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 科学的事実を表現する際、その伝え方や言い回しによって、人の受け取り方は変わってきます。例えば「手術の際、わずかであるが、合併症を起こす可能性がある」と説明されるよりも「手術が成功する確率は、ほぼ100%」と説明された方が、内容としては同じことを言っているにも関わらず安心感が得られやすいのではないでしょうか。今回は、人であれば誰しもが持つ、情報の受け取り方に際しての心理効果について解説します。

 

 ▼人は情報を受け取る際、さまざまな心理効果の影響を受ける

 ▼その結果、情報を歪んだかたちで認知、処理してしまうことがある

 ▼人はもともと騙されやすいということを自覚することが、情報を鵜呑みにしないために重要

 

 いきなりですが、下の図を見てください。

 

 左側の瓶には、「タウリン1g配合」、右側の瓶には、「タウリン1000mg配合」と書かれています。

 1g=1000mgなので、どちらも、同じ量のタウリンが配合されているわけですが、なんとなく「1000mg配合」と書かれている方が、たくさん入っているように感じませんか?

 同じ内容でも、数字データなどの見せ方を変えることで、理解や判断のされ方が異なってくることを「フレーミング効果」と言います。このように伝え方や言い回しを工夫して科学的思考を歪めてしまうような心理効果を狙った情報が世の中にはあふれています。

 

健康・医療情報に仕組まれた心理効果

 科学的思考を歪める心理効果として代表的なものを紹介します。読者の皆さんも目にしたり耳にしたりしたことがあるものが多いかもしれません。

 

【フレーミング効果】

 同じ内容でも、数字データなどの見せ方を変えることで、理解や判断のされ方が異なってくることを「フレーミング効果」と呼びます。例えば、「早期胃がんの治癒率は9割です」と「早期胃がんの死亡率は1割です」では受ける印象が違うのではないでしょうか。また、「タウリン1g配合」と書かれるより、「タウリン1000mg配合」と書かれた方が、タウリンが多く含まれているような印象を受けるといった例も先に紹介しました。

 

【ウィンザー効果】

 企業自らが臨床試験の結果などを一次データとして伝えるような無味乾燥な情報よりも、その商品の利用者などの第三者が訴える経験談・体験談の情報の方が、人の心理へ与える影響が大きくなる傾向があることが知られています。これを「ウィンザー効果」と呼びます。そのため、宣伝・広告には、「お客様の声」や「モニターの感想」など、数多くの経験談・体験談が掲載されています。

 

【権威への服従原理】

 人は権威のある者の言動には無意識に従ってしまう傾向があり、これを「権威への服従原理」と呼びます。健康食品の宣伝・広告に、「医学博士」「◯◯大学教授」などの専門家がしばしば登場するのは、この心理効果を狙っているものと考えられます。

 

【バンドワゴン効果】

 「これが流行している」と聞くと、人はその流行しているものに対して好意的にとらえる傾向があります。これを「バンドワゴン効果」と呼びます。「今、大流行」「巷で大人気」という言葉をみると、不思議とその商品が良い物に見えてくることがないでしょうか?もしあるとしたら、それはバンドワゴン効果かも知れません。

 

【同調現象】

 周囲の人間と同じ行動をしていると安心し、逆に自分だけが違う行動をしていると不安になることを「同調現象」といいます。例えば、宣伝・広告に「50代女性の7割が使用!」と書かれていたら、その商品をまだ使っていなかった場合、不安になってしまうことはないでしょうか。そして、その不安な気持ちを解消するために商品を購入することにつながってしまう可能性があります。

 

【シャルパンティエ効果】

 「鉄100kg」と「綿100kg」だと、「鉄100kg」の方が重いような印象を受けませんか?ほかにも「ビタミンCを2000mg配合」と書かれるより、「ビタミンCがレモン100個分!」と書かれた方が、ビタミンCが多く含まれているような印象を受ける、そんなことがないでしょうか?そのような錯覚による心理効果を「シャルパンティエ効果」といいます。

 

 ※ちなみに、業界のルールで、一般的にレモン1個につきビタミンCが20mg換算とすることが決められているようです。http://www.j-sda.or.jp/technology_and_regulations/regulations_and_guidelines04.php別ウインドウで開きます

 

人はだまされないようになるか?

 このような心理効果は、誰しもが持っているものです。つまり、人がだまされないようになるためには、人間が持つ心理効果に逆らうことが求められてきます。ですから、「人はもともとだまされやすい」と言うのが本来の姿なのかもしれません。

 

 この連載では、だまされないようにするために、情報の見極め方をテーマにさまざまなポイントやコツを紹介してきました。また、私自身、厚生労働省の委託事業として、以下のような健康・医療に関する情報の見極め方のコンテンツ作成にも取り組んできたりもしました。

 

◎「統合医療」情報発信サイト:情報の見極め方(http://www.ejim.ncgg.go.jp/public/hint/index.html別ウインドウで開きます

◎「統合医療」情報発信サイト:もう一歩進んだ「情報の見極め方」(http://www.ejim.ncgg.go.jp/public/hint2/index.html別ウインドウで開きます

 

 前回のコラムでも紹介した「情報の見極め方」は、「この情報、本当かな?」と立ち止まるときに役立つ「10カ条」があります。「もう一歩進んだ」は、さらに「情報を吟味しよう」「人に対する研究の種類を知ろう」「『根拠に基づく医療』(EBM)を理解しよう」「身近なところからはじめよう」の四つのポイントがあります。

 しかし、自分でこのようなことを言うのはおかしいですが、ポイントやコツが少し多すぎるかもしれません。これでは、覚えるのも大変です。

また、目にしたり耳にしたりする情報を、すべて一つ一つ、ポイントやコツに従ってチェックしていくのも現実的ではありません。

 

 逆説的な説明になるかもしれませんが、人が情報にだまされないようになるためには、「人はもともとだまされやすい」ということを常に意識しておくことが重要なのだと思います。

 そして、疑問に思ったことや分からないことがあったら、その情報を鵜呑みにせず、自分で調べる姿勢も忘れてはいけません。また、自分で調べるにあたっても、医療・健康に関する情報は、医学が進歩した現在でも不確実なことが多く、唯一絶対の正解はないということも知っておく必要があります。

 さらに、自ら調べても算数の答えのような正解がない中で、その情報とどのように向き合っていくのか、自分なりに考え続けるという面倒で厄介な作業に耐えることが、だまされないことの近道なのかもしれません。

 

<アピタル:これって効きますか?・健康・医療情報の見極め方>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/kiku(アピタル・大野智)

アピタル・大野智

アピタル・大野智(おおの・さとし) 大阪大学大学院准教授

大阪大学大学院医学系研究科統合医療学寄附講座 准教授/早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 客員准教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大医学部)卒。主な研究テーマは腫瘍免疫学、がん免疫療法。補完代替医療や健康食品にも詳しく、厚労省『「統合医療」情報発信サイト』の作成に取り組む。