■円熟のイタリアンコンパクト
この秋、2度目のマイナーチェンジを受けた「フィアット・プント」。デビューから8年目に入り、その魅力はいよいよ円熟の域に達した!?
■もうひと工夫ほしい「アイドリングストップ」
「フィアット・プント」は「ウーノ」の後継車として1994年に登場した。3代目に当たる現行型は、ウーノと同様にジウジアーロのデザインを採用して2005年に「グランデプント」の名称でデビューしたが、2012年9月、2度目のマイナーチェンジを受け、車名が「プント」に戻された。
マイナーチェンジの内容はシンプルで、基本的なボディーデザインに変更はなく、インテリアやダッシュボードが洗練されるにとどまった。「プント エヴォ」へと進化した1回目のマイナーチェンジで追加されたアイドリングストップ機構も、引き続き採用されている。
そのアイドリングストップは「フィアット500(チンクエチェント)」などと同じ機構らしく、車が止まればいさぎよくスパスパとイグニッションを切る。その効果は確実に燃費に貢献していると思われる。ちなみに、一般道での都内〜横浜往復を含む都市部だけを200km走り回った結果、12.5km/リッターを記録した。
エンジンの止め方はビジネスライクで、例えば右折するために交差点の真ん中で待っている時でもスパっとおかまいなしに止めてしまう。ブレーキを踏んでいるとエンジンを再スタートさせられないから、ちょっと困る状況もある。
上り坂の途中で止まった時に再スタートのためにブレーキを放すと、後ろに下がってしまう。2秒間ブレーキを保持するヒルホールドシステムが装備されているが、アイドリングストップで軽く止まっているような時には、システムの作動圧を発生させられるほどブレーキペダルを強く踏んでいないためか、うまくホールドしてくれない場合もある。なんといってもATゆえに、坂道発進なんて……と軽くみてしまうからかもしれない。左足ブレーキを使えば一瞬の間合いですぐに踏みとどまれるが、右足だけで踏み替えるとヒヤッとさせられることもある。
こんな時はサイドブレーキを引いていればOKだが、せっかくのATなんだから、という気持ちもある。他社のシステムのようにハンドルを切るとエンジンが再スタートするとか、もうひと工夫ほしいところだ。もっとも、ストップ・アンド・ゴーが連続する繁華な場所では、手動スイッチでアイドリングストップ機構をオフにしておけばいいだけの話だが。
■いかにも「欧風」な乗り心地
バケットタイプのスポーツシートは、縫い目の段差がお尻に当たってしまうし、また背面の張りがランバー(腰椎)部より少し高くて胃を圧迫する感じだ。しかし、クッションはソフトでコシがあるタイプなので、じっくり走り込めば自分の体重で馴染(なじ)んでくるのかもしれない。しっかり自分のポジションを決めて、毎回同じ座り方をするのがコツか。
乗り心地は良好である。姿勢はフラットで路面に対する当たりもソフトでしなやか。この辺の乗り味は古き良き時代から続く欧州車の感覚であり、ことさら新しくする意味もない。
最近のクルマ、特にドイツ車には、サスペンションストロークが短く、路面からの衝撃Gはブッシュなどのコンプライアンスで逃がすだけというものが多く見られる。吸収できない分はボディーの姿勢変化にまで影響してしまう。ドイツは路面状況がいいからそれでも構わないのかもしれないが、イタリアやフランスは地方に行けば、まだ路面入力の大きなところもある。
そうした背景があるせいか、プントではサスペンションの基本である、ストロークによって凹凸を吸収する手法がそのまま踏襲されている。だから姿勢はフラットで、アスファルトの修理部分の不整路であるとか目地段差なども含め、全体に乗り心地は良好に保たれている。
■何年も一緒に暮らしたくなる
「デュアロジック」トランスミッションは2ペダルのATではあるが、その動きは通常のMTに近い。自動変速に頼ると「よいしょ、よいしょ」と船を漕(こ)ぐ感覚がある。マニュアルシフトした方が直接狙ったポジションを選べるし、タイミング的にスムーズだ。この辺の呼吸は微妙なコツも必要だが、うまくいった時はうれしいし、下手につながったにせよ大した問題ではない。こうしたクルマとの微妙なやり取りは、むしろ喜びに通じる。
余談だが、日本車で大流行のCVT本来の姿は、プーリー比の幅を大きく変化させられるため、加速と燃費のどちらをとるか、その自由度が大きいところにある。仮にラリー車向けにCVTを設定するなら、左足でブレーキを踏んでいる最中に右足を緩めなければ、エンジン回転を高くキープしたまま下位のギア比に移行させ、ブレーキを放せばその低いギア比による加速が待っている、といった具合だ。つまり、ヒール・アンド・トウを効率よくやってくれていることに等しい。逆に右足一定で、低いエンジン回転を保ったまま高いギア比への移行を待っていれば、省燃費運転が可能である。
もっとも、その途中の変速幅の広さゆえに、どこを使って運転すればいいのかよくわからない一般ユーザーも少なくないだろう。下手な運転だとエンジン回転だけがむやみに上がってしまい、速度上昇がついていかないような感覚もある。そこで最近は、メーカー主導で適当なパターンを作りだして「推奨値」と称する特性カーブで運用するものも多い。しかし、それでも設定幅内の運転ではエンジンの特性に合わない場合もある。そこでスポーツというような、そのまた中間線に設定したポジションを設けるケースもある。
それでもなお、ドライバーが希望する加速を100%実現できるわけではない。機械任せだとどうしてもストレスがたまり、やはり自らの意思でMTを操るのがベストと思うこともままある。この辺の「加速の流儀」は人それぞれ。だから、ひとことでATといっても求められるものは多岐にわたり、ただ単にスムーズに変速してくれさえすればそれでイイというものではないのである。自分で変速作業をしないで機械に委ねたい時もあれば、低いギア比のまま高回転まで引っ張り、意思通りに走りたい時もある。でもクラッチ操作は苦手という人には、プントのデュアロジックは適度な選択領域を残していて、飽きることはないだろう。
その他、こまごましたところを見ていくと、7年前の設計時点なりの古さも散見されるが、クルマ全体の魅力があせてしまったわけではない。最近のクルマはハイパワーであることや、太いタイヤがもらたすレスポンスの良さが取りえで、小手先でセカセカと小さく操るのが今風なのかもしれないが、何ともせわしない。操作内容を熟知した上でじっくり落ちついて走りたい人には、プントが持つ、ある種のどかな居心地の良さは大いなる魅力となるだろう。
エンジンはフィアットだけでなくアルファ・ロメオにも使われている、グループの主力ともいえる1.4リッターである。自然吸気の8バルブSOHCで最高出力は77psと数字上のスペックは低いところにあるものの、1140kgの車重にはこれで十分。ゆったり回して使う、味わい深い性格を持つ。長年使われてきただけに信頼性は高いだろうし、頑丈な作りゆえに耐久性もあるだろう。このまま何年も一緒に暮らせたらイイナというような安らぎさえ感じる。
長年乗り慣れたクルマに乗っていると、新奇なものはいらないから、これと同じ型の新車が欲しいと思うことがある。プントはまさにこの心境を満たすクルマだ。230万円という価格は、チンクエチェントの上級グレードより安い。手頃なサイズの5ドアハッチバックとしてお買い得価格と思われる。
(文=笹目二朗/写真=峰昌宏)