写真・図版 10月18日、為替市場でドル/円の存在感が低下している。取引高は依然としてユーロ/ドルに次ぐ第2位だが、最近の調査では主要通貨間で唯一、減少傾向に歯止めがかかっていないことがわかった。写真は都内で2015年1月撮影(2019年 ロイター/Yuya Shino)

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 基太村真司

 [東京 18日 ロイター] - 為替市場でドル/円の存在感が低下している。取引高は依然としてユーロ/ドルに次ぐ第2位だが、最近の調査では主要通貨間で唯一、減少傾向に歯止めがかかっていないことがわかった。主因と考えられているのは、値動きの悪さ。今年も年間値幅が過去最低を更新する見通しであるなど動きが乏しく、投資対象としての魅力が低下。投資の減少が値動きを抑制するという循環に陥っている。

 <取引高は3%減、ユーロ/ドルは3割増>

 国際決済銀行(BIS)が3年に1度実施している為替取引高調査によると、2019年4月のドル/円の取引高は1日平均で8710億ドルと、前回16年調査から3%減少した。主要通貨間で16年に続いて、取引が減少したのはドル/円のみ。新興国通貨を含めても、連続減はユーロ/トルコリラなど数えるほどしかない。

 前々回調査の13年、為替取引は円のみならず世界的に増加した。16年はその反動で多くの通貨が減少したが、それも一巡し今年は軒並み復調。取引高トップのユーロ/ドルは13年に34%増、16年には5%減少したが、19年は30%増だった。

 ドル/円取引減少の要因は、端的に言えば儲からないためだ。「相場が動かないので儲からない。投資が少なくなれば値動きも鈍るという循環になっている」(バークレイズ証券のチーフ為替ストラテジスト、門田真一郎氏)という。

 <「フラッシュクラッシュ」含めても値幅は8円>

 今年のドル/円の高値は4月につけた112.40円。安値は1月3日に日本勢不在の中で瞬間的につけた104.10円だ。値幅は8.30円。変動相場制移行後に初めて年間値幅が10円を割り込んだ昨年を、現時点ではさらに下回っている。

 1月3日や8月26日など、ドルが安値を更新した際でさえ、自動売買システムが介在していたことが多く、実際の取引高は少なかった。特に正月休みだった1月3日は、短時間で5円近い値動きとなったものの、市場筋によると、下落・反発局面で成立した取引高は10億ドルにも満たなかったという。

 取引がほとんど成立せず、気配値だけが大きく振れた日を含めても値幅が8円強。「実質的には105─110円プラス誤差、の上下5円ぐらい」(都銀)というのが市場参加者の実感だ。

 <アベノミクスへの失望>

 ドル/円が動かなくなった一因は、海外投資家の「アベノミクス」に対する期待感の後退にあるとみられている。

 2013年、日銀の大規模緩和と巨額財政出動、海外投資の活発化といったアベノミクス効果で、ドル/円は年始の安値86円から年末高値の105円まで20円弱急騰。取引量も10年対比で72%増とほぼ倍増した。対ドル以外も含む円の取引シェアは23%まで拡大。10年調査ではシェア39%と20%ポイントあった2位ユーロとの差を、一気に10%ポイントまで詰めた。

 しかし、景気回復は他国に比べ遅く、物価も2%の目標に到達していない状況が続く。当初は日本の大変革に期待した海外勢の期待も薄れ、ドル/円は16年6月に一時100円を割り込んだ。その後は、年を追うごとにレンジは小さくなっている。

 「期待した成長戦略は一向に進まず、失望をあらわにする海外投資家も少なくない」(外資系証券)という。アベノミクス以降の海外勢の日本株累計買い越し額(現物と先物の合計)もぼぼ消滅。円売りと日本株買いを組み合わせた「ダブル・デッカー(二階建て)取引」はすっかり鳴りを潜めている。

 ドル側の要因もある。金利の低下したドルがキャリー取引の調達通貨として使われる機会が増え、円と同じ特性をドルが持ち始めたことだ。これによって、ドルと円は市場心理の明暗に応じて同じ方向へ動くことが増え始めた。

 4月の通貨オプション市場では、ドル/円の1年物予想変動率(インプライド・ボラティリティー)が過去最低を更新した。

 <光明はクロス円>

 斜陽の円相場にも光明はある。ユーロ/円や豪ドル/円といった、クロス円の取引は増加していることだ。主要クロスだけでなく、対新興国通貨も増加している。BISによると「高金利通貨の対円取引は日本の個人投資家に魅力があり、世界平均より取引高の増加ペースが早い」という。

 BISの集計では、トルコリラ/円と南アフリカランド/円、ブラジルレアル/円を合計すると、今年4月の1日平均取引高は120億ドル。ドル/円の取引規模にはまだ遠く及ばないが、16年の70億ドルからほぼ倍増した。取引通貨の広がりを受けて、クロス円取引に占めるユーロ/円の割合は、04年の8割超から19年に5割を割り込んだ。

 しかし、その理由も日本経済の「低温度」にある。国内の低金利環境が長引く中、運用難に悩む国内大手機関投資家が、リスクは高くても金利収入が見込めそうな国や発行体をやむなく対象とし始めるなど、投資先を広げているためだ。

 通貨の安定は、企業にとっては収益の安定につながるため、必ずしも悪いことではない。むしろ安定を望む声の方が多いだろう。しかし、通貨の動かない理由が日本経済への失望では、明るい未来は描けない。

 (編集:青山敦子)