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光村図書出版、デジタル教科書に活路 小中2600校で

2009年8月2日1時35分

図:  拡大  

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 学校の国語の教科書でシェア1位の光村図書出版が“デジタル教科書”の普及に力を入れています。少子化で教科書の需要が先細りになるなか、電子教材でビジネスモデルを転換しようとしています。

■音・映像、授業に厚み

 兵庫県三木市立自由が丘小学校。6年生の教室で、児童たちが教科書の詩を朗読する声が響いた。

 先生が問いかけた。「ここはどんな気持ちで読んだら良いかな」。児童たちの視線が一斉に上向く。ホワイトボード型電子黒板にプロジェクターが映し出す詩の一文に、先生が波線を引いた。

 光村のデジタル教科書は、パソコンで読み込み、教科書と同じ内容をテレビや電子黒板に拡大表示できる。ただ映すだけではない。パソコンの連動性を生かして画像を動かしたり、画面上に書き込んだりできるのがミソ。音声や資料映像も盛り込まれ、授業をサポートする教材だ。

 開発を始めたのは01年。日本中で「情報技術(IT)革命」が叫ばれ、国は00年に経済対策を兼ねたIT国家戦略(E―ジャパン構想)を打ち出していた。光村で企画開発本部長を務める黒川弘一取締役は「教室のIT環境が整えば、デジタル教材が必要になる」と感じた。

 現場の教師に要望や意見を聞きながら開発を進めた。実際の授業の進め方をもとに、機能を足し引きする。

 「資料」作りは地道な作業の積み重ね。例えば、小学2年生で習う名作「スーホの白い馬」。若者が愛馬を失い、「馬頭琴」という楽器をつくるモンゴルの民話だが、開発チームは「本物の馬頭琴の音色を児童に聴かせたい」。モンゴルの馬頭琴奏者が来日公演する日を調べ、飛び込みで楽屋を訪れて協力を頼んだ。

 著作権にも悩まされた。作家や挿絵画家、写真家に承諾を求めた。「データを複製されるのでは」と心配する作家の家まで、説得に出向いたこともある。

 完成したデジタル教科書を05年に発売。現在、小学校約2千校、中学校約600校で導入されている。黒川取締役は「スクール・ニューディール構想で電子黒板が普及すれば、デジタル教科書導入にも弾みがつく」と期待する。

 最大手の東京書籍(東京)や算数でシェアが高い新興出版社啓林館(大阪市)、理科が得意の大日本図書(東京)などもデジタル教科書を作る。コンテンツを集めて自治体や学校に配信する「エデュモール」というサービスも生まれている。

■製作コスト増加、少子化の苦境――家庭需要の伸び期待

 教科書業界は厳しい環境にある。少子化に伴い、需要は減少=グラフ。価格低下が追い打ちをかける。

 義務教育の教科書の価格は国の認可制だ。教科書協会によると、08年度の教科書1冊の価格は小学校用で平均337円、中学校用484円。02年度以降、低下傾向で、6年間で約3.3%下がった。一方で、図やイラストを多用しカラーページが増えているため、制作コストは上がっている。「週刊誌1冊より安い値段では、教科書作りは困難だ」と協会は訴えている。

 倒産も出ている。08年には約100年続いた老舗(しにせ)の大阪書籍(大阪市)が倒産。主因は経営者の不動産投資の失敗だが、本業の売上高が低迷する中で起きた。今年5月には、体育の教科書などを作ってきた一橋出版(東京)も倒産。ある教科書会社幹部は「どこも先行きは見えない」と肩を落とす。

 危機感を背景に、光村はデジタル教科書が生き残りのカギと見込む。「学校向けは手始め。ここから家庭需要を狙いたい」と黒川取締役。デジタル化のノウハウを磨けば、いずれネット販売が可能になる。子どもの家庭学習の需要が生まれる。さらにもう一つ、期待する需要がある。一般読者の市場だ。

 ヒントは、教科書の掲載を外れた往年の名作を集めて18巻の本にした「光村ライブラリー」。03年に発売したところ、累計30万冊以上売れるヒット作品になった。主な購入層は20〜30歳代。「子どもの教科書を見て、自分もまた読みたくなった」という声が寄せられる。

 ネットで入手しやすくなれば、こうした需要をもっと取り込める。「教科書以外で生き抜く道がそこにある」

 脱「教科書」を模索する動きは、他社にもある。

 英語の教科書「NEW HORIZON」を作る東京書籍は、ブランド力を生かしたニンテンドーDSソフトや、iPod(アイポッド)向けコンテンツもつくる。

 歴史教科書大手の山川出版社も今年4月、携帯電話やiPod向けに、教科書を朗読したコンテンツ配信サービスを始めた。担当者は「歴史ファンのすそ野を広げることが、歴史教科書会社の可能性を広げるのではと、試行錯誤している」と話す。

    ◇

■豊かな学びへ試行錯誤を

 小学生のころ、「スーホの白い馬」を読んだ感動は鮮烈に記憶に残っている。主人公の馬が楽器へ姿を変える悲話。今回の取材で、その音色を実際に聞くことができた。今の子どもたちは恵まれていると感じた。

 少子化や価格低下に苦しむ教科書産業は、一方で、長く国に守られてきた。「守られてきすぎた」と、ある会社の幹部は反省する。「今さら冒険するのは勇気がいる。でも、あがいてみないと」。電子教材、DS、iPod。試行錯誤が“学び”の現場を豊かにする。その可能性に期待したい。(和気真也)

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 光村図書出版 1949年創立。小中学校の国語の教科書でシェア50%を超える。社会科や生活、美術の教科書も作成。最近では中国や韓国向けに日本語の教科書も手がける。08年10月期の売上高は52億円。本社は東京都品川区。

 

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