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震えが止まらぬ崖っぷち

2009年1月8日

  • 筆者 :風間深志

写真車より速い?ともいわれるオリックスに出会った写真迫力満天のフィッシュ・リバー・キャニオン写真松下先生、キャニオンで出会ったスペインから来た元オリンピック選手の足を診る写真2008年最後の夕暮れを走るフォレスター

 12月30日(火)、晴れ。いよいよナミビアの本命ともいえる「フィッシュ・リバー・キャニオン」に向かう。ここにはアフリカの太古の歴史を刻む大自然がある。そこに至るまでには山道のダートを560キロも走らなければならない。

 朝7時に走行を開始してから合計10時間、連続する車の振動に耐えながら、太陽が西に傾き始める夕方の5時、目的地に着いた。

 管理ゲートをくぐり、初めて目にするフィッシュ・リバー・キャニオン。どうしてこれまで知らなかったのかと不思議に思うほど、圧倒的規模の壮大さとスケール、迫力と荘厳さに満ち満ちた光景が眼前に広がっていた。そのスケールは長さ160キロ、幅27キロ、深さ550mという、世界でも1位2位を確実に争う大きさである。これも一つのアフリカの「極」だろう。

 その名の示す通り、どれほどの魚がいる川なのだろうか、と谷底の一条の白い川筋をのぞき込んだ。ところが流れはあっちこっちで「溜まり」となって分断し、とても大魚の住めるような環境ではなさそうだ。聞けば毎年4月以降、それまでの豊富な降雨量を反映して川はしっかりと流れ下るとのことだった。

 下は奈落の底となる崖っぷちに立ってみた。谷から吹き上げてくる風が何とも言えぬ気分だ。遠くの景色を眺めている内はいいが、谷底をのぞいてしまうと急に腰が引け、ガタガタと震えが止まらなくなる。

 キャニオンにはいくつもの展望スポットがある。中央展望台、夕陽の丘、ナイフエッジ、ロッキーズ・ポイント、ハイカーズ・ポイント(ガイドの随行で実施される4泊5日のトレールツアーもある)などと見所はいっぱいだが、あたりにあまり人影はない。もしこれが日本なら、1年中もの凄い人々が訪れて、そこいら中が規制看板で埋め尽くされることだろう。

 7時40分、西の地平線に沈んでいく夕陽を眺めた。長かったわれわれの旅もそろそろ終わる。

 12月31日(水)、晴れ。大晦日である。しかし、日本と同じような「大晦日」の気分など微塵もない。相変わらずの頭上の太陽はジリジリと強い日差しを地上に降り注ぎ、気温は35度。まわりの風景に動く人影もない。数千年、いや数万年前の風景とまったく変わらぬ原野の「悠久の時間」がここには流れているのだ。日本に置いて来てしまったふだんの自分の「日常」とは一体何だったのだろうか、とそんなとりとめのないことを思った。

 強い日射しの中、今日は25キロ手前のロッジまで車のガソリンを入れに行き、再びフィッシュ・リバー・キャニオンの壮大な景色を見学に行った以外、すべての時間をたまってしまった原稿書きにあてて他には何もしなかった。

 そして夕食後、いよいよ22時からロッジ内の泊まり客と従業員合同の「年越しパーティー」が始まった。彼らは一体どんな風にして正月を迎えるのだろう。従業員たちの顔ぶれはあの「ブッシュマン」として有名な、カラハリ砂漠の住人サン族系(アフリカでは最も古い民族といわれる)の人たちである。

 満天の星空の元、ロッジ脇に大きく張り出した茅葺き屋根のテラスである。CDの大音量の音楽をバックに彼らは皆で踊りはじめた。音楽のジャンルはアフリカン・ミュージックをはじめロックや世界のポピュラーソングなど、あらゆる音楽だった。その中で大人に交じり音楽に合わせて踊る子どもの身のこなしの上手さには驚かされた。彼らの卓越したリズム感や踊り上手はこうした小さい頃からの経験にもとづいているのだ。そして、伯父さんも伯母さんも、お兄さんもお姉さんも皆が輪になって踊って歌う。

 午前0時。全員のカウントダウンでめでたく2009年の幕が開けた。花火をあげ、会場の全員のグラスにシャンパンが注がれ、乾杯! そして「ハピー・ニューイヤー!」の連呼である。皆で抱き合い、握手を交わす。温かく楽しいパーティーに参加させてもらった。

 本日の走行94キロ。

プロフィール

風間深志

かざま・しんじ。冒険家。1950年、山梨県出身。85年、バイクでエベレスト登攀、標高6005mの世界記録樹立。87年、バイクによる北極点到達。92年、バイクによる南極点到達。いずれも史上初。ほかバイクによる冒険、レース参加等多数あり。88年より『地球元気村』(その後NPO法人化)を運営。全国各地をフィールドに自然を軸とした地域づくり・人づくりに取り組んでいる。

 主な著書に『地平線への旅』(文芸春秋)『2DKと大自然』(大和出版)『10万回のキャスティング』(インフォレス)など。

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