現在位置:
  1. asahi.com
  2. ニュース
  3. ビジネス・経済
  4. コラム
  5. 経済を読む
  6. 記事

京の老舗、たゆまぬ改革 古都の風土を素材に生かす

2010年3月23日2時23分

写真:昭和初期の手ぬぐいを復刻。老舗を再生させた14代・細辻伊兵衛社長=京都市中京区の永楽屋、滝沢美穂子撮影昭和初期の手ぬぐいを復刻。老舗を再生させた14代・細辻伊兵衛社長=京都市中京区の永楽屋、滝沢美穂子撮影

写真:手ぬぐいの用途は、ティッシュ箱を包むなど多様=京都市中京区の永楽屋、滝沢美穂子撮影手ぬぐいの用途は、ティッシュ箱を包むなど多様=京都市中京区の永楽屋、滝沢美穂子撮影

地図:  拡大  

表:  拡大  

 長寿企業から学ぶべき経営とは何か――京都大学経営管理大学院と大阪商工会議所が、新たな顧客獲得を続ける京都の老舗(しにせ)の研究に取り組んでいる。老舗は古都の風土、有形無形の資産をどう生かし、生きながらえたのか。2年計画の研究はまだ折り返し点だが、実態調査からは長寿企業の意外な側面が浮き彫りになりつつある。

 京都・室町通。古くからの繊維問屋が軒を連ねる一角に、女性観光客が出入りする新しいビルがある。株式会社エイラクヤが運営する「永楽屋 細辻伊兵衛商店」。京大大学院と大商による共同研究の対象の一つだ。

 売り場には、額に入った色鮮やかな手ぬぐいが並ぶ。古都の風物詩を題材にした作品から、舞妓(まいこ)がスキーに興じるパロディー風の絵柄まで。手ぬぐいという古くも新しくもある素材が、独特のデザインで観光客の心をつかんだ。市場環境が厳しい繊維の世界で、年商は10億円に達する。

 永楽屋の歴史は、織田信長が鎧(よろい)下に着る直垂(ひたたれ)を納めたことに始まる。江戸初期の1615年、絹布問屋として創業。以来、綿布からタオルへと、扱い品目は時代や生活様式の変化を追った。だが、近年はタオル卸も限界だった。

 「私が婿入りした92年当時は債務超過でした」。14代目の細辻伊兵衛氏(45)は言う。売上高も1億円そこそこ。本家の土地を売却して、社員の退職金、借入金の返済に充てた。99年に社長に就任。老舗復活のきっかけは、倉庫の片隅でみつけた昭和初期の手ぬぐいだった。

 「当時は柱になる事業もなかった。どうせなら」と経営資源を手ぬぐいの復刻に投入した。納得できる生地の完成までに1年を要した。機能性だけではなく、発色、デザイン性が問われる手ぬぐい。染色、さらしも取引先と試行錯誤を重ねた。

 納得できる商品は完成した。競合する相手もいない。ただ、売上高は伸び悩んだ。「場所が悪いのか」と思い至り、02年に京都の中心街・四条通に出店。大きな賭けだったが、14代目は「これが転機になった」という。

 今では、年間100の新柄を加える。デザインを学んだことはないが、アパレルに勤務した経験も生きた。逆境での決断が、今の経営を支えている。リストラで7人まで減らした従業員は100人に、店舗は20に増えた。それでも「継続は難しい。とにかく経営を安定させたい」と試行錯誤が続いていることを明かす。

 京大大学院と大商の研究は、永楽屋のほか、宇治茶の福寿園、化粧品・雑貨の「よーじや」でも進んでいる。福寿園はサントリーと提携して売り出した清涼飲料水「伊右衛門」のヒット、よーじやは京都の花街や芸能界で使われていた「あぶらとり紙」を広めて成長を遂げた。

 前川佳一・特定准教授は3社の共通点として「何百年続く老舗にもアントレプレナーシップ(起業家精神)は欠かせない。絶え間ない改革が継続を可能にする」と分析する。また、経営者には「今、私は会社を預かっているだけ。次の世代に伝えていかなければならない」という使命感も共通だという。

 老舗がもつ伝統、しきたりは、経営改革の足かせになる恐れもある。ただ、3社とも、伝統などの有形無形の財産、京都という土地柄から「和」の素材を通して、生き残り策を模索し続けている点も一致している。

 前川氏と大商の研究グループは、研究から導き出される経営ノウハウを分析し、他地域の中堅・中小企業に伝える取り組みを始める予定だ。

   ◇

■「長寿」上位は酒・呉服

 創業・設立から100年以上たつ「百年企業」は、どれくらいあるのだろうか。帝国データバンクのデータベースに収められている営利法人118万8474社のうち、百年企業は1.6%の1万9518社に上る(2008年時点)。

 200年、300年以上の企業は、それぞれ938社、435社を数える。日本最古の企業は、大阪・四天王寺の建造・修復にかかわってきた金剛組だ。578年、聖徳太子に百済から招かれた宮大工の1人が創業した。バブル後に経営危機に陥ったが、中堅ゼネコンの高松コンストラクショングループの支援を受け、新会社が事業を継承した。創業1400年を超える、おそらく世界最古の企業という。

 では、百年企業はどんな業種に多いのか。帝国データバンクの分類では、清酒製造、酒小売り、呉服・服地小売りが上位を占める。なかでも、清酒、しょうゆ、みそなど昔から伝わる発酵技を生かした製造業が目立つ。最古の蔵元は1141年創業の茨城県笠間市の須藤本家だ。

 百年企業が一番多い都道府県は、全体の企業数が最多の東京都だが、百年企業の数を全体の企業数で割った割合は、京都府、島根県、新潟県の順となる。京都は古都ならではの伝統工芸に支えられているほか、島根、山形と同様に第2次大戦中の空襲による被害が少なかったという事情もある。

 島根、新潟、山形、福井など日本海側の地域が上位を占める背景には、江戸時代に北前船の寄港地だったという共通点がある。5位の滋賀県は、交通の要所という地の利をいかした近江商人を生んだ地域でもある。(編集委員・多賀谷克彦)

PR情報
検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内 事業・サービス紹介