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 ある治療が有効かどうかを証明するためには、裏付けとなる科学的根拠(エビデンス)が必要となります。しかし、その科学的根拠(エビデンス)があったとしても治療効果を保証する絶対的なものではありません。今回は、科学的根拠(エビデンス)を解釈するときの注意点について解説します。

 

 ▼治療の有効性を証明する科学的根拠を得るための最良の研究デザイン(方法)は「ランダム化比較試験」

 ▼ランダム化比較試験の結果は、治療効果を予測する最も信頼性の高い情報

 ▼ランダム化比較試験で有効性が証明された治療法を受けても治らない人がいる(医療の不確実性)

 

 ある治療法が病気の予防や治療に「効く」と主張するためには、研究対象となる人を無作為(ランダム)に二つの集団に分けて比べる「ランダム化比較試験」によって有効性が証明されなければなりません。ランダム化比較試験とは、下の図のような方法で行われる臨床試験になります。

 

 このランダム化比較試験を実施することで、「新しい治療法」と「これまでの治療法」の効果の違いを数字で比較することができるようになり、どちらの治療法の効果が高いのか、より正確に明らかに明らかとなりますなります。そのため、ランダム化比較試験は、治療法の効果を検証する方法として一番優れたものであり、情報としての信頼性は一番高いものになります。

さらに、最近では、ランダム化比較試験などの研究結果を取りまとめて再評価する「システマティックレビュー」という研究方法もあります。これは、医学・医療の領域では世界共通の考え方です。情報の信頼性を判断する際の基準となる研究デザイン(方法)をまとめた表を示します。

 

ランダム化比較試験の結果を深読みしてみる

 さきほどのランダム化比較試験を解説した図の右側に描かれている「病気が治る割合」のグラフ、つまり治療効果を比較検討しているグラフに注目してください。グラフ部分を拡大したのが、下の図になります。

 

 グラフの縦軸は、治療効果の「高い←→低い」を表しています。縦軸の上の方には、治療効果が「高い」と書かれていて「100%」とはなっていません。これは、誤植や間違いではなく、ランダム化比較試験で効果が優れていることが明らかとなった治療法であっても「治療効果が100%」というわけではないことを示しています。

 繰り返しになりますが、ランダム化比較試験の結果は、治療効果を判定するために最も優れた方法で、情報としての信頼性・正確さは最も高いものになります。しかし、ランダム化比較試験を繰り返し行ったとしても、「治療効果が100%」という結果になることは、どれだけ医学が進歩したとしても残念ながらありません。

 これは、「ランダム化比較試験で有効性が立証された治療を受けても、治療効果が得られず病気が治らない人がいる」ということを意味します。そして、臨床試験の結果が示す数字は、あくまで確率でしかありませんので、ひとりひとりの患者さんにとって治療効果が得られるのか得られないのかは、その治療を受けてみなければわかりません。

 これを「医療の不確実性」といいます。

 

「ランダム化比較試験」がおこなわれていない治療法は効かない?

 「信頼性の高い正確な情報」であるはずのランダム化比較試験で効果が証明された治療法には「不確実性が伴う」と言われると、頭が混乱してしまった人がいるかもしれません。「不確実性」いう言葉には、うやむや、あやふや、不確かといったイメージが付きまとっていることも影響していると思います。

 では、視点を変えて、ランダム化比較試験がおこなわれていない治療法の効果を、どのようにとらえたら良いのかを考えてみたいと思います。

 科学的根拠(エビデンス)に関する重要な考え方に次のような言葉があります。

 

『Absence of evidence is not evidence of absence.(効くというエビデンスがないことは、効かないことを証明しているわけではない)』

 

 つまり、「ランダム化比較試験がおこなわれていない治療法の効果」について、正確な言い方をしようとするならば、効くか効かないか「分からない」ということになります。ともすると「科学的根拠(エビデンス)がある=効果がある」「科学的根拠(エビデンス)がない=効果がない」と考えがちですが、医学の領域で「効かない」と断言できるケースは案外少ないことを知っておいてください。ちなみに、「効かない」と断言するためには、臨床試験によって効果がなかったことを証明しなければなりません。

 

 ここで一旦整理すると、科学的根拠(エビデンス)の有無によって、治療法の効果を説明した場合、次のようになります。

 

◎ランダム化比較試験による科学的根拠(エビデンス)あり=効く

◎ランダム化比較試験による科学的根拠(エビデンス)なし=効くか効かないか分からない

 

 ここでポイントとなるのは、「効く」と言っても全員に効くわけではないという点です。ランダム化比較試験の結果は、「その治療法をおこなうと、どれくらいの確率でどれくらいの効果が得られるか」を数字で示してくれるものの、0か100、といった白黒はっきりつけられるわけではありません。灰色の濃さ(0と100の間)が分かるのが現実です。

 つまり、ランダム化比較試験の結果は、より白に近い灰色なのか、より黒に近い灰色なのかを示してくれるにすぎません。ですから、ランダム化比較試験で有効性が証明された治療をおこなっても、治る人がいたり、治らない人がいたりしてきます。そうすると、患者さんにとっては、治療をしても治るかどうかは、その治療をしてみないと分からない、ということになります。これが「医療の不確実性」という事です。とはいえ、自分にどのような結果がおこるか未来を予測する情報の精度としては、ランダム化比較試験の結果は正確で信頼性が高いものと言えます。

 一方で、ランダム化比較試験がおこなわれていない治療法は、その未来を予測する情報の精度が低い、あるいは情報そのものが存在しない、という状況になります。

 

◎科学的根拠(エビデンス)がある治療法を受けても、その患者さんに効くか効かないかは「分からない」(医療の不確実性)

◎科学的根拠(エビデンス)がなく、その治療法が、そもそも効くか効かないか「分からない」

 

 どちらにも「分からない」という言葉がありますが、その意味は全く異なることを、是非この機会に知っておいてもらえたらと思います。

 

<アピタル:これって効きますか?・健康・医療情報の見極め方>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/kiku(アピタル・大野智)

アピタル・大野智

アピタル・大野智(おおの・さとし) 大阪大学大学院准教授

大阪大学大学院医学系研究科統合医療学寄附講座 准教授/早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 客員准教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大医学部)卒。主な研究テーマは腫瘍免疫学、がん免疫療法。補完代替医療や健康食品にも詳しく、厚労省『「統合医療」情報発信サイト』の作成に取り組む。