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カゴメ 世界でトマト分散栽培 市況、気候のリスク回避

2007年10月09日

 原材料高を背景に加工食品の値上げが相次ぐなか、カゴメは製品原料のトマトの調達を安定させるため、世界各地の風土にあわせて開発したトマトの種を農家に託す長期契約栽培に取り組んでいます。市場で取引される商品作物と一線を画すことで、経済情勢や気候の変動リスクを回避するのが狙いです。創業時から培ってきた「種まき」の思想が実を結びつつあります。

細井さんが手にしているのはトマトの種。温室内では世界各地の気象条件にあわせて開発した品種が栽培されている=栃木県那須塩原市のカゴメ総合研究所で

 世界各地でオレンジなどの価格が高騰した今夏、カゴメ調達部長の谷口恵一さん(52)のもとに、トマトの大産地である中国・内モンゴル自治区から「不作」の知らせが届いた。

 トウモロコシなどのバイオ燃料用作物への転作で、トマトの作付面積が減る一方、中国やインドを始めとする新興経済国群BRICsの需要は着実に増えている。世界的な産地で不作となれば、トマトの調達はますます困難になる。

 カゴメは米国などから必要量を何とか確保したが、谷口さんは「調達先の分散を徹底しなければ、不作や買い占めをきっかけにした値上がりで、買い負ける事態が起きかねない」という思いを強くした。

 こうしたトマトの需給問題を解消するため、カゴメが進めているのが「市場取引に頼らない調達」。カゴメ専用のトマトの種を契約農家だけに提供し、全量を買い取るもので、日本やトルコなど計6カ国で実施している。

 市場取引で価格が大きく変動する商品作物(コモディティ)と異なり、農家の収入は市況に左右されにくい。半面、カゴメには契約農家からの買値が高止まりする懸念があったが、「むしろ長年のつきあいで、無理を聞いてもらえる関係ができた」(谷口さん)。

 カゴメの「脱市場」の取り組みは、契約農家の囲い込みにとどまらない。農家に渡すトマトの種も各地の風土にあうよう改良を重ねており、不作のリスクそのものを減らす狙いがある。

 きっかけは、世界有数のトマトの生産国であるトルコへの進出(82年)だった。

 日本で販売する野菜飲料やトマト加工食品は原料の質に左右されるため、トルコの気候や土壌にあった種の開発に着手。日本人社員がトルコの農家に足を運んで種のまき方から水のやり方まで丁寧に指導し、トマト果汁を濃縮する高価な装置も持ち込んだ。

 今ではカゴメがトルコから輸入するトマトの量は6万5千トン(06年)。全輸入量の2割を占め、国別でも中国、米国に次ぐ3位になっている。

 種まきから始まった縁が、付加価値の高い加工工程の取得につながった例もある。カゴメが5月に買収したポルトガルのトマトペーストの製造会社の経営者は、かつてトマトの栽培試験に共同で取り組んだ仲間。カゴメは友好的な買収で、トマトの栽培から原料の加工までポルトガルで一貫して行えるようになった。

 「まいた種が大きな実を結びつつある」。谷口さんは誇らしく語る。

年に数百種類を交配

 各地の風土にあったトマトの種は、栃木県那須塩原市のカゴメ総合研究所が開発している。敷地内には7500種類もの種があり、民間研究所としては世界2位の保有量という。

 トマト栽培は、カゴメ創業者の蟹江一太郎氏が1899年に始めた。

 国内外の研究所から種を譲ってもらったり、交換したりするだけでなく、社員が国内外の栽培地に足を運んで種を集めることが伝統という。

 カゴメ総研農業研究部長の細井克敏さん(57)も「現場主義」を実践する一人だ。トマトの原産地とされるペルーに出張した際には、仕事の合間にアンデス山脈のすそ野に分け入り、野生のトマトから採取した種を日本に持ち帰った。

 カゴメ総研では毎年、こうして集めた種を数百種類も交配させている。数年かけて3段階の中間試験をくぐり抜け、商品化に向けた最終試験にたどり着くのは年間10〜15種類。世界各地の農園に持ち込まれ、実際に栽培するために登録されるのは、年間1〜2種類の「狭き門」という。

 研究の積み重ねは、抗酸化作用があるとされるリコピンを従来種の3〜4倍も含む生食用の「高リコピントマト」や、乳酸菌飲料の開発につながった。

 カゴメはこうした機能性の高い製品の比率を高めることで、従来型のトマト加工食品への依存度を下げようとしている。種から開発する姿勢は、製品原料の調達だけでなく、経営の安定化にも貢献している。

 

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