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 この連載で現在続いているシリーズのタイトルは、「健康・医療情報の見極め方」です。これまで、科学的視点から情報を正確に見極める方法、つまり「見極め方」のみを解説してきました。では、今回のコラムのタイトル「健康・医療情報との『向き合い方』」とは、何を意味しているのでしょうか?「正確な情報」を見極めて入手しさえすれば、目の前の問題が解決すると思っている人もいるかもしれません。しかし、現実は必ずしもそうではありません。「見極め」た後に、どう「向き合う」かこそが大事なのです。

 

▼正確な情報にも、必ず不確実性が伴い、「灰色(グレー)」である

▼現実の決断・行動の意思決定は「白・黒」つけなければいけない

▼意思決定の行動指針「科学的根拠に基づいた医療(EBM)」には、「科学的根拠」以外にも考慮すべき3つの要素がある

 

 情報の確からしさを判断する基準として、その情報がどのような方法で検証されたのかが重要であることをこのシリーズでは繰り返し説明してきました。検証方法である「研究デザイン」にはいくつかの種類があり、一覧にすると下図のようになります。

 

 一番信頼性の高い研究デザインは、「システマティックレビュー」です。これは、「ランダム化比較試験」などの一次研究をとりまとめて再評価する方法になります。ランダム化比較試験とは、研究対象となる人を無作為(ランダム)に二つの集団に分けて比べるもので、個々の情報としては、この結果が一番信頼性の高い情報、つまり「正確な」であると理解してください。

 

健康・医療情報には必ず不確実性が伴う

 しかし、ランダム化比較試験の結果も万能ではありません。ランダム化比較試験で有効性が立証されたとしても、その治療を100人受けたら100人治るというわけではありません。ランダム化比較試験の結果は、「その治療を100人受けたら、何パーセントの人に、どのような効果が得られるか」という推定値を示してくれるに過ぎません。つまり、ランダム化比較試験で有効性が立証された治療をおこなっても、治る人もいれば治らない人もいることになります。これを「医療の不確実性」といいます。詳細は過去のコラムも参考にしてください。

医療の不確実性について考える

http://www.asahi.com/articles/SDI201710094974.html

 

 これまでのコラムでは、情報が正確であるかどうかが重要である、と繰り返し説明してきました。しかし、最も信頼の高い情報であるランダム化比較試験の結果がそうであるように、情報を「白か、黒か」で明確にできるものではありません。色で言うならば、正確な情報も「灰色(グレー)」ということになります。つまり、ランダム化比較試験やシステマティックレビューの結果は、「白に近い灰色」なのか、「黒に近い灰色」なのかを示してくれるものにすぎないのです。

 一方で、その治療を「する・しない」といった現実の決断・行動は、「するか、しないか」白黒つけなければなりません。これは、「灰色(グレー)」の情報をもとに、「白・黒」はっきりつけて、決断・行動の意思決定をおこなわなければならないことを意味しています。つまり、情報を自身の意思決定に取り入れるのか、取り入れないのか、情報への「向き合い方」を考える必要が出てきます。

 

意思決定の行動指針:「科学的根拠に基づいた医療」

 それでは、実際の臨床現場で治療方針の意思決定は、どのようにおこなわれているのでしょうか。かつては、医師が提示する治療方針に患者が無批判に従うといった意思決定がおこなわれていた時代もありましたが、現在では、1990年代に提唱された「科学的根拠に基づいた医療(Evidence-based Medicine: EBM)」が主流となっています。

 科学的根拠に基づいた医療とは、「科学的根拠(Research evidence)」「臨床現場の状況・環境(Clinical state and circumstances)」「医療者の技術・経験を含む専門性(Clinical expertise)」「患者の意向・行動(Patients' preferences and actions)」の4要素を考慮し、より良い患者ケアに向けた意思決定を行うための行動指針、と定義されています。

 

 これまで解説してきた「情報の見極め方」は、上図の「科学的根拠」の要素に関する内容になります。しかし、科学的根拠に基づいた医療(EBM)には「科学的根拠」以外にも3つの要素があるのです。つまり、意思決定の際には、科学的根拠以外の要素を考慮するため、科学的根拠が示す結果とは異なる判断をする可能性も出てきます。次回からは、科学的根拠以外の要素について、深掘りしていきたいと思います。

 

《文献》

1.Haynes RB, Devereaux PJ, Guyatt GH: Physicians' and patients' choices in evidence based practice. BMJ. 324:1350, 2002.

 

<アピタル:これって効きますか?・健康・医療情報の見極め方>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/kiku(アピタル・大野智)

アピタル・大野智

アピタル・大野智(おおの・さとし) 大阪大学大学院准教授

大阪大学大学院医学系研究科統合医療学寄附講座 准教授/早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 客員准教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大医学部)卒。主な研究テーマは腫瘍免疫学、がん免疫療法。補完代替医療や健康食品にも詳しく、厚労省『「統合医療」情報発信サイト』の作成に取り組む。