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 インフルエンザの治療薬である「タミフル」と未成年者の異常行動の関係が問題になったことがありました。10年ぐらい前、マスコミで大きく取り上げられたので覚えていらっしゃる方も多いでしょう。10歳以上の未成年の患者にはタミフルの使用を差し控えるよう通達が出されました。

 この話は現在はどうなっているでしょうか。今年の11月に厚生労働省が発表した資料、「小児・未成年者がインフルエンザにかかった時は、異常行動にご注意下さい」(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000185998.html別ウインドウで開きます)が参考になります。ポイントは【抗インフルエンザウイルス薬の種類や服用の有無にかかわらず】、急に走り出す、部屋から飛び出そうとする、徘徊するなどの行動が報告されていることです。

 薬とは無関係に、インフルエンザという病気そのものが、異常行動を引き起こすことがあるのです。このことは当初から小児科医などの専門家は指摘していました。一方で、「インフルエンザでそんな症状が出るなんて聞いたことがない」という声もありました。私も、インフルエンザによる異常行動の症例を経験したことはありません。

 みなさんがインフルエンザにかかった未成年を観察した経験はどれぐらいあるでしょうか? 自分自身、兄弟姉妹、自分の子ども、親戚の子どもぐらいでしょうか。私は医師ですから小児のインフルエンザを診ることは診ますが、数はそれほど多くありません。年間に数例ぐらいです。

 では小児科の先生はどうでしょう? 1シーズンだけで100例を超える小児のインフルエンザを診る開業医はいくらでもいます。勤務医は外来だけではなく、周囲から紹介されてきた入院を要する重篤な症例を診ます。それに比べれば、私程度の乏しい経験で「インフルエンザは異常行動を起こさない」と言うことはできません。医療従事者でない方々の経験ではなおさらです。

 一般の人たちが、「インフルエンザで異常行動が起こるなんてこれまで聞いたことがない。タミフルを飲んだ後に異常行動が起こったのなら、タミフルが異常行動の原因に違いない」と考えてしまうのは、ある意味自然なことです。マスコミの報道も、そうした誤解を正すよりも助長するものがありました。インフルエンザだけでも異常行動が起こるという事実をもっと報道して欲しかったと私は考えます。

 インフルエンザだけで異常行動が起こるとしても、抗インフルエンザ薬が無罪と決まったわけではなく、薬が異常行動のリスクを上げる可能性は否定できません。継続して調査がなされていますが、結論は出ていません。ただ、いまだに結論が出ないということは、薬は異常行動のリスクを上げないか、上げるとしてもわずかであると言えます。

 薬がリスクを上げようと上げまいと、インフルエンザ単独で異常行動が起こりうるのは確かですので、注意が必要です。厚生労働省は、抗インフルエンザウイルス薬の種類や服用の有無によらず、未成年者がインフルエンザにかかったときは、「玄関や全ての部屋の窓の施錠を確実に行う」「ベランダに面していない部屋で寝かせる」「できる限り1階で寝かせる」などの対策を提言しています。

 現在は、タミフル以外にも抗インフルエンザ薬は数種類使えます。薬を使うことで有症状期間を短縮できますが、一方でもともと健康であればほとんどの場合インフルエンザは自然に治ります。未成年者のインフルエンザに対して抗インフルエンザ薬を使うかどうかは、主治医と相談してください。

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アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。

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