2013年12月27日03時52分
[東京 27日 ロイター] -日本総合研究所の湯元健治副理事長は、成長戦略の実行スピードが2年目のアベノミクスの成否を分けるとし、来年具体化される国家戦略特区で「岩盤規制」や法人実効税率引き下げに踏み込めるかが、試金石になると述べた。
対日投資拡大へ、外国企業に限定し時限的に「法人税ゼロ特区」を創設するダイナミックさを求めた。
1年目のアベノミクスを主導した「円安依存型」の景気回復は持続性に欠けるとし、ドル/円が115円、120円となれば、副作用のほうが勝ると警戒した。安倍晋三政権の財政政策の緩みにも警鐘を鳴らし、歳出管理の法的な枠組みを作る準備を始める時だと語った。
インタビューは26日に実施した。詳細は以下の通り。
──アベノミクス1年目の評価は。
「デフレ脱却期待を醸成できたのは、まずまずだった。ただ、金融・財政政策に依存した景気回復は持続性が乏しく、副作用もある。足元の物価上昇は黒田日銀総裁が言うような2%という望ましいインフレに向けた順調な歩みではなく、輸入コスト上昇によるコストプッシュ型であり、実質所得を低下させる」
「円安依存型の景気回復は、持続性に欠けると言わざるを得ない。1ドル100円台であれば日本経済が回復軌道をたどることは十分想定される。しかし、110円を超えて115円、120円となるとマイナス面が勝り、日本経済に好ましくない」
「成長戦略を大胆・スピーディーに実行し、企業業績の回復が賃上げや設備投資拡大にシフトするかが、アベノミクスの成否を分ける最大のポイントだ」
──これまでの成長戦略の評価は。
「70点くらいは評価できる。1)産業の新陳代謝を活発化させ産業構造を高度化する、2)健康・医療、環境・エネルギー、次世代インフラ、農業の4分野を新たな内需の柱に育てる、3)海外展開を支援し海外市場を開拓すると同時に海外からの対日直接投資を拡大する──方向性は間違っていない」
──海外投資家は、成長戦略には懐疑的だ。混合診療の解禁など「岩盤規制」の解消が不可欠ではないか。
「混合診療の解禁に爆発的な効果があるとは思えない。金持ちも低所得層も等しく医療を受けられると説明されるが、現実は全く逆でカネのない人は混合診療を受けられない。混合診療で追加の保険外診療を行うと、全額保険外になり金持ちでない人ほど最先端医療が受けられない。どちらが不公平・不平等かという話。解禁すべきだが、これが成長戦略の<一丁目一番地>だという言われ方はおかしい」
「業界が抵抗しているから、それを崩さないと安倍政権のリーダーシップがないという視点でしか規制改革は論じられない。だが、ビジネスチャンスがあるのに障害になっている規制をどう見直していくかが、本来の規制改革だ」
「再生可能エネルギーを導入するときには、農地に風車・太陽光パネルを置ける農地法の改革が必要になる。水素自動車分野では水素の取り扱いに関する安全規制の見直しなど、環境エネルギー分野でもやるべき規制改革はたくさんある」
「岩盤は固いので一度にはできない。少しずつ風穴を開けていくしかない」
──スピード感のなさが失望につながっている。
「国家戦略特区は、基本法が成立したものの、具体的な特区の内容、地域の決定は当初の秋口から年内、さらに年明けにずれ込んだ。特区内の規制緩和も、法人税ゼロ特区がいつの間にか立ち消えになり、容積率緩和など規制緩和の度合いを大きくするといった程度の話に終わった。当初期待された混合診療解禁も失敗に終わった。雇用労働市場の解雇規制緩和やホワイトカラー・エグゼンプションなども、厚労省の反対で腰砕けに終わった」
「岩盤規制(の緩和)が1つでも入るとか、法人税15%くらいの特区が1つでも入るとか、インパクトのあるものが入れば及第点。なければ海外投資家の失望を誘う」
「対日投資拡大が主たる目的と割り切るのなら、新規の外国企業に限定して時限的に法人税を3年間ゼロにすると言えばよい。2年目の成長戦略・規制改革を占う意味では、特区で岩盤規制や対日投資促進のための法人実効税率下げに踏み込めるかが、試金石になる」
──国内企業向けにも法人実効税率引き下げは不可欠ではないか。
「対日投資を拡大させる観点では、表面税率を20%以下、15%程度まで引き下げれば、相当なインパクトがある。実効税率引き下げで設備投資が促進するかは別問題で、設備投資減税のほうが効果的だ。ただ、もはやこの問題は素通りできなくなっている」
「もっとも財源論がないと実現性に乏しい。法人実効税率の下げには1%で4000億円、10%で4兆円の財源が必要。しかも地方の法人事業税が減れば、地方は交付金の増額を求めるだろう。この問題を解決しない限り大幅に下げられない」
──消費税10%の判断とセットで法人実効税率引き下げを打ち出す可能性は。
「あり得る選択肢だと思う」
──来年の経済見通しとリスク要因。
「4─6月期に駆け込み需要の反動で落ちるが、7─9月期には持ち直すとみる。重要なのは賃金動向。連合が要求しているベースアップは、1%以上で定期昇給も合わせて3%近い水準が出れば、消費者マインドの落ち込みも大きく出なくて済む。リスク要因は海外の経済動向。米国の財政リスク、欧州での債務危機再燃、中国経済のシャドーバンキング問題など」
──消費増税による落ち込みが大きければ、日銀の追加緩和が必要か。
「効果はほとんどないに等しい。やるべきではないと思うが、市場がここまで織り込んでいるものをやらないとマイナス効果が大きいので、やらざるを得ないだろう」
「4月展望リポートで順調に(2年間で)2%になるという消費者物価見通しが、出せるかどうかだろう。円安による物価上昇の影響は3月、4月ごろからはく落してくる。上昇ペースが鈍ってきた時に、市場で物価目標達成は困難との機運が強まれば、追加緩和に踏み切る可能性はある。4─6月の経済物価情勢を見極めてとなれば、緩和時期はもう少し遅れる。サプライズを与えないと気が済まないとなれば、消費税引き上げ前の判断もあり得る」
──デフレ脱却宣言は可能か。
「内閣府は中立的だが、政治家の意向は強い。それでも消費税引き上げで景気が落ちている最中にはできない。下期で消費税(上げの影響)を脱却し景気が上向き始め、物価上昇も鈍化した後に、一段上昇し始めれば出来るかもしれない。ただ、タイミングは政治イベントに利用される可能性もある」
──安倍政権の財政規律はどうみるか。
「財政規律が緩んでいるとしか言いようがない。2回の補正予算は止むえなかった面があるが、景気回復基調に入ったところで12年度補正も10兆円出す必要があったのか。13年度補正(5.5兆円)も3兆円に抑えるべきだった。14年度当初予算も過去最大規模に膨らんだ」
「安倍政権はデフレ脱却・成長に重きを置き、財政健全化は中長期的な課題だと位置付けており、財政(健全化)の目標は守れない。大事なことは、目標が自動的に達成されるような歳出管理のメカニズムを法的に整えることだ」
「名目経済成長率あるいは税収の伸びを必然的に上回る歳出、つまり社会保障は、成長率を上回る部分については増税で財源調達する。それ以外の歳出は全て、経済成長率並みか以下に抑える。この2つを守ることができれば、財政健全化に着実に向かっていく。財政規律の緩みを是正するため、法的な仕組みを作る準備を始める時だ」
(インタビュアー:吉川裕子、編集:田巻一彦)
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