法的倫理的観点から社会的に重要な関係性を選び出し、必要な範囲で調整のルールを設定することが求められてきました。例えば、医学分野で臨床研究に携わる研究者には、利益相反について次のようなルールが定められています。

 

 ◎研究者は、自身の利益相反に関する状況について自己申告すること

 ◎研究者に利益相反が存在する場合、研究の実施に支障がないよう、適切な対応策をとること(=管理)

 ◎臨床研究に参加する対象者に、利益相反に関する情報を説明すること(=公表)

 (日本医学会COI管理ガイドライン)

 

 なお、ここで、誤解しないでいただきたいのですが、申告すべき利益相反が存在していること自体が不正ということではありません。ともすると、日本では、利益相反が存在すること自体が否定的に受け止められる傾向がみられます。ですが、利益相反を考える時に覚えておいてほしいポイントとしては、「不正を取り締まるルールではない」「利益を得ること自体が不正ではない」ということがあるという点は知っておいてください。

 

 少し横道にそれましたが、重要なのは、利益相反を適切に「管理」「公表」することです。そして、臨床研究をおこなうにあたって利益相反が存在していたとしても、適切にマネジメント(「管理」「公表」)をしていれば、社会への説明責任は十分に果たしていることになります。最近では、医学系の学会発表や論文発表では、利益相反の有無を公表することになってきています。

 ですが、利益相反を適切に「管理」「公表」できていない場合、つまりルール違反にあたる場合は問題です。前述の例のように、「自分以外の誰かの利益のために情報発信しているはずの人が、実は自分の利益を得るために行動していた」となっては、その情報は一体誰のためのものかわからなくなってしまいます。

 ですから、「大学教授」「医学博士」といった肩書きによる権威だけで情報を鵜呑みにせず、「この人は、どのような立場で情報を発信しているのだろうか?」と、ちょっと立ち止まって疑ってみてください。もしかすると、「大学教授」「医学博士」の発言の中には、無責任で根拠のない、しかも自分の利益のための情報が含まれていることもあるもかもしれません。

 

[参考資料]

(※1)Towler A, et al. Effects of trainer reputation and trainees' need for cognition on training outcomes. J Psychol. 2006;140(6):549-64.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17144151別ウインドウで開きます 

 

<アピタル:これって効きますか?・健康・医療情報の見極め方>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/kiku(アピタル・大野智)

アピタル・大野智

アピタル・大野智(おおの・さとし) 大阪大学大学院准教授

大阪大学大学院医学系研究科統合医療学寄附講座 准教授/早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 客員准教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大医学部)卒。主な研究テーマは腫瘍免疫学、がん免疫療法。補完代替医療や健康食品にも詳しく、厚労省『「統合医療」情報発信サイト』の作成に取り組む。