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 医学・医療の領域で、その情報の信頼性が高いか低いかを判断する基準として重要なのは、その情報がどのような方法で検証されたものかを確認することです。今回は「症例・対照研究」について取り上げます。

 

 ▼症例・対照研究は、病気の予防や原因を探索するために有用

 ▼対照群があるため統計的に比較検討ができる

 ▼さまざまなバイアスの影響の可能性があるため注意が必要

 

 研究デザイン(方法)を、情報の信頼性が高いものから順番に並べたものが下の表になります。

 

 前回とりあげた「症例報告」は、ある患者さんの診断や治療、その後の経過について詳しくまとめたもので、新しい病気の診断法や治療法の発見につながる重要な研究方法です。しかし、情報としての欠点に「偏り(バイアス)」や「偶然」の入り込む余地があることを指摘しました。さらに、症例報告の情報だけでは、その治療法を何人受けたら何人に効果があるのかの評価ができません。また比較する「対照群」がないため、既存の治療法と比べて優れているのかどうかも症例報告の情報からは判断ができません。

 

 ■「対照群」は、なぜ必要なのか?

 では、なぜ比較する対照が必要なのでしょうか。次のような場合を例に考えてみましょう。

(注:架空の話です)

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【大腸がんの予防に食物繊維?】

食物繊維は、ヒトの腸をきれいにし、大腸がん予防に良いといわれています。裏を返せば、大腸がんになってしまった人は、食物繊維の摂取量が少ない可能性があります。そこで、食物繊維に大腸がんを予防する効果があるのかを調べるため、大腸がん患者100名に食事調査を行いました。その結果、100名の食物繊維摂取量の平均値は、1日あたり10gでした。

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 はたして、この「10g」という数字は、少ないのでしょうか?それとも、多いのでしょうか?大腸がん患者とは別の比較する「対照」がないと、少ないのか多いのか判断できません。

 そこで、重要になってくるのが、比較するための「対照群」になります。「大腸がんになっていない人」を「対照群」として設定し、食物繊維の摂取量を調べてみてはどうでしょうか。その結果、「大腸がんになっている人」(症例群)と「大腸がんになっていない人」(対照群)の食物繊維の摂取量を比較して、「大腸がんになっていない人」の摂取量が多ければ、「食物繊維は大腸がん予防に効果あり」といえる可能性がでてきます。

 図で描くと、このような感じになります。

 

 このような研究方法を、「症例・対照研究」と言います。教科書の定義としては「疾病の有無などにより選択した集団に対し、過去にさかのぼって生活習慣などの要因を調べ、疾病発症との関連性を明らかにする研究」とされています。「症例=ケース」、「対照=コントロール」ということで、「ケース・コントロール研究」と呼ばれることもあります。

 

 ■「症例・対照研究」で気をつけなければいけないこと

では、この「症例・対照研究」の情報には、落とし穴はないのでしょうか?

もっとも気をつけなければならないのは「バイアス」です。バイアスとは、研究結果に「偏り」を生じさせ、本来の姿を歪めるものです。

 「バイアス」には、大きく次の3つがあります。

 ● 選択バイアス

 ● 測定バイアス

 ● 交絡バイアス

 

 「選択バイアス」とは、症例群、対照群ともに対象者の選び方に偏りがあって歪んだ結果を導く誤りです。例えば

 ・症例群は女性ばかり、対照群は男性ばかり

 ・症例群は高齢者ばかり、対照群は若年者ばかり

などです。

 

 「測定バイアス」とは、情報の取り違えや調査方法が不十分なために集めるデータが偏ってしまい歪んだ結果を導く誤りで、「情報バイアス」とも言います。例えば、次のようなことが考えられます。

 ・今摂っている食物繊維の量は、病気になる前の量と同じか?(病気になったことで食物繊維のことを気にかけるようになり、多めに見積もることもある)

 ・昔のことを聞いてもちゃんと思い出せるか?(「1ヶ月前の今日に何を食べていたか?」と質問されても即座に答えられないように人の記憶は曖昧です)

 ・病気に罹患している人とそうでない人で記憶は同じか?(病気の人ほど熱心に過去のことを思いだそうとするかもしれない)

といったものがあります。

 

 「交絡バイアス」とは、交絡因子(第三の因子)による影響で歪んだ結果を導く誤りです。

例えば、「大腸がん」の予防や発症に影響をおよぼしている因子としては、これまでの研究結果により、予防に良いとされる「運動習慣」や、逆に発症リスクとされる「肥満」「飲酒」「赤肉・加工肉の摂取」などがあります。今回、架空の話でとりあげた「食物繊維」は、表向き関係性が認められたとしても、実はその裏で他の「隠れた真の原因」があるのかもしれません。

交絡バイアスについて図で描くとこのようになります。

 

 ですから、これらのバイアスの影響を踏まえると、症例・対照研究の研究結果による情報は、必ずしも「厳密」とは言えないこともあり、少し注意深く吟味していかなければなりません。また、症例・対照研究は、ある病気にかかった人(症例)とその病気にかかっていない人(対照)とを比較検討する研究方法ですので、その調査対象となった一つの病気のことしか調べることができないという弱点・短所があります。ですから前述の大腸がんに関する症例・対照研究では大腸がんに関することしか調べることができず、胃がんや肺がんのことを調べようと思ったら、改めて別の症例・対照研究を実施しなければなりません。

 とはいえ、「症例・対照研究」は、「症例報告」とは違い、比較検討できる「対照群」があるため、「症例群」が「対照群」と比べて「○倍疾病に罹るリスクが高い」というように、そのリスクの大きさなどを数字で表すことができます。一方、「症例報告」は、リスクの大きさや治療の効果を数字で表すことができません。つまり、具体的な影響や効果の程度を知ることができるという点で「症例・対照研究」による情報の信頼性は「症例報告」より高いといえます。

 なお、一般的に「症例・対照研究」は、観察する人の数は数百人規模で実施されます。また、研究の手間を考えると、症例群と対照群にそれぞれアンケート調査をしたり、カルテの情報を調べたりするだけですので、比較的短期間で研究を終えることができます。一方、次回の連載で取り上げる「コホート研究」は、観察する人の数は数千人?数万人規模になり、また観察期間も数年間、場合によっては10?20年間に渡って調査を続けなければ研究を終えることができません。比較的手間をかけずに、研究を実施できる点は「症例・対照研究」のメリットといえるかもしれません。

 

 今回紹介した、「症例・対照研究」の利点と欠点についてまとめると次のようになります。

 <利点>

 ◎ 対照群(コントロール群)がある

 ◎ 予防効果や治療効果の程度を、割合などの数字で表すことが(一応)できる

 ◎ 既存の治療法と比較して、治療効果が優れているのかどうか(一応)わかる

 ◎ 手間も比較的少ない

  ・参加者(観察される人)の数は、数百人

  ・研究期間(観察期間)も短い

 <欠点>

 × かなり厳密さに欠ける:バイアスの問題

 × 一つの研究で一つの病気しか調べられない

 

 次回は、コホート研究をとりあげます。

 

 【補足】

 2015年に厚生労働省が発表した「日本人の食事摂取基準」では、食物繊維の目標量は以下のとおりになっています。

 男性(18~69歳):1日あたり20g以上(※70歳以上は19g以上)

 女性(18~69歳):1日あたり18g以上(※70歳以上は17g以上)

 なお、『理想的には 24g/日以上、できれば 14g/1,000 kcal 以上を目標量とすべきである』とも記載されていますので、この連載が、ご自身の食生活を見直すきっかけになれば幸いです。

 

<アピタル:これって効きますか?・健康・医療情報の見極め方>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/kiku

 (アピタル・大野智)

アピタル・大野智

アピタル・大野智(おおの・さとし) 大阪大学大学院准教授

大阪大学大学院医学系研究科統合医療学寄附講座 准教授/早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 客員准教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大医学部)卒。主な研究テーマは腫瘍免疫学、がん免疫療法。補完代替医療や健康食品にも詳しく、厚労省『「統合医療」情報発信サイト』の作成に取り組む。