2009年5月14日15時35分
森 佳子記者
[東京 14日 ロイター] 金融危機は米国にとってあらゆる「不都合な真実」を浮き彫りにしたが、なかでも市場関係者を含む多く人を失望させたのは、金融産業が政府・金融当局と癒着し利益を貪ってきたことが白日の下にさらされたことだろう。
欧米諸国や国際通貨基金(IMF)は、90年代のアジア危機の原因が「クローニー・キャピタリズム」(縁故資本主義)と呼ばれるアジアの資本主義の後進性に求めたが、一部のエリートが国家権力と結びついて権益を独占し富を増やすやり方は、米国金融界と米政府・行政機構の関係にも当てはまるようだ。
IMFの元チーフエコノミストのサイモン・ジョンソン氏は米国がこれまで採用してきた政策について、「緩い金融規制、安価な資金、持ち家促進政策など、あるものは民主党的であり、ある政策は共和党との関連が深いものだが、全ての政策には一つの共通点がある。それは金融セクターの利益に資することだ」と指摘する。
政府と一部産業の利権が結びついて独裁的利権集団を形成し、一丸となって利益の最大化に走り、それが行き過ぎて最終的に危機に陥る道筋は、韓国、マレーシア、ロシア、アルゼンチンなどの新興国が既に通ってきたものだ。
危機発生国を観察し、処方箋を提案してきたジョンソン氏は「米国で危惧すべきことは、腰折れ状態の景気を立て直すために迅速に実施されるべき改革を、金融界が拒む方向で影響力を行使していること。米政府は無力で影響力を排除する気も無いようだ」と言う。
<ストレステストとIMF>
オバマ大統領はある面では、金融機関を核とするクローニー・キャピタリズムと対峙する姿勢を見せ、金融規制強化に乗り出しているが、米大手19金融機関に対する健全性審査(ストレステスト)では、米当局が金融界の要望に柔軟に応じる格好となった。
米連邦準備理事会(FRB)は、7日のストレステスト結果公表の前に金融機関からの強い働きかけを受け、一部の対象行の資本不足額を大幅に下方修正した、と米ウォールストリート・ジャーナル紙は報じた。
FRBは4月にストレステストの暫定結果を各行に通達したが、バンク・オブ・アメリカ
IMFは4月21日、半期に一度の世界金融安定報告の中で、米銀の追加資本所要額は、普通株式でみた自己資本比率を金融危機前の水準の4%にするのに2750億ドル(約26.7兆円)、米銀の経営が安定していた1990年代半ばの6%まで引き上げるのに5000億ドル(約48.5兆円)と算定した。
一方、米国のストレステストでは大手金融機関の追加資本所要額を746億ドル(約7.2兆円)と大幅に小さく見積もっている。
市場では、FRBがアナリストや投資家らが予想していたものとは異なる算定基準を使用したため、全対象行の資本不足額が圧縮されたとの指摘が多く聞かれる。
「ストレステストは、TARPがもはや1096億ドルしか残っていないという苦しい台所事情との妥協の産物だ」と東海東京証券チーフエコノミストの斎藤満氏は言う。
TARPとは銀行の不良資産救済プログラムで、当初は7000億ドル規模だった。
ストレステストの検査内容は「銀行ごとに貸出資産査定が十分になされたか疑念があるほか、貸出資産の評価だけで、CDOなど証券資産の評価がなされていないとの疑念もある」と斎藤氏は言う。
規模は異なるものの、金融セクターの不良債権問題でIMFがこれまで出してきた処方箋は、国有化と大き過ぎて潰せない金融機関の分割・小規模化だった。
「大き過ぎて潰せないというあらゆるものは、そもそも存在するには大き過ぎるものだ」とジョンソン氏は言う。
<デリバティブ規制の強化>
オバマ政権は14日、デリバティブ(金融派生商品)の規制に関する提案の詳細を発表する予定だ。
現在の証券法を改正し、大半のデリバティブは米証券取引委員会(SEC)と米商品先物取引委員会(CFTC)の管轄下のクリアリング・ハウス経由で取引されることが義務づけられる。一部のデリバティブはクリアリング・ハウス以外でも取引可能だが、取引報告義務が課せられる。
「デリバティブ規制に着手するとすれば、十分な資本対策を講じる必要があるだろう。さもなければ狼狽売りなどかえって混乱を拡大する可能性がある」と斎藤氏は言う。
デリバティブ規制については、金融界で有名なエピソードがある。
米ヘッジファンドのLTCM(ロング・ターム・キャピタル・マネジメント)が破たんの危機に直面し、米当局主導の救済パッケージが講じられた1998年、当事CFTCの委員長を務めていたブルックスリー・ボーン氏は、デリバティブの相対取引を野放しにすれば経済が重大な危機にさらされる可能性があると警鐘を鳴らし、当局者らと懇談にのぞんだ。
しかし、グリーンスパン前FRB議長、ルービン元米財務長官、レビット元SEC委員長が異口同音に規制導入に異議を唱えたため、ボーン氏の主張は排除された。
2000年にはデリバティブ取引を規制対象外に据え置く法案が議会を通過し、デリバティブ取引は躍進的な成長を遂げることになる。
国際決済銀行(BIS)によると、想定元本ベースのデリバティブ市場残高は、1998年6月末時点で72兆ドル(約7000兆円)だったが、2008年6月時点で約684兆ドル(約6.5京円)と9.5倍に膨れ上がった。
急成長の背景にはクレジット・デフォルト・スワップの取引拡大などがある。IMFによれば、世界の金融機関の損失(デリバティブでの損失も含む)は、2010年まで4年間の累計で4兆0540億ドル(約400兆円)に達するという。
(ロイター日本語ニュース 森佳子 編集 橋本浩)