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 半世紀以上も自分の体と付き合ってきて、最近は色々とガタが出てきました。メガネがなくては文字が読めなくなりましたし、ちょっと無理をすると次の日がつらい。徹夜なんてもってのほか。20代のころは、元気なのが当たり前で、夜更かしも平気だったのになあ。

 そんな年寄りめいた思いに浸っていたら、現役の女子大学生たちが自分の体を知るための健康管理手帳を作っていると聞き、興味をひかれて話を聞きに行きました。

 手帳は「BEAUTY&HEALTH DIARY」という名前。日々の基礎体温の記録をメインに、体調、食事の記録欄のほか、基礎体温と美容の関係、体脂肪率とBMIからみた女性の体形、漢方医学からの日常生活のアドバイス、妊娠適齢期や卵子の解説など、10代後半~20代の女性の体に関する情報を載せています。月経初日から次の月経の前日までをCAT、月経の期間をKITTYと命名、猫をモチーフに、爽やかなターコイズ色の表紙で、手に取りやすい雰囲気。

 作っているのは、慶応大学環境情報学部で、渡辺賢治教授(漢方医学)のゼミに所属する学生らで構成するTeam BHDです。代表を務める3年生の金子紗由香さん(21)は「おしゃれ、カワイイを入り口に、健康について知ってもらい、考えてほしい」と話します。マイナスイメージでとらえがちな月経を、もっときれいになるチャンスとして見てほしいと。

 きっかけは、講義で女性の体についての話を聞いたことでした。月経が来ていても排卵がない場合があるなど、「自分の体のことなのに、知らないことばかりで驚きました」。大学を卒業したら就職して、結婚は30歳過ぎてから、子どもは35歳過ぎ。「周りの学生は、そんなライフプランを描いていますし、自分もそう考えていました。けれどもそれだと、妊娠を意識し始めた時には、体にとっては妊娠には遅い時期になってしまうと知りました」

 産む性であることも含め、女性の体について知り、考える機会を広めようと、同じような興味をもつゼミの学生と共に昨年5月にプロジェクトを立ち上げました。現在は卒業生も含め合計10人で活動しています。

 デジタルネイティブ世代なのに、手帳という形を選んだのは、「女の子は手帳が好き。スケジュールやノートを自分の好みに合わせて凝ってつけています」と金子さん。画面のサイズに制約されがちなアプリに比べ、長期的なトレンドがつかみやすく、診察などの際に医師にも見せやすいという、紙ならではのメリットもあるそう。記録欄は、月経初日を1日目に設定し、途中で挫折しても再開しやすいように工夫しています。企業や行政の協力を得て、昨年11月に初版を完成、高校や大学での出前授業を始めました。

 手帳を使ってもらった高校生、大学生に同意を得た上で調査も実施、集まった143人分のアンケートを分析したところ、75.5%が月経に何かトラブルを抱えていると答えました。一方で「月経が不順」と答えた37人のうち89%は実は正常な月経であるなど、自分の月経状態を正しく判断できていない人が多くいることも分かったといいます。「正常な月経日数は3日から7日の間、正常な周期は25日~38日とされますが、そもそも、それを知らない人が多いのではないかと思います」と金子さん。

 基礎体温などもそろった46人分のデータで、①体温が36.5度以上、②36度以上36.5度未満、③36度未満の3グループに分けてみたところ、①は全員月経正常だったのに対し、②は14.3%、③では25%が月経日数や周期に異常がありました。生活習慣を見ると、朝ご飯を食べる、たんぱく質の摂取量が多い、運動習慣がある、と答えた人の方が、それぞれ体温が高い人が多い傾向が認められました。母数が少ないですし、これで決定的なことが言えるわけではないでしょうが、食を含めた日頃の生活の大事さを示しているようです。調査結果をふまえ、12月に発表する手帳の改訂版では、朝食とたんぱく質、運動のチェック欄を設けるそう。

 「メンバーの中でも、高校時代に食べないダイエットをした人がいます。でも体には負担がかかるし、一度は体重が減ってもリバウンドしてしまう。あと、私たちは『何ちゃってヘルシー』って呼ぶんですが、朝にスタバのフラペチーノを飲んで甘い物たくさん食べたからお昼は抜き、っていうこともよくある話です」。あ~、それって女子あるある。健康にきれいでいるためにどうしたらいいのか、一緒に学んで、自分たち世代のヘルスリテラシーを上げていきたいと金子さんは言います。

 女性やカップルに将来の妊娠のための健康管理をすすめることを、「プレコンセプションケア」(発音しにくいので、プレコケアと呼ぼうという人も)と言い、日本でも最近取り組みが始まっています。国立成育医療研究センターは2015年に「プレコンセプションケアセンター」を開設。周産期・母性診療センター母性内科医長の荒田尚子さんはケアの目的を「若い世代の男女がより健康になることで、より質の高い生活を送ると共に、より健全な妊娠・出産のチャンスを増やし、次世代の子どもたちをより健康にすること」と説明します。Team BHDの活動も、このプレコケアの一つと言えるでしょう。

 ただ、妊娠出産と女性の人生とは、慎重に繊細に取り扱いたい問題です。産む性が強調されすぎて人生の選択の幅が狭められたり、産まない(産めない、産まなかった)ことが過ちであるような価値観に結びつけられたりしたら、息苦しい。

 金子さんにこの点を聞いてみました。どう思います?「誰かから強制されるのは嫌です。健康でいることはすべてのベースになる。体づくりは、自分の夢をかなえるため。産みたいと思う時に産めるという、選択肢を持てるように」。健康な体でいることが人生の選択肢を広げる、というとらえ方をしていました。ベビーシッターのアルバイトをして、共働きの大変さ、忙しさに接している経験から、社会や制度がもっと変わってほしいと思う、とも。「男性も女性も体のことを学び、意識が広まれば、もっと子育てしやすい環境が整っていくのではないかと思っています」と話していました。20代で子どもを産みたいと思っても、その選択を十分に支える環境が今の日本に整っていない。それは私たち先に生きてきた者たちの責任であり、申し訳なく思います。

 がんばれるからと無理を重ねるのはもう古くさいのかもしれません。これからの人生が長いからこそ、体の声を聞く必要があるのでしょう。Team BHDの活動は忙しいけれど、体調を崩しそうだったら、お互い休むようにしている、と金子さん。間もなく完成予定の新版の手帳は出前授業とセットで広めていく方針で、ゆくゆくは市販もしていきたいそう。最新情報はフェイスブック(※)に掲載しています。

 

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<アピタル:食のおしゃべり・トピック>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/eat/

(大村美香)

大村美香

大村美香(おおむら・みか) 朝日新聞記者

1991年4月朝日新聞社に入り、盛岡、千葉総局を経て96年4月に東京本社学芸部(家庭面担当、現在の生活面にあたる)。組織変更で所属部の名称がその後何回か変わるが、主に食の分野を取材。10年4月から16年4月まで編集委員(食・農担当)。共著に「あした何を食べますか?」(03年・朝日新聞社刊)