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 ADHDが疑われる「生きるのがつらい女性」、リョウさん(30代前半・独身一人暮らし)は、仕事でのつまずきに悩んでいました。上司に確認せずに自己判断で仕事を進めて間違えたりするだけでなく、約束の時間に間に合わなかったり、焦って「やっつけ仕事」をしてしまったりと、ミスが絶えません。(リョウさんは架空の人物です)

 

 前回は、仕事でのつまずきを減らす3つのステップ(1)ミスしがちな仕事にとりかかる前に【立ち止まる】ステップ、(2)動き出す前に段取りを考える【計画立て】のステップ、(3)最後まで飽きずにやる気を継続させる【集中する】ステップのうち、一つ目の【立ち止まる】ことに取り組みました。

 今回からは、二つ目の【計画立て】のステップについて、考えます。

 

 ところで、今年も残すところあと2カ月半。みなさんは、年末までにやらなければならないことに、どんなことがありますか? 大掃除に年賀状の準備、年末までに仕上げなければならない仕事も多くあるでしょう。毎年同じようにバタバタするのはわかっているのに、「どうしよう。今年もまた、あれもしなくては、これもしなくてはと追いつめられるのだ」と思うと、うんざりした気持ちになりませんか?

 

 リョウさんにも、次のような悩みがありました。

①「どうしても気が重くて乗り気になれないことを先延ばししてしまう」

②「いざとりかかっても、思ったより時間がかかって途中で投げ出してしまう」

 どちらも、ADHDの方が時間管理をする中で、多く抱える悩みです。今回は①を取り上げていきます。

 

 「気が重いことを先延ばしする」背景に、ADHDの方の「脳の特性」があります。ADHDの方は、自分がもともと興味のあること以外にやる気を出すのが難しく、他の人が「義務だから」とやれることもなかなかこなせない傾向があります。「社会人だからこれくらい当たり前」という理屈が頭ではわかっていても、なかなかエンジンがかからないのです。

 

 解決策としては、大きく分けると次の3つが有効です。

 ここでは、ちょっと仕事を離れて、「年末の大掃除が憂鬱(ゆううつ)でしょうがない」というケースを例にとって説明していきます。

 

 解決策① 【自分にご褒美を設定する(自己報酬マネジメント)】

 気乗りのしない仕事と自分の「ぐっとくるもの」をペアにして、無理やりにでもやる気を引き出せるようにします(つまりご褒美作戦)。普段、見たい時にテレビを見て、食べたいときに食べたいものを好きなだけ食べて、寝たいだけ寝ていた・・・といういわゆる「ご褒美三昧」の生活を送っている方は、そのご褒美を、あえてとっておいて、仕事を終わらせた後に自分に与えてみるのです。

(例)

 いつもだらだらしてしまう。「あー大掃除しなくちゃ」と頭の片隅で思いながらも、ずっとつけっぱなしのテレビを見ながら、気づけばお菓子を食べていて、そのまま昼寝。こうしていつも一日が過ぎて行く。

→ 見たいテレビだけをビデオで録画しておいて、今日計画した大掃除をやり遂げたあとにゆっくりビデオを見ることにした。その方が罪悪感なく、すっきりとした気持ちでビデオを楽しむことができる。

 

 解決策② 【最初の1歩のハードルを下げる】

 仕事をできるだけ細かいステップに分解して、最初の1歩のハードルを下げることで、「これくらいならやれそう。すぐに結果が出そう」と自分のやる気を引き出します。

(例)

 大掃除というと、風呂やトイレなどの水回り、換気扇や排水溝など難所の多い台所、家中の窓、玄関など、考え出すときりがなくてうんざり。

→ とはいえ、最初の10分でできることを考えてみると、「大掃除に必要なものをネットで検索する」だった。このくらいならちょっとやれそうな気がする。

 

 解決策③ 【こまめに結果が出るように計画を立てる】

 みなさんも「応募してから3カ月以内に抽選結果が郵送される」懸賞よりは、「その場で当たりはずれがわかって商品がもらえる」スピードくじの方が、魅力的だと思いませんか? 誰だって、「すぐに結果がもらえるものほど魅力を感じる」ものです。反対に「時間的に遠くのものには魅力を低く見積もる」傾向もあるようです。この後者の傾向を「報酬遅延勾配」といいます。ADHDの方は、この報酬遅延勾配が急で、つまり、「結果がすぐに出ないとわかると急激にやる気をなくす」のです。反対に言えば、小さくてもこまめに早く結果が出るような計画にすることで、やる気を引き出すことができます。

(例)

 これまで大掃除といえば、「終わるまでやること。掃除の終わりが終了時間」と思ってやっていたので、徹夜でこなす羽目になっていた。「掃除がすべて終わる」という結果が出るまでに非常に時間がかかり、最初からやりたくなくなっていた。

→ こまめに結果を確認できるように、「まずは玄関! いらない靴を捨てる、玄関を掃く、玄関をぞうきんがけする、しめ縄を飾る、玄関終わり!」と細かいステップに分けて、その都度達成感を味わえる計画にした。小さな積み重ねでいいんだと思えると、少しうんざり感が減った。

 

写真・図版

 いかがでしたでしょうか? ADHDの方でなくとも参考になりそうなやる気の出し方の数々でした。最初の一歩のやる気を出すことが、誰にとっても難しいことなのです。ここをクリアできれば、次の段階です。次回はもう少し仕事に特化した計画立てについてご紹介します。

 

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【大人のADHDの集団認知行動療法研究の参加者の募集を終了しました】

 こちらで募集させていただいておりました、大人のADHDの特徴で、日々の生活でお困りの方を対象にした集団認知行動療法(グループカウンセリングの一種)の研究は、おかげさまで多数のご応募をいただき、定員に達しましたので、終了致しました。

 今後はインターネットを用いた同様のプログラムや、福岡や東京以外の場所での提供を予定しております。情報をご希望の方はこちらまで。(https://jp.surveymonkey.com/r/DVHDQT8別ウインドウで開きます

 *9月中は応募が殺到しておりアンケートフォームの上限を超えたため、送信がうまくできない不具合があったようです。お詫び致します。

 

<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。