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 今回もADHD(注意欠陥・多動性障害)が疑われる「生きるのがつらい女性」、リョウさん(30代前半・独身一人暮らし)のお話を続けていきます。今回はリョウさんが最近、お酒を飲み過ぎてしまうというお話です。(リョウさんは、架空の人物です)

 リョウさんはこれまでも述べてきたとおり、職場でうまくいかず、女友達とも生活様式や価値観が合わなくなってきていて、恋人はいますが、いつも「二番目の女」なので手放しには依存できないことなどから、なんだかすっきりしない毎日を送っています。

 そんな憂さをはらしてくれるのが、お酒でした。

 以前から好きだったお酒ですが、近頃では量が増え、飲んだ夜のことをあまり覚えていない日も出てきました。なんとかお酒を減らそうと思いながらもなかなかうまくいかず、なにかと理由をつけて飲むようになりました。以前は皆無だった二日酔いもするようになり、翌日お酒の臭いをさせてはいないかとヒヤヒヤしながら仕事にいく日もあります。

 リョウさんにとって、お酒は心の痛み止めのようなものです。

 お酒を飲んでいる間は一瞬でも悩みを忘れられますし、体温が上がって体もふわっとして気持ちも大きくなります。「なんであんなにいちいち悩んでいたんだろ。まあいっか」と気楽になれるのです。

 しかし最近の飲み方は、ちょっと問題になりつつあるようです。これがエスカレートしていくと、いずれはアルコール依存という問題へと発展しかねません。

 

 成人ADHDの特徴がある3199人を対象にした米国の研究によると(Kessler et al., 2006)、お酒や薬物に依存してしまう「物質使用障害」は、15.2%に見られました。これは、ADHDでない方の有病率の3倍にあたる割合でした。実に多くのADHDの方が、アルコールや薬物の問題を抱えていることがわかります。「お酒を飲み過ぎる」という行動の背景に、ADHDが隠れていたということもよくあるのです。

 この調査では、ADHDの方の38.3%にうつ病などの気分障害が見られ、47.1%に不安障害が見られることも分かりました。これはかなり高い割合です。中にはこうした落ち込んだ気分や不安を解消するためにお酒などに頼っている方もいらっしゃるのかもしれません。リョウさんのように。

 

写真・図版

 また、日中の強烈な眠気で仕事や学業に支障をきたしていたり、「あれもしたい」「これもしたい」「こうしなくちゃ」と次々にアイデアが浮かんで、頭の中が始終忙しくて困っていたりするADHDの方の中には、眠気をやりすごしたり、頭の中のざわつきをしずめたりするために、コーヒーをがぶ飲みしている人もいるかもしれません。

 しかし、コーヒーや紅茶、緑茶や、エナジードリンクなどに含まれるカフェインも、あまりに急に大量に飲み過ぎると、胃痛や吐き気といった体の症状だけでなく、心拍数が増えて不安や焦燥感に襲われるといった精神症状を引き起こします。最近は「カフェイン中毒」という言葉をよく耳にするようになりましたね。

 

 お酒や薬物、カフェインといった特定の物質の他にも、ADHDの方ののめり込みやすいものとして、ギャンブル、恋愛、最近はインターネットなどが挙げられます。また、それらに伴う借金などのお金の管理の問題もあります。

 こうした問題によって、どのように社会生活に影響が出ているかは、ADHDの診断をする面接の中で尋ねる項目に含まれています。それほど、ADHDの方に高頻度に見られる問題といえます。しかし、実際には、これらの問題の背景にADHDが関連しているとは気づかず、ただの「自分のわがまま」「不摂生」「だらしなさ」だと誤解している人が多いようです。

 

 さて、リョウさんはどうしたらお酒の問題を克服できるでしょうか。

 なぜお酒が必要なのか。お酒ではなく、リョウさんが本当に欲しかったものに注目していくと解決は早いでしょう。

 リョウさんは、ただ単に酔っぱらった感覚が好きなのでしょうか、お酒の味が好きなのでしょうか。そうではありませんね。もちろん喉(のど)が渇いていたわけでもありません。

 ひとりでもお酒を飲みましたから、社交の場が苦手でお酒で勢いをつけるといった理由でもありません。

 これまでの仕事、友人、恋愛の悩みが積もり積もって、うつうつとした気分を晴らしたい、嫌な現実から目をそらしたい、この先の将来の不安を一瞬も忘れたい・・・そんな理由からついつい飲み過ぎてしまっていたのです。

 だとすれば、これらの問題をお酒以外の方法で解決できれば、スムーズにお酒をやめることができそうです。

 

 次回から、リョウさんが少しずつ立ち上がっていきます。

 

【引用文献】

Kessler et al. 2006 The prevalence and correlates of adult ADHD in the United States: Result from the national comorbidity survey replication. American Journal of Psychiatry, 164, 716-723.

 

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【大人のADHDの集団認知行動療法研究の参加者の募集を終了しました】

 こちらで募集させていただいておりました、大人のADHDの特徴で、日々の生活でお困りの方を対象にした集団認知行動療法(グループカウンセリングの一種)の研究は、おかげさまで多数のご応募をいただき、定員に達しましたので、終了致しました。

 今後はインターネットを用いた同様のプログラムや、福岡や東京以外の場所での提供を予定しております。情報をご希望の方はこちらまで。

https://jp.surveymonkey.com/r/DVHDQT8別ウインドウで開きます

 

<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。