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小さな総合商社、躍進 従業員40人、売上高2年で5倍

2009年9月28日0時26分

写真:40人の社員を率いる寺井良治社長=東京都千代田区神田錦町2丁目のイービストレード40人の社員を率いる寺井良治社長=東京都千代田区神田錦町2丁目のイービストレード

 雑誌や飲食店の「おまけ」などで配られるDVDやCDの国内流通量は年1億枚。その3割近くを手がける従業員40人の会社があります。中古車も輸出しようと、日本企業で唯一の「シベリア営業所」まで設置しました。大手商社を飛び出した社長が掲げるのは、小さくても日本一元気な「総合商社」の看板です。

■元は社内ベンチャー

 イービストレードは、東京・神田錦町にある小さな商社だ。06年度にわずか16億円だった売上高は、08年度に83億円まで拡大。経常損益も06年度は3千万円の赤字だったが、08年度は1億6千万円の黒字になった。世界中が不況にあえぐ09年度も黒字を確保し、11年度には3億円まで拡大する見通しだ。

 イービスは00年、大手商社の日商岩井(現双日)の「社内ベンチャー」として立ち上がった。インターネットを使ったビジネスに乗り出そうと、若手社員が主導。NTTレゾナントや三菱東京UFJ銀行などの出資も受けた。

 ただ、ビジネスは思うように進まず、売り上げがほとんどない状態が続く。設立2年目の01年夏、会社再建のため日商岩井が送り込んだのが、寺井良治社長(47)だった。入社以来、化学品の売買で世界を駆け回った営業マンだ。

 ところが、頼みの親会社は経営危機に陥り、ニチメンと04年に合併。双日に生まれ変わると、08年にイービス株をIT系商社のミツイワ(東京都渋谷区)に売却した。

 イービスが成長軌道に乗るのは、この前後のことだ。まず、商品の付録やカタログといった販売促進ツールに使われるDVDやCDについて、内容の企画から委託製造までの一貫サービスを急成長させた。経営指導先の中小企業を活性化させようと知恵を絞るなかで、DVDやCDに目をつけたのがきっかけだった。

 製造コストが安い台湾や韓国のメーカーも自力で発掘。自動車大手や飲食店などに売り込み、09年度は前年度の1・6倍の4800万枚を手がける計画だ。

 世界同時多発テロを機に空港などで需要が高まった防犯機器の代理店にもなり、国内外の市場を開拓。昨年には、中古車売買部門がロシア・シベリアに駐在所を開いた。モータリゼーションが高まるロシアでも、日系企業が進出していないシベリアに商機を見いだしたのだ。

■幹部5人で投資即決

 イービス躍進の理由は何か。寺井社長は「即決できることと、管理費が少なくてすむこと」と分析する。

 その象徴が、長崎県に本社がある水浄化装置の製造会社「マリン技研」の救済劇だ。

 「お願いします。これで1億円貸してください」。今年2月のある日、イービスの応接室のテーブルには、マリン技研の株券が置かれた。数日後に迫った手形決済日までに資金を調達できなければ、倒産は避けられない。

 装置の評判は良く、会社が存続さえすれば、売り上げ拡大が見込めるのに――。寺井社長は、機械の仕組みや会社の概要をひと通り聞くと、4人の幹部に連絡し、緊急会議を開催。約3時間で資金支援を決めると、翌日には長崎に飛び、マリン技研の取引銀行の説得を始めた。

 こうした即決は大企業にはできない芸当だ。内部統制ルールが厳しくなった大手商社は「投融資委員会」などで時間をかけて検討するが、イービスは日頃から顔を合わせている幹部5人が集まるだけなので話が早い。生き延びたマリン技研は、東京都水道局をはじめとする大型案件を次々と受注。寺井社長に紹介された双日の協力で、アジア各国での増販計画も動きだした。

 大手商社の営業マンが求められる利益のノルマは、1人あたり年5千万円とも6千万円ともいわれる。事業拡大にあわせて管理部門が肥大化しているためだ。

 これに対しイービスの管理部門は、全体を統括する寺井社長と経理、庶務などを担当する3人の女性社員のみ。将来性があるとみれば資金を一気に拠出するし、大手が見向きもしない1枚数十円のDVD制作や、成否が見えないシベリアでの中古車販売にも踏み込めるというわけだ。

 イービスが扱う商品やサービスは一貫性がないようにみえるが、寺井社長は「これこそがイービスらしい」という。誰も手がけないビジネスを切り開き、知恵を絞って販路を拡大する――。そんな総合商社の原点の模索が続く。

 帝人、サッポロビール、IHI。数々の「社内ベンチャー」を大企業に育てて独り立ちさせた、日商岩井の前身「鈴木商店」が理想という。(大平要)

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