[PR]

 「お腹の風邪」というのは、吐いたり下痢をしたりお腹が痛くなったりする状態のことを言いますね。熱がある時もない時もあります。外来診療をしていて「お子さんは胃腸炎ですね」と言うと「え?前のお医者さんは『お腹の風邪』って言ったのに」と驚かれる人がいますが、胃腸炎とお腹の風邪は同じことです。ウイルスや細菌が消化管に入って炎症を起こし胃や腸の動きが悪くなるので、お腹が張ったり気持ちが悪くなって吐いたり下痢をしたりします。

 症状に着目して、「嘔吐下痢症」と呼ぶ場合もあるし、ウイルスが特定できればロタウイルス感染症、ノロウイルス感染症といいます。たまに保育園などで「感染性のものかどうか診てもらってください」と言われたお母さんが来ますが、お腹の風邪は感染性です。咳(せき)や鼻水といった普通の風邪もうつりますからね。わずかなウイルス量でもうつりやすい有名なノロ・ロタウイルス感染症については去年書きましたので、こちらをご覧下さい。

 

 お腹の風邪は、医学用語で「急性胃腸炎」といいます。ほとんどはウイルスが原因です。つい最近、改定された「小児急性胃腸炎診療ガイドライン2017年版」の内容も入れたお話をします。

 子どもの機嫌が悪いと思っていたら突然吐いたという場合、考えられる状態や病気はなんでしょう。月齢が小さい赤ちゃんはげっぷが出ていなかったとか、大きい赤ちゃんでもハイハイした拍子に吐くなどあまり深刻でないことが多いです。また、大きい子でも咳で吐く場合は胃腸炎ではありません。子どもはいろいろな理由で嘔吐するので、耳のようにお腹から離れているところが痛くても吐きますし、尿路感染症でも、髄膜炎や脳炎でも吐きます。そのため、他の症状をよくみましょう。

 また、家族や保育園・幼稚園、学校といったその子の周囲で嘔吐・下痢をした人がいるでしょうか?新鮮でない生モノや、あまりきれいでない水・食品を摂っていないでしょうか?最近、海外旅行をしていないでしょうか?

 40℃以上の発熱があって便に血が混ざっていたら腸管出血性大腸菌O157のような細菌性胃腸炎かもしれません。頭を痛がり意識がおかしくなったら、髄膜炎や脳炎かもしれません。嘔吐と下痢(発熱や腹痛があることも)以外に症状がなく、40度以上の発熱や血便がなければ、おおむね急性ウイルス性胃腸炎つまり、お腹の風邪でしょう。

 

 「ノロウイルスが原因かどうか病院で調べてもらってください」と保育園などから言われることがあるようです。ノロウイルスの迅速診断は3歳未満、65歳以上の患者さんは、保険で行うことができます。それ以外の年齢では自費になってしまうので、医療機関では通常、検査しないことが多いです。ロタウイルス感染症、アデノウイルス感染症は全年齢が保険で検査できますが、迅速診断キットを置いていない医療機関もあります。原因を特定しても、ウイルスは体からいなくなるのを待つほかなく、症状を軽くする支持療法しかできません。胃腸炎治療の目的は脱水の予防と改善です。ノロ、ロタ、アデノでも、それ以外のウイルスでも脱水治療のやり方は変わりません。

 では、脱水かどうかはどう見極めたらいいでしょうか。軽症から中等度の脱水だと、ぐったりしたり、逆に落ち着きがなかったりします。喉(のど)が渇き、眼がくぼみます。また、涙が減ったり、口の中が乾いたり、手足が冷たくなったりします。一番わかりやすいのはお腹の皮膚かもしれません。健康な子はお腹の皮膚をつまむとすぐに元に戻りますが、中等度の脱水の場合お腹のシワが戻るのに2秒未満かかり、重度の脱水だと2秒以上かかります。どれにも当てはまらず元気があれば、すぐに医療機関に行かなくてもいいでしょう。

 重度の脱水があれば点滴が必要ですが、中等度以下の脱水は経口補水液を飲みます。これは点滴と同じくらい効果的です。ガイドラインには、「脱水のない、もしくは中等度以下の脱水あるいは小児急性胃腸炎に対する初期治療として、経口補水療法は推奨される」とあります。吐いていても5ml程度を5分ごとに与えるように、ともあります。5mlはティースプーン(小さじ)1杯の量です。

 よく外来診療をしていて聞かれるのは、「母乳やミルクはあげていいですか?」ということです。母乳はいつも通りに飲ませて構わないし、ミルクも希釈せずに普通の濃さのミルクをあげてください。また、乳糖を除去した治療用ミルクでなくて構いません。また、食事は早い段階で再開していいのです。昔は、「お腹を休めるために食べさせないようにしましょう」と言っていました。私が研修医のときにも絶食にして重湯から徐々に普通食にする指示を書いたことがあります。実はこのやり方はもう、古いんです。1980年代後半からは、「脱水が改善した後は早期にミルクや食事を開始したほうが、回復が早い」という論文が見られるようになったと、ガイドラインに書いてあります。家で経口補水液を飲んでいて、本人が食べられる・食べたいと言った際には、食事をあげてみましょう。医学的根拠はあまりないのですが、念のため脂肪の多い食事や糖分の多い飲料は避けたほうがいい、とも書いてあります。

 そして、お腹の風邪の際に医師が薬を出してくれないことを不満に思う人がいるかもしれませんが、吐き気止めや下痢止めの薬は勧めないし、生後6ヶ月未満は「禁忌」、2歳未満は「原則禁忌」です。むしろ、そういった薬はお腹の動きを止めてイレウス(腸閉塞)を起こしてしまう危険性があります。抗菌薬(抗生物質)も、お腹の風邪は多くがウイルス性なので効果がなく、推奨されません。それよりは予防が大切。家族で胃腸炎の症状が出た際の汚物の処理は前述の記事を参考にしてください。

写真・図版

 

 また、ロタウイルスワクチンを接種することによりアメリカでは68.6%の接種率で5歳未満のロタウイルス胃腸炎による入院が94%も減りました。そして、日本でもロタウイルスワクチン導入後に、胃腸炎関連けいれんも減少しました。

 これはガイドラインにないことですが、お腹を痛がる際には温めると少し楽になるようです。温めた濡れタオルをビニールに入れてお腹に当てるとか、使い捨てカイロや湯たんぽをタオルで包んで当てるなどしてみてください。冬から春にかけて胃腸炎が増えますが、苦しむ子が1人でも少なくなりますように。

 

<アピタル:小児科医ママの大丈夫!子育て>

http://www.asahi.com/apital/column/daijobu/(アピタル・森戸やすみ)

アピタル・森戸やすみ

アピタル・森戸やすみ(もりと・やすみ) 小児科医

小児科専門医。1971年東京生まれ。1996年私立大学医学部卒。NICU勤務などを経て、現在はさくらが丘小児科クリニックに勤務。2人の女の子の母。著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』(メタモル出版)、共著に『赤ちゃんのしぐさ』(洋泉社)などがある。医療と育児をつなぐ活動をしている。