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MS対グーグル、IT覇権争いは「本丸」のOSへ

2009年7月26日1時19分

グラフ:MSとグーグルのシェア比較拡大MSとグーグルのシェア比較

 【ニューヨーク=丸石伸一】IT覇権をめぐるマイクロソフト(MS)とグーグルの争いが、激しさを増している。グーグルがパソコン用基本ソフト(OS)への参入を発表し、主戦場はMSの「本丸」に移った。迎え撃つMSは、グーグルの牙城(がじょう)・ネット広告に攻勢をかける構えだ。

 ■MSは「7」性能に自信、グーグル「クローム」は無償

 「これまでも無償OSと戦ってきたが、ウィンドウズ7こそが最高のOSだ」

 MSのクリス・リデル最高財務責任者(CFO)は23日の09年4〜6月期決算の電話説明会で、グーグルのパソコン用OSについて聞かれて、こう明言した。「無料・公開」を売り物にするグーグルの新OSへの対抗意識と、OS市場を圧倒支配してきた「巨人」の自負がにじんだ。

 MSは今年10月、パソコン用OS「ウィンドウズ・ビスタ」の後継として「ウィンドウズ7」を発売する予定。処理速度を向上させることで従来のOSからの切り替えを促す、期待の新商品だ。

 ところが、これに対抗するかのように、グーグルは7日、パソコン用OS「グーグル・クロームOS」を開発し、10年後半にも搭載されるようにすると発表した。これまでMSの展開する事業を徐々に侵食してきたグーグルが、とうとうMSの「本丸」に踏み込むことになる。

 グーグルが初めて開発に取り組む「クローム」は、設計図にあたる基本情報が公開されていて「オープンソース」と呼ばれる「リナックス」をベースに開発。クローム自体も無償で提供する。

 低価格パソコン「ネットブック」向けのOSで、新興国のユーザーなども含めた新しい利用者層を開拓し、ネットを閲覧する際の広告での収入を増やす狙いとみられる。これまでOSや各種ソフトを開発し、それ自体を売って収入源としてきたMSをはじめとした従来型の企業とは一線を画す。

 「OSとはどうあるべきかを考え直す」

 グーグルはクロームの発表の際、こう「宣言」した。MSが普及させたOSの概念を覆そうという「挑戦状」とも読める。

 ■MS、ネット広告で攻勢

 グーグルの攻勢に、MSもただ手をこまねいているわけではない。対抗策を次々と打ち出し、逆にグーグルの牙城であるネット広告でのシェア拡大をもくろむ。

 クロームOSの発表から約1週間後の13日、MSはワープロソフト「ワード」や表計算ソフト「エクセル」などの統合ソフト「オフィス」の簡易版を、10年からネットを通じて無料で提供する計画を明らかにした。

 これと同じサービスをグーグルが展開し、「オフィス」と似たような機能を提供してきたことへの対抗措置だ。サービスを無料で提供して自社のネットをより多く使ってもらい、広告収入で収益を上げるというグーグルの事業モデルと同じ土俵に上がり、真っ向から勝負を挑むことになる。

 出遅れていた検索サービスでも、先月には新サービス「ビング」を立ち上げ、検索シェアの拡大を狙う。さらに、昨年挫折したヤフーとの検索サービス事業での提携が、近くまとまりそうだとの観測も浮上。両社の幹部が接触し、水面下での交渉が続けられている可能性がある。2年越しとなる交渉がまとまれば、グーグルに対する攻勢の足場が固まる。

 ■ソフトの信頼性・収益確保がカギ

 今回の争いで相手の壁を切り崩した側は、IT覇権へと大きく近づく。ただし、両社それぞれの新戦略には課題もある。

 パソコン用OSで、グーグルがMSのシェアを奪うことができるかどうかは未知数だ。グーグルはOS事業を携帯電話向け「アンドロイド」で先行して始めたが、「安定性が十分ではないとして一部の端末メーカーは採用に二の足を踏んでいる」(米紙ウォールストリート・ジャーナル)という指摘がある。新参入だけに、短期間で信頼を勝ち取ることができるかどうかが勝負になる。

 MSの一連のネット戦略では、ネットを通じたソフトの無料提供が短期的には「収益機会を縮小させる」(米アナリスト)という恐れがある。無料化が浸透すれば自らの収益基盤が揺らぎ、これまでの事業モデルを根本から変えなければならなくなるリスクをはらむ。

 両社が激しく争う背景には、不況と寡占という二つの問題がある。

 昨秋の金融危機をきっかけにした世界的な不況は、両社の業績も直撃した。

 MSは1〜3月期に86年の上場以来初となる減収を記録。23日に発表した4〜6月期決算では2四半期連続の減収減益となり、株価が急落した。グーグルも08年10〜12月期決算で04年の上場以来初の減益となり、翌09年1〜3月期は上場以来初めて前四半期比で減収に落ち込んだ。4〜6月期はやや上向いたものの、2〜3倍の増益を続けた数年前までの破竹の勢いは失われている。

 両社とも、それぞれ主力のOS、ネット検索市場では寡占状態にあり、頭打ちだ。成長戦略を描くには、新たな収益源を獲得するよりほかにない。新段階に入った両社の争いは、成長を維持するために負けられない戦いでもある。

     ◇

 ■OS オペレーティングシステムの略。パソコンや携帯電話など、コンピューターを動かすための最も基本的なソフト。メモリーや周辺機器とのデータのやりとりの管理など、重要な役割を果たしている。マイクロソフト社の「ウィンドウズ」や、無償配布の「リナックス」などが知られている。

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