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 ADHDが疑われる「生きるのがつらい女性」、リョウさん(30代前半、独身一人暮らし)のお話を続けていきます。リョウさんは、仕事でのつまずきに悩んでいます。今日も大切な会議で居眠りをしてしまいました。ここのところ、毎晩徹夜でゲームに没頭しているのです。

(リョウさんは架空の人物です)

 突然ですが、当てはまるものはありますか?

□ 何をしていてもゲームのことで頭がいっぱいだ

□ 次の日に響くことがわかっていてもゲームで夜更かしする

□ 友達との約束よりゲームを優先

□ ゲームの課金が止まらない

 

 これまで、ADHDの方が抱える「やるべきことになかなか重い腰が上げられない」という悩みについて述べてきました。今回は反対に、「やめたいのにやめられないほど、寝食を忘れて没頭してしまう」(過集中)問題について考えてみたいと思います。

 そもそも、ADHDの方には「注意散漫」になりがち、という大きな特徴がありました。ひとつの物事を成し遂げる前に飽きてしまったり、他のことに注意を引きつけられてしまったり、それで脱線したり・・・するのです。それなのに、あるときは反対に「過集中」に陥ってしまうため、周囲から「やりたい事しかやらないなんて、わがまま」「単なる面倒くさがり屋」と、非難されてしまう恐れがあるのです。

 

 リョウさんも、「もう寝なければ」と分かっているのにゲームがやめられず、気づけば明け方・・・ということを繰り返しています。それだけでなく、仕事中に「ちょっと調べ物をしよう」と思ったつもりが、気づけばネットサーフィンで何時間もたっている、ということもあって、「何ヶ月も手つかずの書類があるくせに、どうしてネットばかりしているんだ」と、上司や同僚から冷たい目で見られています。

 

写真・図版

 なぜこの「過集中」が起こるのでしょうか。

 実は、最近の研究で、ADHDの人は脳の「報酬系」とよばれるしくみに特徴があることが報告されています。どういった刺激に対してやる気を出すかを左右する部分です。「新奇性のある」「即座に手に入る」(待たなくてよい)ことに対してはやる気が出る一方で、「いつもの」「変化のない」「すぐには結果が出ない」ことには極端にやる気が出ない背景に、脳のはたらきが影響しているようなのです。

 つまり、ゲームのように新しくチャレンジングで、結果がめまぐるしい早さでフィードバックされるものは、ADHDの方の脳の大好物。このため、「こんなにやる気が満ちあふれるのは、日頃の刺激のない生活ではめったいにないことだ!珍しい!楽しい!充実している!」と感じて、のめりこみやすくなるわけです。

 

 それでは、どうしたらゲームなどの過集中から抜け出せるのでしょうか。3つのステップに分けてご提案します。

STEP1.ゲームにはまっている理由を分析する

 過集中からの脱出の第一歩は、「何がそこまで自分を引き付けるのか」、つまり、ゲームをやめられない理由(ゲームをすることで何を得ているのか?)について分析することです。

 例えば、日中は仕事や家事に追われていて、全く自分ひとりの自由な時間を持てずにいる人が、家族の寝静まった夜にだけゲームに没頭して満足しているとすれば、本当に欲しい物はゲームというよりは、「ひとりの自由な時間」なのかもしれません。あるいは「ゲームをクリアしていく達成感」や「没頭する感覚そのもの」が好きという方もいます。もしかすると、「仕事や家庭での嫌なことから目を背けたいので没頭して逃げている」という方もいらっしゃるかもしれません。

 ゲームにはまっている理由を明らかにしたら、次のステップです。

 

STEP2. はまっている理由に応じて、ゲームを別の行動に置き換えてみる

 ゲームにはまる理由が明らかになったら、次はそれを埋める(満たす)ゲーム以外の行動を考えて、置き換えていきます。

 例えば、「ひとりの自由な時間」が欲しいという方であれば、仕事や家事、育児などの調整したり、時には誰かにお願いしたりして、昼間に自由な時間を設けるようにします。「ゲームをクリアしていく達成感」が欲しい方の場合には、仕事や家事など、やらなければならないことの中で達成感を得られるように工夫をしていくのも手です。

 「没頭する感覚そのもの」が好きという方の場合には、没頭するのを短時間で済ませる工夫をしたり(STEP3へ)、場合によっては昼間の時間帯に移動したりするのも手です。別の、もっと生産的なものに没頭できないかを検討することもおすすめです。

 「仕事や家庭での嫌なことから目を背けたいので没頭して逃げている」という方の場合には、辛い問題から逃げ回るよりも、誰かの手を借りるなどして勇気を出して向き合った方が、長い目で見れば楽になれるのかもしれません。

 こうした置き換えが進めば、ゲームにはまる理由が少なくなってきます。無理なくゲームをやめることができるかもしれません。

 

STEP3. 過集中をストップするための「防止策」を用意しておく

 とはいえ、ゲームには、飽きずに楽しめるよう数々の工夫がされているものです。ちょっとのつもりで始めても、ついつい長時間を費やしてしまいます。ましてや、時間感覚に乏しいADHDの方にとっては、あっという間に何時間もたってしまうこともあるでしょう。こうした過集中に陥らないためには、いくつか防止策を用意しておく必要があります。

 ・ゲーム開始時にアラームをかけておき終了時間を管理する

 ・ラジオやテレビなど定時で始まる番組の時間から逆算してゲームを始める

 ・朝の出勤、子どものお迎えなど時間に遅れることのできない用事の前に始める

 ・あえて充電の残り少ないパソコンで、電源につなげずにゲームを開始する

 

 もし、STEP1(分析)やSTEP2(置き換え)がうまくいかず、ゲームから抜け出せないという方は、STEP3だけでもお試しください。ゲーム中にアラームが鳴ることで「え? わたしは1時間もゲームに熱中していたの? 気づかなかった」などの発見があることでしょう。それが積み重なることで、もしかしたら自分のゲームの実情を目の当たりにして、「なんとかせねば!」という気持ちが強くなるかもしれません。

 物は試しです。まずは第一歩を踏み出してみてください。

 

 いかがでしょうか。

 そういう私も、一時期は夢の中にまでテトリスが出てきていたくらいですので、あまり他の方にえらそうに言えないのですが、ご参考になれば幸いです。

 

<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。