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ANA、ナショナルフラッグに 狙うは航空ビッグバン

(2006年12月25日号)

 不振のライバルをしり目に全日空が驀進中。国際線に貨物とJALの「独壇場」に切り込む。「次男」が、「兄」を追い越す日は。(編集部 後藤絵里)

     ◇

 東京・六本木からほど近く、シティーホテルの代名詞の一つ東京全日空ホテル、九州・沖縄サミットの舞台の一つにもなった沖縄の万座ビーチホテル&リゾート。全日空はこれら全国13の直営ホテルの資産を、今後3年で売却する。暮れも押し迫った12月に飛び込んできたニュースに、ホテル・不動産業界は騒然となった。運営はインターコンチネンタル ホテルズ グループとつくった別会社に引き継ぐ。

 リストラではない。航空事業への選択と集中だ。あるホテルアナリストはこう評価する。

 「高収益のホテルも多く、売却益は2000億円は下らないはず。同じ資産売却でも日航は益出し目的の清算だが、こちらは本業回帰のための前向きな清算だ」

 ここ1年の全日空の動きは激しい。

 10月、01年の米同時テロで運休した成田―シカゴ線を復活させた。需要が伸びている日韓線ではアシアナ航空と全ての路線で共同運航を始める。成長市場のインドには、07年度にも成田から定期便を就航させる。昨年夏には自前で貨物事業に乗り出した。

 国内も着々と足場を固めてきた。産業再生機構の最後の支援案件のスカイネットアジア航空(宮崎市)には既に約15%出資。全日空が傘下におさめる日も近いといわれている。

 ●新規の会社、続々傘下に

 一方、ドル箱の羽田―札幌線を持つ北海道国際航空(エア・ドゥ、札幌市)にも約14%出資する。3月に就航したスターフライヤー(北九州市)には査察乗員を派遣している。スター側は、

 「共同運航など営業面で協力を模索したい」(同社幹部)

 とラブコールを送る。

 全日空が新規航空会社と提携するのには理由がある。支援するかわりに、共同運航して、自社の路便数を増やせるからだ。規模で凌駕する日本航空に対し、提携で勢力を広げるしたたかな戦術だ。スカイマーク以外のすべての新規航空会社が、「ANA陣営」入りしたことになる。

 8月末、全日空の社内であるタスクフォースが始動した。

 「アジアプロジェクト」。メンバーは客室本部の品質企画など各部門から数人ずつと客室乗務員(CA)ら約20人。ソフト、ハードの両面でサービスへの評価が高い航空会社にメンバーが一般利用者として「覆面」で搭乗して、各社の強みを徹底検証しようというのだ。CAの対応、機内食、映画や音楽などのエンタメ設備などサービスの総合評価で、つねに上位にくるのはキャセイパシフィック航空、タイ国際航空、シンガポール航空(SQ)。アジアの会社ばかりだ。

 「世界トップクラスといわれる会社はみなアジアにある。アジアで一番になることは、世界の一番になることなんですね」

 プロジェクトの中心メンバーでCAの井手由利子品質企画部主席部員は言う。

 ●アジアの市場に照準

 実はタスクフォースを組むのは2回目で、昨年はSQを単独で徹底検証した。プロジェクト名は「QSタスクフォース」。「SQを超える」目標だから、逆さにして「QS」。彼らと比べて自社の強みは何か、それをどう伸ばして差別化するか、課題を洗い出し、昨秋、経営陣に答申した。今年さっそく、機内食の改善などに採り入れられた。

 全日空はいま、上から下まで口を開けば、

 「アジアナンバーワンになる」

 が合言葉。にらむのは、09年に日本の空で起きる「航空ビッグバン」だ。

 その年、羽田に4本目の滑走路ができ、発着枠は現在の1.4倍の40.7万回になる。そのうち約3万回分は近距離国際線にあてられ、都心部から中国や韓国に気軽に飛べる時代がやってくる。成田でも滑走路の延伸で、発着枠は1割増の22万回になる。

 「中国人の観光旅行ブームもこれからが本番。航空に残された最後の成長市場がアジアだ」(全日空役員)

 着々と手を打ってきたのが航空機の中小型化だ。これまで日本の航空会社は、「世界一の混雑空港」といわれる羽田の限られた発着枠で収益を上げるために、一度に大量輸送できる大型機を飛ばすしかなかった。それが、

 「国内線でジャンボが飛ぶ異常な事態」(航空関係者)

 を招いた。それもビッグバンで大きく変わる。空の主流はジャンボではなく、需要に合わせたサイズで新幹線なみの多頻度で運ぶ中小型機になるとみられている。

 ●苦境の中で新型機契約

 「これが、将来を決める飛行機になる」

 2年前の春、全日空は機材戦略で「賭け」に出た。米ボーイングが開発中の次世代中型機「787」を一度に50機、世界で最初に購入する契約を結んだのだ。

 実際に社内で議論されたのは03年。当時の大橋洋治社長の大号令で一大リストラが始まった年だ。テロやJJ統合の激震で業績はガタガタ。03年度まで6期連続の無配が続いた。全社員の給与は年収から恒久的に5%カットされ、退職金の利率も引き下げられた。そのさなか、定価ベースで6千億円を超える買い物をすると決めたのだ。

 「足元も危ういのにどうやって資金調達するんだと、社内外で批判を浴びました。特に社内は『明日はどうなる』というムードで、飛行機どころじゃなかった」

 選定委員会事務局にいた企画室の河合巌課長は言う。それでも、

 「中型機は09年以降に基幹の航空機になる。機材戦略は足元の業績と関係なくしっかり考えろ」

 というトップの姿勢はぶれなかった。1年近くボーイングと意見交換を続け、羽田戦略に合わせて国際・国内兼用の仕様になることを確認し、発注に踏み切った。

 787の売りは「経済性」だ。主翼や機体にアルミ合金のかわりに炭素繊維の複合材を多用する。機体が軽くなり金属疲労もないので、コストメリットは大きいとされる。

 貨物スペースは同じ中型の767の1.6倍もあり、増収効果も期待できる。米同時テロで世界の航空会社が相次いで倒れ、航空機も経済性が重視されるようになったのだ。

 「ボーイングには98年から、次世代機は経済性の高い中型機にしてほしいと頼んでいたんです。当時は相手にされなかったですね。航空機は豪華さや速さで競う時代でしたから」(河合さん)

 787の初号機は08年に入ってくる。機齢が古く、4発エンジン・3人乗りとコスト高の747在来型(クラシックジャンボ)は3月にすべて退役した。在来型よりは燃費の良い747−400も07年度から売却に入る。燃費効率の悪い大型機の割合はさらに小さくなる。最終的には、大型・中型・小型で3機種に絞り込むという青写真を描く。

 ●ライバル、大きく出遅れ

 日航も機材更新の重要性はわかっている。全日空の787のように、世界で最初に新型機を買ったことも一度ではない。ただ決定的に違うのは、長距離国際線が主体の日航は、まだ相当数の古い大型機を抱えることだ。国際線の機材の6割が大型機。コスト食いの在来型機も29機ある。大型と中小型の割合をあと3〜4年で「4:6」に逆転させるのが目標だ。在来型機は09年までに、747−400は10年度から退役させる一方で、7540億円かけて、787を含む最新鋭機86機を購入する計画。それには当然、資金が要る。業績を回復させ、銀行から従来通りの融資を得られることが大前提だ。

 だが足元は厳しい。中間決算は全日空が過去最高益をあげる中、原油高や安全トラブルによる客離れで、営業利益は前期比48%減。資産売却で利益を捻り出し、当期黒字だけは何とか確保したのが実情だ。

 ●激しいロビー活動

 メリルリンチ日本証券の谷口栄朗アナリストは言う。

 「航空会社にとって機材戦略は非常に重要です。新型機の導入で燃費やサービスの質は高まるし、機種の絞り込みは部品調達や整備の効率化につながる。全日空の集中的な設備投資のペースに、今の日航が追いつくことができるのか。ギャップは簡単には埋まらないでしょう」

 「全日空は09年に本気でアジア首位を取りにくるだろう」

 国土交通省関係者はそう話す。羽田と韓国、上海を結ぶ「シャトル便」も、熱心に政府関係者に働きかけたのは全日空の方だった。羽田国際化への「地ならし」とみたのだろう。ただ、国の政策では、羽田の国際線は「国内線で余った分」との位置づけで、就航範囲も国内線で最も遠い羽田―石垣島と同距離圏内になる。中国の上海は入るが北京や広州(クワンチョウ)、香港は入らない。全日空のアジア戦略にとっては「帯に短し」だ。なんとか羽田の国際枠を広げようと、永田町や霞が関を飛び回る全日空社員の姿もしばしば目撃されている。

 全日空の躍進と日航の不振。ビジネスの世界に勝ち負けはつきものだが、こと航空産業の場合、話はそうシンプルでもないようだ。

 「国内線が強い一社だけになり、競争がなくなる状態が国民にとっていいはずがない。国際線も、国際交渉で航空権益を確保しているんだから、単純にビジネスの視点だけでやめられても困る」(国土交通省幹部)

 航空自由化で「ナショナルフラッグ」という概念は消えたが、世界中に路線を張って日本の航空権益を担ってきた日航に対し、

 「潰れてもらっては困る……」

 という国の思惑も透けてみえる。

 全日空とて、ライバルの経営破綻までは望んでいない。「産業にとってマイナス」(幹部)という声もあるし、国のテコ入れや債務免除で一気に「健康体」になり、09年を前に戦線復帰されても困るというのも本音だろう。一大リストラで社員の給料も減らされた側からすれば、

 「こっちは自助努力で回復したのに不公平」(社員)

 との思いもくすぶる。

 日本の航空産業は長く規制に守られてきた。でも環境は確実に変わっている。日航の苦境がそれを明確に物語る。市場が激変する09年、どちらがどちらの背中を見ているだろうか。

■航空2社の経常損益の推移億円年度

        2002年度  03   04   05  06

JAL     158億円  −719  698 −416   5

ANA    −172     334  652  667 475

(06年度は見通し)

■航空2社の財務状況比較

         JAL      ANA

売上高      1兆1500億円 7528億円

(国際旅客収入) 3707億円   1382億円

(国内旅客収入) 3458億円   3729億円

営業利益     81億円     687億円

経常利益     53億円     579億円

当期利益     15億円     332億円

売上高営業利益率 0.7%     9.1%

自己資本比率   14.8%    24.0%

連結子会社数   154社     98社

(06年度9月中間決算から)

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