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 複数回にわたって、情報の信頼性を判断するための研究方法(デザイン)について解説してきました。今回は、「食物繊維が大腸がん予防に有効かどうか」を検証した研究結果に関して、それぞれの研究デザインに沿って深読みしてみたいと思います。

 

 ▼医学研究は、基礎研究からはじまり観察研究、比較試験と検証が続く

 ▼観察研究で有効性が立証されたものが、比較試験で否定されることもある

 ▼ただし、ランダム化比較試験の結果も、完全無欠の情報ではない

 

 おさらいの意味も込めて、繰り返しになりますが研究方法(デザイン)の一覧表です。

 

 医学研究は、一般的には、細胞や動物を使った実験室での「基礎研究」からはじまり、対象者の経過を観察する「観察研究」、さらに対象者に操作をする比較試験といった様々な段階で検証されることがあります。それぞれの研究方法(デザイン)に関する詳細な解説は過去の連載を参照してみてください。

 ◎経験談(http://www.asahi.com/articles/SDI201707240272.html

 ◎権威者の意見(http://www.asahi.com/articles/SDI201708081324.html

 ◎細胞実験、動物実験(http://www.asahi.com/articles/SDI201708151674.html

 ◎症例報告(http://www.asahi.com/articles/SDI201709052928.html

 ◎症例・対照研究(http://www.asahi.com/articles/SDI201709113281.html

 ◎コホート研究(http://www.asahi.com/articles/SDI201709203719.html

 ◎ランダム化比較試験(http://www.asahi.com/articles/SDI201709264149.html

 

 なお、「システマティックレビュー」については、まだ解説をしていませんが、これまでに紹介してきた「ランダム化比較試験」や「コホート研究」「症例・対照研究」などをとりまとめて再評価したものがシステマティックレビューになります。ですので、今回の記事が「システマティックレビュー」(もどき)だと考えてもらえればと思います。

 

 話しを本題に戻すと、一般的に、ある病気の予防法や治療法に効果があるのかどうかの検証は、研究に手間のかからない(裏を返せば情報の信頼性が低い)方法からおこなわれていきます。では、これまで架空の話として紹介してきた「大腸がんの予防に食物繊維?」という話は現時点でどこまで検証されてきているのでしょうか?

 

「食物繊維と大腸がん予防」に関する研究の歴史

 食物繊維と大腸がん予防について言及されはじめたのは、1970年代に英国の病理学者バーキット博士が「食物繊維をたくさん食べているアフリカの民族では大腸がんが少ない」ことを報告したのが発端とされています。

 その後、以下のような研究結果が報告されてきました。

 

 ◎「食物繊維の消費量が多い国では、大腸がんの死亡率が少ない」

(※このような研究方法を「地域相関研究」といい、観察研究に分類されます。一般的に、情報の信頼性は、コホート研究より低いとされています)

 

 ◎「大腸がん患者の、健康だった頃の食物繊維の摂取量を調べると、健康な人より少ない」

(※「症例・対照研究」「コホート研究」になります)

 

 いずれの研究結果も、食物繊維が大腸がん予防に有効であることを支持する研究結果になります。

 また、日本においても、食物繊維摂取量の非常に少ない人で大腸がんリスクが高くなる可能性を示唆したコホート研究(※1)が報告(※2)されています。 さらに、2011年には、過去に世界各国から報告された症例・対照研究とコホート研究を系統的にまとめて検証した論文(※3)も報告され、食物繊維による大腸がん予防の可能性がより強く示唆されました。期待に胸が高鳴りますが、一方で「食物繊維による大腸がん予防」を否定するコホート研究の報告(※4)もありますので、予防効果を断定するのは禁物です。

 しかしながら、コホート研究までの結果では、「食物繊維は大腸がん予防に有効か?」は、おおむね支持されている状況と言えるかと思います。

 

「食物繊維と大腸がん予防」をランダム化比較試験で検証

 それでは、情報の信頼性がより高いとされる「ランダム化比較試験」では、どのような結果が得られているのでしょうか?

 「食物繊維による大腸がん予防」を目的とした「ランダム化比較試験」の論文を米国国立医学図書館が運営している医学論文データベース(PubMed)を用いて検索してみました。

 ただ、この原稿を執筆している時点では、食物繊維を摂取してもらう群(介入)と摂取してもらわない群(対照)に分かれて、その後、数十年にわたって追跡調査をおこない、大腸がんの発生頻度を検証した論文は残念ながら一つもありませんでした。その代わり、大腸がんの前段階(「前癌病変」といいます)である「腺腫」(良性ポリープ)の発生を予防できるかどうかを検証した論文が複数ありましたので、とりあえず、それを一覧表にまとめてみます。

 

 表の右側に書かれている「有意差なし」というのは、「食物繊維を摂取してもしなくても差がなかった」という意味になります。つまり、「食物繊維は効果がなかった」ということになります。

 反対に食物繊維としてサイリウムを摂取すると逆効果の結果になっています。

つまり、コホート研究で支持されていた「大腸がんの予防に食物繊維?」を否定するような結果となってしまっています。

 

ランダム化比較試験の結果を批判的に吟味してみる

 ただ、ここで、もう少し論文の中身を詳細にみてみたいと思います。さらに批判的吟味もおこなってみましょう。

 

 1.「腺腫」=「大腸がん」というわけではない

 この表に挙げている「ランダム化比較試験」では、大腸内視鏡検査をおこなって腺腫(良性のポリープ)があった人を対象にしています。これは、ほとんどの大腸がんが腺腫から発生するということを前提に、腺腫を切除した後に、腺腫が再発しなければ、大腸がんはできないから大腸がんも予防できるであろうという推測のもとに試験が計画されています。(※この評価指標を「代用マーカー」といいます。)

 しかし、厳密には、大腸がんと腺腫は別のものです。

 「腺腫の再発率が変わらなかった」ことと「大腸がんの発生率が変わらなかった」ことは、同じ事を意味しているわけではありません、ですから、これらの試験によって「食物繊維による大腸がん予防」が完全に否定されたことにはなりません。

 

 2.試験期間が2~4年間というのは短すぎないか?

 この表では記載していませんが、それぞれの「ランダム化比較試験」では、腺腫が再発したかどうかを、2~4年間(試験によって観察期間が異なっています)、追跡調査しています。しかし、実際には、腺腫から大腸がんが発生するのには、もう少し長い時間が必要とされていますので、1.の解説とも重なりますが、「食物繊維による大腸がん予防」を直接検証できているわけではありません。

 

 3.食物線維の種類・摂取量の違いは?

 食物繊維には色々な種類があります。今回紹介した論文では、小麦ふすま(小麦粒の表皮部分)、サイリウム(オオバコ科の植物の種子の皮殻から精製した食物繊維)などが用いられていますが、それ以外の食物線維ではどうなのか、現時点ではわかりません。また、摂取量が足りなかったために予防効果が得られなかった可能性もあります。

 

 4.食事指導の問題

 食事指導において、「高繊維食」の具体的な例として生野菜・果物が挙げられることがありますが、それよりも穀類・海草類の方がよいのかもしれません。また、調理方法においても、生野菜より煮た野菜の方がよいのかもしれません。

 

 5.参加者集団がハイリスク過ぎなかったか?

 この表に挙げている「ランダム化比較試験」では、腺腫ができた人を対象にしていますので、そもそも、健常者ではなく、「腺腫ができやすい」特別な人(ハイリスク集団)で検証している可能性があります。ですから、健常者でおこなった場合はどうなのかは、現時点ではわかりません。対象となる人が変われば、結果も変わってくるかもしれません。

 

 以上をまとめると、「大腸がんの予防に食物繊維?」については、まだ、最終的な結論は出ていないということになるのだと思います。個人的には、「大腸がんの予防に食物繊維?」は、まだ可能性の残された興味深い仮説だと考えています。

 

 【参考文献】

※1 多目的コホート研究(JPHD study)(http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/286.html別ウインドウで開きます

※2 Otani T, et al. Dietary fiber intake and subsequent risk of colorectal cancer: the Japan Public Health Center-based prospective study.Int J Cancer. 2006;119(6):1475-80

(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16642466別ウインドウで開きます )

※3 Aune D, et al. Dietary fibre, whole grains, and risk of colorectal cancer: systematic review and dose-response meta-analysis of prospective studies. BMJ. 2011;343:d6617.

(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22074852別ウインドウで開きます )

※4 Fuchs CS, et al. Dietary fiber and the risk of colorectal cancer and adenoma in women. N Engl J Med. 1999;340(3):169-76.

(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9895396別ウインドウで開きます )

 

<アピタル:これって効きますか?・健康・医療情報の見極め方>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/kiku(アピタル・大野智)

アピタル・大野智

アピタル・大野智(おおの・さとし) 大阪大学大学院准教授

大阪大学大学院医学系研究科統合医療学寄附講座 准教授/早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 客員准教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大医学部)卒。主な研究テーマは腫瘍免疫学、がん免疫療法。補完代替医療や健康食品にも詳しく、厚労省『「統合医療」情報発信サイト』の作成に取り組む。