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クライスラー再建、米政府が主役 破産法申請

2009年5月2日1時40分

 日本の民事再生法にあたる米連邦破産法11条の適用を申請し、経営破綻(はたん)したクライスラー。同法下で再建に成功した航空会社などもあるとはいえ、オバマ米大統領がわざわざ記者会見して発表したほどの一大事だった。米国、カナダの政府支援を受けながら、イタリアの同業大手フィアットとの提携で、復活を目指す。(ワシントン=尾形聡彦、デトロイト=山川一基、ニューヨーク=丸石伸一)

■巨額の税金 回収を優先

 デトロイト市東端にあるジェファーソン・ノース工場。ジープ車などを生産する主力工場は、今週は操業停止で静まりかえっていた。請負社員だという男性は「我々にはなんの説明もない。このあとどうなるのか」と不安げにまくしたてた。

 社員らは4月30日午後、ロバート・ナーデリ最高経営責任者(CEO)から電子メールを受け取った。「私は個人的に、今日の破産法申請に落胆している」「しかし我々は80年にわたる産業への貢献と顧客の信頼を誇れる」

 深刻な販売減に見舞われたクライスラーは昨秋以降、政府支援なしでは立ちゆかない「疑似倒産状態」にあった。追加支援を得るため臨んだ債権者や全米自動車労組(UAW)との4月の交渉は、クライスラーの命運を握る米財務省が主導。最後の債務削減交渉でも、削減幅を決めたのは政府だった。クライスラーは、生き残りに向けた主導権をとっくに失っていた。

 「際限なく税金をつぎ込んで、企業を生かし続けることはできない」

 オバマ米大統領は、こう強調。会見では、クライスラーへの税金投入に不満を持つ米国民への配慮が随所に目立った。

 米政府は昨年12月、資金繰りに窮したクライスラーに40億ドルの「つなぎ融資」を実施。その後のオバマ政権誕生後、再建計画づくりに大きくかかわってきた。しかし、資金繰りはその後も好転せず、米政府は2月、クライスラーから50億ドルの追加融資要請を受ける事態になっていた。

 税金投入が次第に泥沼化するなかで、米世論は「救済はおかしい」という方向に傾いた。反発の強まりを受け、オバマ政権は3月末、伊フィアットとの提携を、税金を追加投入するための条件に加えた。税金の安易な投入に、歯止めをかける姿勢を鮮明にした。

 破産法下で再建を進めるクライスラーに、米政府は計約80億ドルを追加支援する。巨額の税金を再度投入することになるだけに、「破綻で外科手術をしやすくする」(米政府高官)として、法的整理にこだわった。それが、投入した税金を回収する近道だと考えたからだ。

 大胆な再建策を通じて、フィアット・クライスラー連合が利益を生み出せる体質になれば、公的資金の返済も期待できる。オバマ大統領は「新たに投入する税金をまるまる米政府に返済してからでないと、フィアットはクライスラーの過半数の株式は取得できない」とも述べた。「米国の納税者のカネをイタリアの自動車メーカーに差し出す」。そんな批判に対する配慮がにじんだ。

■フィアットは一人勝ち

 今回の法的処理で「真の勝者」(ウォールストリート・ジャーナル紙)と呼ばれるのがフィアットだ。

 「我々が今日決めた提携は、フィアットとイタリア産業にとって歴史的な瞬間だ」。セルジオ・マルキオンネCEOは4月30日に発表したコメントで喜びを隠さなかった。80年代に日本車などとの小型車競争に敗れ、米市場から撤退した同社にとって、米国再上陸は悲願だった。

 フィアットとしてはクライスラーの北米販売網と生産拠点が使えるのが魅力だ。しかも現時点での現金支出はゼロ。小型車技術と引き換えにクライスラー株を当初20%、販売網や先端技術を提供すれば、最大35%まで無償で株式を得られる。

 さらに法的整理で収益性の低い販売網など、クライスラーの「過去の遺産」を整理しやすくなった。フィアットは将来、クライスラー株の過半を買う権利も得ており、クライスラー更生後に子会社化することも可能だ。

 ただ、課題もある。フィアットの小型車技術を使って新しいクライスラー車を開発するにも時間はかかる。フィアットの格付けは「投資不適格」と低い。運転資金や将来に向けた研究開発費を工面していくだけの売り上げを急にあげられるとも考えにくい。

 世紀の合併と騒がれた相手、ダイムラーと2年前に破局したクライスラー。ダイムラーに新車開発を頼り、商品力を失ったともいわれる。それがフィアットと組めばなぜ、うまくいくのか。両社の提携が成功に終わるかどうかはまだ不透明だ。

■日本、連鎖倒産を懸念

 クライスラーの倒産に対し、国内自動車メーカーには「想定されていた」などの冷静な反応が相次ぐ一方、新車販売や部品メーカーに与える影響への懸念が広がる。

 日産自動車はクライスラーと合意していた低燃費小型車などのOEM(相手先ブランドによる生産)供給の提携を一部見直す。もっとも、「業績への影響はほとんどない」(関係者)という。

 ただ、世界的に自動車販売が落ちこむなかでの倒産に「米市場の消費者心理に冷や水を浴びせかねない」(国内大手幹部)との不安がある。三菱自動車の益子修社長も「世界の自動車市場回復の兆しはつかんでいない。クライスラーとゼネラル・モーターズ(GM)の経営問題が『とげ』になっているからだ」と危機感を示す。

 また、ビッグ3と取引関係のある日本の部品メーカーの間には懸念が広がる。

 トヨタ系部品メーカーは4月30日、クライスラーへの一部部品の出荷を停止した。米政府の支援にも、この部品メーカー幹部は「先行きはまだ分からない」と慎重だ。

 また、ビッグ3と部品の仕入れ先を共有する日系自動車メーカーにとって、差し迫ったリスクはクライスラー倒産をきっかけとする部品メーカーの連鎖倒産だ。最悪の場合、工場の操業停止に追い込まれる。

 トヨタ自動車は昨年9月以降、米国内の部品メーカーに対するリスク管理を強化し、一部の部品については在庫を積み増した。影響が拡大すれば、日本からの輸入に切り替える必要も出てくる。

 一方、クライスラー日本法人は1日、全国の販売店に「これまで通り営業を継続する」との内容を一斉に知らせた。ジープ」など3ブランドを扱い、08年の販売台数は5318台。「クライスラーがなくなるという誤解が広がらないように周知したい」(広報)としている。(古屋聡一、中川仁樹)

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