写真・図版 4月23日、政府の諮問会議民間議員などを務め、成長戦略などの立案に関わってきた伊藤元重・東京大学大学院教授は、ロイターとのインタビューで、デフレ下で委縮した日本企業の内向きな経営マインドがIoTの活用を妨げていると指摘。一方、政府が財政再建を進める中で、マイナンバー制度を活用した国民の金融資産の捕捉と資産課税に向けた議論を進める必要性もあると述べた。写真は、伊藤元重・東京大学大学院教授、2014年5月撮影(2015年 ロイター/Toru Hanai)

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 [東京 23日 ロイター] - あらゆるモノがインターネットにつながるIoT(インタネット・オブ・シングス)の活用が問われているのは、企業だけではない。安倍晋三政権はアベノミクス成長戦略の新たな産業政策としてIoT推進を掲げる一方、行政版IoTを推進するツールとして、個人情報の効率管理を目指す「マイナンバー」制度を来年導入する予定だ。

 政府の諮問会議民間議員などを務め、成長戦略などの立案に関わってきた伊藤元重・東京大学大学院教授は、ロイターとのインタビューで、デフレ下で委縮した日本企業の内向きな経営マインドがIoTの活用を妨げていると指摘。一方、政府が財政再建を進める中で、マイナンバー制度を活用した国民の金融資産の捕捉と資産課税に向けた議論を進める必要性もあると述べた。

 伊藤教授の主な発言は以下の通り。 

 ──アベノミクス「第3の矢」である成長戦略では、賃金引き上げとともに企業の生産性の向上が重要課題になっている。今後は情報化やIoTの活用が企業経営の生命線となってくるのはないか。

 「実は2005年頃には情報化は止まるだろう、と言われていた。グーグル<GOOGL.O>の検索エンジンやフェイスブック<FB.O>、アップル<AAPL.O>のスマートフォンなどの拡大規模には限界がある。人間が作り、人間が使うソフトウエアやウェブや情報のやり取りの広がりは、人間の数にしか比例しないからだ」

 「しかし、いずれ情報化が止まるという一部の専門家の予想どおりにはならなかった。その理由はIoTの活用がされてきたからだ。つまり、人間が作ったウェブやソフトウエアではなく、(機械やシステムなどが人間を介さず)実際にセンサーを活用した情報のやり取りを行うIoTが広がってきた」

 「問題は、ビッグデータ、あるいはAI(人工知能)につながっているこうしたネットワークに対して日本企業の対応が遅れていることだ」

 ──なぜ日本のIoT活用は遅れているのか。 

 「米国での調査によると、米大手企業の中でIoTの活用に対応している比率は93%、対応していない企業が7%だったのに対し、日本では対応していない企業が70%にものぼった」

 「デフレの下で日本の企業は守りに入ってしまい、新しい動きに対して対応しようとしなかった。新しいことはリスクがあるからやらないというメンタリティーが進んでしまった。その結果、日本企業はIoT、グローバル化、少子高齢化という大きな構造変化に対応できなかったと言われている。その中でも、情報化(ICT)への遅れが深刻だが、深刻だということは、逆に言えば差を埋めれば相当なチャンスがあるということでもある。それをひっくり返すとことが重要であり、情報化もその1つだ」

 ──ドイツや米国でビジネスモデルとして成功事例はどの程度あるのか。日本ではIoTの活用はどういった産業や分野が期待されているのか。

 「米国では、すでにグーグル<GOOGL.O>やマイクロソフト<MSFT.O>などの成功例も数多くある。他方、ドイツではインダストリー4.0という形で製造業における工場のIoT化を進めているが、いまだ何か具体的な成功例は出ていないようだ。両者は、アプローチの仕方が全く異なる。日本ではどちらの方向に進んでいくのか。今はまだ定まっていない」

 「日本でも、成功事例が数多く出てくることが重要。例えば、セブンイレブンは世界最高水準の生産性をあげている小売業だが、それは情報化なしにはありえないことだ。銀行のキャッシング、インターネットでの注文、ナナコカードによる販売のデータも取得できるなど、多岐にわたる事業が可能となっている」

 「ローソン<2651.T>も佐川急便と組み、タブレット端末を使った高齢者向け宅配サービスのネットワークを構築。今年春には、楽天<4755.T>のサイトに掲載された幻冬舎のウェブ雑誌から楽天ショッピングサイトへの注文が可能になった。色々な試みが現場で起きている。それが全体としてまとまるかどうかが課題であり、現場の動きを促進するメッセージを出し、必要な政策を展開するのが政府の役割になる」

 ──IoTの活用において、マイナンバー導入をどう生かしていくのか。

 「マイナンバーは、年金や税金での活用はすでに決まっている。さらには、国民の金融資産の捕捉ができることが望ましい。銀行預金の際にマイナンバー登録を強制できるかといった議論がある。現在の議論では自主的に登録はできるが、義務としての登録はかなり先の話になる。それができれば、給付つき税額控除など、様々な政策が可能となる」

 「日本では所得に比べて金融資産が増えているので、将来の財政問題を考えると、所得ではなく、資産に課税するという方法もある。高齢者の中には、年金しか所得がなくとも、実は相当の金融資産を持っている人もおり、全く資産を持っていない人とを同様に政府が保護するというのもおかしい話だ。格差是正は少し先になるが、その前に格差が不利にならないような対応をするということだ」

 「ただし、金融資産をマイナンバーで把握するということになれば、政治的にかなりハードルが高いものであり、議論を重ねることになる」

 「マイナンバーの最大の問題は医療制度へ活用であり、現在議論中だ。(医療情報の流出などにより)例えば、遺伝子情報によって癌にかかる確率が高ければ保険料も高い、といったことはあってはならない。個人情報保護の問題もあり、慎重さが必要だ」

 

 (中川泉 梅川崇 編集:北松克朗)