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 いま定年延長は、ひとつの大きな流れです。朝日新聞社も定年をこれまでの60歳から65歳に変更しました。50代に入った私にとっては、定年までの時間が約1.5倍になる計算で、何とも複雑な気分です。おぼろげながら見えていたはずのゴールが(って、定年がゴールと考えるのも古くさい気がしますが、一つの区切りであることは確か)、再び姿も見えない先に延ばされてしまったような・・・。

 でも、世の中を見渡すと、働く高齢者は全然珍しくない状況です。65歳以上の高齢者の就業率は5年連続で増加し、昨年は男性が30.9%、女性が15.8%。男女合わせて22.3%と、およそ5人に1人が働いています(※1=本文末にURLなど)。これは米国(18.6%)、カナダ(13.1%)などを上回り、総務省によると主要国の中で最も高い水準なのだそうです。

 その下の世代、60~64歳だと、男性は76.8%、女性も50.8%で、仕事をしている人がもう多数派です。人生100年となって、「老後」の生き方は、これからもっと大きく変わっていくのでしょう。「君たちはどう生きるか」といえば、吉野源三郎の名著ですが(最近、漫画化されてヒットしていますね)、若者ばかりではなく、シニアもこう問われているのかもしれません。

 人生の後半をいかに過ごすにしろ、大事なのが健康。若い時分と比べて、色々とガタが来やすいお年頃、丁寧にいたわっていかねばなりません。ところが最近、栄養が十分とれていない高齢者がじわりと増えてきています。

 先日発表された2016年の国民健康・栄養調査の結果では(※2)、65歳以上で低栄養傾向(BMIが20以下 ※3)の人が17.9%を占めます。男女別に見ると、男性12.8%、女性の方が高くて22%で、女性はこの10年で約5ポイント増えています。

 低栄養状態が続くと、筋肉量が減り→動けない、動きたくないという身体活動量の減少につながり→それがまた食欲減退へと結びついて→さらに低栄養が進むという、衰弱のスパイラルに陥りがち。低栄養は、要介護状態や死亡のリスクを高めることがわかっています。

 ではどんな食事がいいのか。「特定の食品群や栄養素ではなく、色々な食品をまんべんなく食べることが重要です」と東京都健康長寿医療センター研究所研究員の横山友里さんは話します。同研究所で栄養疫学の視点から高齢者の食生活と健康の関係を研究しています。

 同研究所では、食事調査を通じて、高齢者がどれだけ色々な食品を食べているかを調べています。1週間に何をどれくらい食べているかを質問。肉類、牛乳など10の食品群について「ほぼ毎日食べる」場合は1点、それ以外は0点として合計点数を算出し、食品摂取の多様性を得点化する方法です。量は問わず、頻度に着目しているところが面白い。

写真・図版

 板橋区の65歳から85歳の高齢者181人に実施した調査の結果を分析すると、この食品摂取の多様性得点が高い人も低い人も、食事から取るエネルギー量(カロリー)は同じ程度なのですが、たんぱく質、ビタミンやミネラルなどの微量な栄養素は、多様性得点が高い人の方が多く取っている傾向でした。同じようにお腹をいっぱいにはできていても、栄養素の充実度合いが違っているということになります。

 横山さんらは、2012、13年に埼玉県鳩山町と群馬県草津町で実施した高齢者約千人のデータに基づき、多様性得点が(1)0点から2点、(2)3点から5点、(3)6点以上、の三つのグループに分け、筋肉量や身体機能との関連を見ました(※4)。すると、(1)よりも(2)、(2)よりも(3)と、得点が高いほど、全身の筋肉も手足の筋肉も豊かで、握力も強かったのです(統計的処理で、年齢や運動の習慣といったほかの要因の影響は取り除き、純粋に食生活の影響だけを分析しています)。

 また鳩山町と草津町で4年間追跡した調査では、多様性得点が高いほど、握力、歩く速度という身体機能の衰えが少ないという結果が出ました(※5)。

 先に書いたように、多様性得点が高い人の方が、栄養素の密度が高い食事をしています。10の食品群のうち、肉、魚、卵、牛乳、大豆製品は、たんぱく質が豊富。緑黄色野菜と果物はβカロテンやビタミンCを多く含みます。横山さんは「単独の栄養素ではなく、これらの栄養素の複合的な効果で、筋肉量や身体機能の低下が抑えられたと考えられます」と話します。「体にいい」とうたう食べ物をことさらがんばって食べなくても、普段の食事に色々な食材を使っていれば、それが結果的に、毎日を健やかに過ごす力を与えてくれるというわけです。人間の社会も食生活も、多様性が大事。

 健康長寿の目標として、同研究所が示しているのは、10食品群の中で毎日7点以上を食べること。「7点はけっこう高い目標です。食事調査をしていると、4~5点という人が多いですし、3点という人も珍しくはありません」と横山さん。うーむ、私だって胸に手を当てて振り返ると、海藻類、いも、魚あたりは、毎日食べているかどうかあやしい・・・。

 とはいえ、10の食品を食べたかどうかチェックするだけなら、比較的簡単に生活に取り入れられそうです。横山さんも「年を取って食べる量が減ってしまったという方も多いでしょうが、量にはこだわらず、少しずつで結構ですので、多様な種類の食べ物を食べるよう心がけてみてください」と話していました。

◇リンク・脚注

※1 統計からみた我が国の高齢者(65歳以上)/高齢者の就業(総務省)

http://www.stat.go.jp/data/topics/topi1030.htm別ウインドウで開きます

※2 平成28年「国民健康・栄養調査」の結果(厚生労働省)

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177189.html別ウインドウで開きます

※3 BMI(ボディマスインデックス)は、体格のバランスをみるための体格指数のひとつです。肥満ややせの判定基準に使われるだけでなく、低栄養状態かどうかを判断する指標としても用いられています。計算式は「体重(kg)÷(身長(m)×身長(m))」。

※4 Yokoyama Y et al., J Nutr Health Aging, 2016; 20: 691-6

※5 Yokoyama Y et al., J Nutr Health Aging, 2017;21(1):11-16.

 

<アピタル:食のおしゃべり・トピック>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/eat/

(大村美香)

大村美香

大村美香(おおむら・みか) 朝日新聞記者

1991年4月朝日新聞社に入り、盛岡、千葉総局を経て96年4月に東京本社学芸部(家庭面担当、現在の生活面にあたる)。組織変更で所属部の名称がその後何回か変わるが、主に食の分野を取材。10年4月から16年4月まで編集委員(食・農担当)。共著に「あした何を食べますか?」(03年・朝日新聞社刊)