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堅調ヤクルトレディー 地域密着、不況知らず

2009年7月27日2時8分

写真:商品を届けるヤクルトレディーの川口広子さん(右)。いつも笑顔を絶やさない=東京都文京区、飯塚悟撮影商品を届けるヤクルトレディーの川口広子さん(右)。いつも笑顔を絶やさない=東京都文京区、飯塚悟撮影

グラフ:ヤクルトレディーの人数と「ヤクルト400」の販売本数拡大ヤクルトレディーの人数と「ヤクルト400」の販売本数

 不況にもかかわらず、乳酸菌飲料ヤクルトの販売本数が国内で増えています。堅調な理由は消費者の健康志向だけでなく、ヤクルト本社が46年続けてきた「女性による配達」という独特の販売手法にもあるようです。

■配達で築く信頼関係

 東京都文京区の東大・本郷キャンパス近くの住宅街を、電動アシスト自転車が走る。荷台には、商品や氷を詰め込んだ重さ約30キロのクーラーボックス。日本中が日食を待ちかまえた22日、あいにくの曇り空の下をヤクルトレディーの川口広子さん(40)は、いつものように坂道をすいすいと上っていった。

 得意客の自宅の前に電動自転車を止め、呼び鈴を押す。玄関先で1週間分のヤクルト7本を手渡した駒沢敬太郎さん(74)に、「奥さん、きょうは歌舞伎?」と話しかけた。夫婦ともに顔なじみで世間話に花が咲く。「そうそう、お金をいただかなくちゃ」と思い出したように川口さんが笑った。

 「いつもご苦労様です」。ある留守宅のポストには、代金のほかにほぼ毎回、手紙が入っている。川口さんは「きょうは日食が見られなくて残念です」とメモ用紙に書き、商品やおつりと一緒にポストへ。制服の胸ポケットに入れた手帳には、顧客からの手紙がぎっしりとはさんであった。

 ヤクルトレディーになって約8年。午前6時前に起きて洗濯や朝食の支度を済ませ、夫や子どもを送り出した後、8時ごろ販売センターへ。配達地域は、東大の西に広がる約4700世帯と1千近いオフィス。週末を除く毎日、20〜30軒を回り、午後5時ごろ帰宅する。1日の売り上げは3万〜3万5千円で、一般的な販売員の2倍の稼ぎだ。

 1本売るごとに販売手数料が入る「個人事業主」のような立場なので、売れば売るほど収入が増える仕組み。商品を配達するだけでなく、顧客との会話のなかで、時には「もう一ついかがですか」とセールストークも忘れない。

 「売れっ子」になるこつを尋ねると、川口さんは「休まないようにすること」と答えた。配達途中の路地で顧客に会えば、ほほえみかけて、あいさつする。地道に築いた地域との信頼関係を大切にする姿勢が、販売力の源泉だ。

■やる気高める工夫も

 63年に誕生したヤクルトレディーは、企業が主婦など女性の労働力を活用したさきがけ的な存在だ。価格競争に巻き込まれない独自の販売ルートを持つ戦略でもある。

 ヤクルト本社の乳製品のうち、川口さんのようなヤクルトレディー(約4万2500人)による販売本数が国内全体の6割を占める。スーパーやコンビニ、自動販売機でも売っているが、「商品の入れ替わりが激しく、宣伝などの費用も多くかかる」(根岸正広常務)ため、販売員が口コミで売り込める宅配の方が利点が多いというわけだ。

 ヤクルトレディーの1本でも多く売ろうという「やる気」に業績が左右される事業構造だけに、販売員の士気を高める仕掛けは多い。電動アシスト自転車は、販売員の安全を考えた頑丈な「特注品」。クーラーボックス内の商品を直射日光から守りつつ、内部を効率的に冷やせるよう、表に断熱材、裏に保冷剤をはった特殊なシートも開発した。重い氷の量を減らせば、配達が楽になるからだ。

 そうした配慮を尽くしても事務職などと比べれば、重労働だ。国内のヤクルトレディーは73年度の6万5700人をピークに減少傾向にある。優秀な販売員が生命保険会社に引き抜かれるケースも多く、女性が働きやすい環境を整えることにも力を入れる。

 子育て中の主婦を引きとめるため、国内の営業拠点などに約1300の企業内保育所を備え、月5千〜1万円で子どもを預かる。「商品を待つ顧客に健康を届ける」という仕事の意義を強調し、販売のノルマも設けていない。

 こうした積み重ねで、宅配専用の「ヤクルト400」の国内販売本数が伸びている。同製品を含めたグループ全体の乳製品の1日平均の国内販売本数も、08年度は850万7千本と、前年度より0・4%増えた。09年度もほぼ横ばいを見込んでいる。「家計の足しに」と販売員に加わる主婦も増えているといい、根岸常務は「不況も追い風にしたい」と話す。(久保智)

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