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トヨタ合弁「NUMMI」、4月閉鎖 地元に広がる不安

2010年3月12日2時8分

写真:トヨタ自動車販売店前で、NUMMI閉鎖撤回を求めて抗議行動をするUAWメンバーら=カリフォルニア州サンノゼ、寺西写すトヨタ自動車販売店前で、NUMMI閉鎖撤回を求めて抗議行動をするUAWメンバーら=カリフォルニア州サンノゼ、寺西写す

写真:インタビューに応じるフリーモント市のボブ・ワシャーマン市長=カリフォルニア州フリーモント、寺西写すインタビューに応じるフリーモント市のボブ・ワシャーマン市長=カリフォルニア州フリーモント、寺西写す

 【フリーモント(米カリフォルニア州)=寺西和男】トヨタ自動車と米ゼネラル・モーターズ(GM)の合弁工場「NUMMI(ヌーミー)」(フリーモント市)が4月1日に生産を打ち切り、26年の歴史に幕を閉じる。約4700人いる従業員は、ほぼ全員が解雇される。2007年12月の米国の景気後退以降、同州では最大規模の解雇となる。地元では経済への打撃を懸念する声が高まっている。

■解雇…「妻の治療、もう受けられない」

 「トヨタはカリフォルニアの雇用を殺してしまう」。フリーモント市近郊のトヨタ販売店前で7日、全米自動車労組(UAW)のメンバーら6人が過激な言葉を書いた旗の前で、閉鎖反対を訴えるチラシを客らに配った。

 UAWのサントス支部長(46)は「生産台数は圧倒的にトヨタ車が多く、事実上トヨタの工場。安定雇用と言っていたのに裏切りだ」と批判する。

 従業員に高まるのは生活への不安だ。NUMMIで9年間働くエスカベダさん(54)。病気の妻は治療で月約27万円かかる。月給は約25万円。NUMMIが提供する健康保険で負担はほとんどないが、解雇後は保険が切れる。

 トヨタは閉鎖に伴い、全従業員に計約225億円の手当を支払うが、「手元に来るのは5万ドル(約450万円)くらい。再就職も難しく、治療が受けられなくなるのは目に見えている」。

 州内にある取引先の部品会社23社への影響は深刻だ。フリーモント近郊の米部品会社ミッションツール&マニュファクチャリング(MTM)。数台のプレス機が音を立て、NUMMIでつくるカローラや小型トラック「タコマ」の部品を次々とはき出していた。生産移管中の在庫確保のため、フル生産という。

 だが閉鎖後は、日本に生産を移すカローラの受注分がなくなり、売上高は15%も減る。米南部のテキサス工場に生産を移すタコマ向け部品は取引が続くが、2千キロ以上に及ぶ輸送費がかかり、フェンク営業部長(48)は「全面改良で部品を新しくした後は工場近くの部品会社に奪われるのでは」と不安を隠さない。NUMMIに受注を絞る取引先の米企業は400人を解雇するという。

 同州の昨年12月の失業率は12.4%と全米50州で5番目に高いが、閉鎖で失業者2万5千人以上が増える見通し。

 市中心部の州職業紹介支援センター。20台あるパソコン席は求人企業を探す失業者で満席だ。

 順番待ちのグレースさんは1年前に電子部品会社を解雇された。夫と妹、いとこを含むと6人がNUMMIで働くという。「私も1年近く仕事が見つからないのに。閉鎖後の生活はめちゃくちゃ」

 NUMMIは開設以降、地域の慈善団体に約5億4千万円以上を寄付。市は昨年、15以上の音楽や演劇のイベントで資金援助を受けたが、今後は寄付や支援もなくなる。ワシャーマン市長は「地域活動に協力的だっただけに、去られるのは大きな痛手」と話した。

 ただ、UAW支部の女性幹部は「GMが経営破綻(はたん)して撤退するほどの経済状況で、トヨタだけに責任を押しつけられない。閉鎖も仕方ないと考える組合員も多い」と打ち明ける。市内は撤退を冷静に受け止める向きが多い。

■トヨタの米戦略に影響も

 NUMMIの閉鎖後の利用について10日、米電気自動車開発会社アウリカ・モータースが「NUMMIで電気自動車を生産して運営を継続する計画がある」と発表した。だが、NUMMI広報担当は「数カ月前に提案はあったが、生産的な議論はなかった」としており、清算回避の見通しは立たない。

 カリフォルニア州では新車の4台に1台がトヨタ車と、トヨタの米国販売台数の15%を占める「稼ぎ頭」。その分、大規模な解雇を伴う工場閉鎖に対する不満の矛先がトヨタに向かえば、米国戦略に影響しかねない。

 近郊のフォード販売店では部品会社を解雇された男性がトヨタ車から買い替えたという。「リコールに加え、閉鎖を決めたトヨタに否定的な顧客の声も聞く」(タラパス販売部長)との声も上がる。

■地元市長「トヨタに否定的な感情ない」

 フリーモント市のボブ・ワシャーマン市長(76)にNUMMI閉鎖の影響などを聞いた。

 NUMMIは歴史的に地域社会の大きな貢献者だった。撤退は寂しいし、雇用が失われるのも悲しいが、競争が激しい業界で事業上の苦しい判断は理解する。GMの撤退がなければ、NUMMIは運営継続できていたと思う。

 撤退するトヨタに否定的な感情はない。GMなども米国で多くの工場を閉鎖しており、市民の大半はトヨタが何か悪いことをしたと感じていない。

 閉鎖による経済的な影響は市内では限定的だ。市の税収も消費税が2〜3%減る程度だろう。NUMMIの従業員の9割は市外に住み、周辺地域は影響が大きい。(談)

     ◇

 〈NUMMI〉 設立は1984年。70年代に日本車の対米輸出が急増し、日米貿易摩擦問題に発展。これを受け、トヨタはGMと折半出資の合弁工場としてNUMMIを設け、初めて米国生産に踏み切った。

 日米自動車最大手が組む工場で、GMはトヨタ生産方式を学んだ。トヨタも、GMから米従業員との関係構築のノウハウを得た。

 だが、経営破綻したGMが昨年6月、運営からの撤退を表明。トヨタも今年4月1日で生産を打ち切る。会社を清算する方向で検討している。

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