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「まつなが和牛」いざ挑戦 生産者の「顔」見努力

2008年4月7日

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写真搾乳のため丸いターンテーブルに乗せられ、回転する乳牛たち=島根県益田市のメイプル牧場、高橋正徳撮影写真メリーゴーラウンドのような回転台で1周する間に搾乳作業が終わる。1日2回で、1頭から30リットル近い生乳がとれる=島根県益田市のメイプル牧場、高橋正徳撮影写真肉牛農家数と牛肉消費量の推移

 松阪牛や米沢牛など地域名を使った高級牛肉は多数ありますが、生産者名の牛肉を売り出した牧場があります。島根県益田市で国内有数の約5千頭の肉牛を肥育する松永牧場の「まつなが和牛」。経営者の松永和平さん(53)は、酪農にも参入し、肉牛に育てる子牛の確保を狙うなど「一貫経営」に取り組んでいます。カオがよく見える商品を自信を持って供給するためです。

 ■酪農参入、子牛を確保

 松永さんが酪農に参入し、牛乳生産を始めたのは昨夏のこと。「メイプル牧場」は益田市内の山間部で荒れ果てていた畑の上に整備した。

 早朝と夕方の1日2回、約300頭の乳牛が直径17メートルの回転台に乗せられ、搾乳機が付けられる。最大で50頭。まるで牛が乗ったメリーゴーラウンドだ。搾り出す乳の量が減り始めると搾乳機は自動的に外れ、時計回りに1周すると作業は終了。牛たちはいそいそと回転台を降りる。

 「乳搾りの後にはエサを食べられると知っているから、どの牛も素直ですよ」。現場責任者の山崎孝博さん(44)は回転台のそばで牛の動きをチェックしている。1頭から1日約30リットル、全体で約9トンの生乳になる。

 3月から、乳成分を1頭ごとに分析する「乳質管理改善システム」を導入した。おいしさにつながる脂肪率だけでなく、安全性や牛の健康管理の指標となる細菌数などを把握できる。

 すべての生乳が混ざってから分析するのが一般的だが、松永さんは「成分表を見て1頭単位で健康管理できる。国内だけでなく世界でも例のない取り組みだろう」と胸を張る。将来は乳牛を1千頭に増やす予定で、感染症の拡大防止に威力を発揮する。

 酪農参入の目的は、安全でおいしい牛乳をつくるためだけではない。最大のねらいは、肉牛として育てる子牛を大量に確保することだ。

 牛はほぼ1年に1頭を生む。和牛同士の受精卵を乳牛に移植すれば、和牛が生まれる。オスの和牛とメスの乳牛を交配すると、「F1」と呼ぶ交雑種が生まれる。和牛より取引価格は安いが、成長が速く肉質も良い。乳牛を多く確保すれば、毎年、その頭数分の子牛を確保することができる計算だ。

 高齢化で小規模農家を中心に廃業が増え、子牛の供給元は年々減っている。農水省によると、00年に11万6千戸あった肉牛農家は07年に8万2千戸に減った。松永さんは言う。「ブランドを育てるには、年2千頭以上を安定して出荷できることが前提だ。農家が減るなか、子牛の確保は最大の懸案だった」

 畜産の経営動向に詳しい鈴木宣弘・東大大学院教授は、「飼料高騰による赤字を理由に廃業する農家が急増している。肉牛と酪農を兼業する事例はまだ少ないが、こうした一貫経営は子牛の確保と収益の安定化という点でメリットが大きい」と指摘する。

 ■めざすはブランド化

 松永さんは高校卒業後、大阪の銀行に就職したが、父親の交通事故を機に家業を継いだ。73年に農事組合法人の松永牧場を設立。当時は180頭程度だったが、弟の直行さん(50)との「二人三脚」で、5千頭を超える規模に成長させた。

 規模拡大は様々な利点をもたらした。松永牧場では、関西の食品メーカーから豆腐用の大豆かすを、青汁で有名なキューサイからはケールの搾りかすを、それぞれ引き取り牛のエサにしている。たんぱく質や食物繊維を多く含み、良質のエサになるという。

 こうした大企業との取引も、「大量のかすを引き取る経営規模があったから可能だった」(松永さん)。最近のように飼料価格が高騰しても負担増を回避できる。年間9千トンになる牛のフンは、堆肥(たいひ)に加工し、逆にキューサイに販売している。

 規模拡大と効率経営に走り、肉質の低下を招いては意味がない。牧場では4人の獣医師と専属契約を結び、牛の健康管理を委託。10種類以上の薬を投与した牛はブランド対象から外すなどの独自規定も設けた。

 昨春から「まつなが和牛」のブランド化に挑戦し始めたのも、安定供給に一定のめどが立ったからだ。ただ、牛肉の消費量は00年度の108万トンから、01年の牛海綿状脳症(BSE)の発生もあって落ち込んできている。牛肉離れはまだ解消されていない。

 東京・神保町の高級料理店「いぬ居」。2月中、島根フェアとして「まつなが和牛」を提供した。オーナーの犬井和之さんは、「ブランドとしては無名だが、お客の評判も良く、伸びる可能性は十分ある」と前向きの評価だ。

 「グルメの多い東京で認めてもらえるか。これからが正念場だ」。今秋には、都内の複数の飲食店とスーパーにも「まつなが和牛」が登場する。松永さん自身、販路開拓のため、最近は東京出張がぐんと増えた。(寺光太郎)

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