■さらなる速さへ
「GT−R」の歴史は、進化の歴史。ニュルブルクリンク24時間レースからのフィードバックによって、さらに速くなったという2013年モデルを東北のニュル(?)、スポーツランドSUGOで試す。
■止まらぬ進化
2007年のデビュー当時から、日産は「GT−Rは毎年進化する」と言ってはばからなかった。その公約通り、年末には翌年に向けたイヤーモデルがデビューし、これをジャーナリストたちが試乗・評価するのが通例になっている。今回はその最新モデルである2013年仕様「MY13」に、スポーツランドSUGOで試乗した。
MY13における変更点を順に説明してくと、まずGT−RをGT−Rたらしめている3.8リッターV型6気筒ツインターボ(VR38DETT)はMY12と同じ550psと64.5kgmを発生するが、周辺メカニズムの洗練が図られている。
具体的には、高出力用インジェクターを採用し、燃料噴射をより高精度なものとした。また、ターボチャージャーの急激な過給圧低下を抑えるために、過給バイパスに専用オリフィスを追加している。そしてオイルパンに特殊構造のバッフルプレートを設けることで、高G領域でも油圧を安定化。これに伴い、モチュール製エンジンオイル「COMPETITION OIL」をディーラーオプションとして設定した。
シャシー面ではダンパー(ビルシュタイン・ダンプトロニック)、スプリング、フロントスタビライザーを仕様変更。フロントのサスペンションアームにはキャンバー調整が可能なカムボルトを採用した。こうしてアライメント特性を明確化させた上で、フロントのロールセンター位置を従来より下げ、その操縦性をさらに向上させているという。
またダッシュパネルバー2カ所とインストメンバー部にレインフォースを追加してボディー剛性を向上させた。高負荷時の耐久性を向上させるために、ドライブシャフトのハブベアリングに対する締結剛性も高めたという。
■路面に吸い付く「MY13」
サーキットトラックでの試乗は、イン/アウトラップを含めて3周。つまりホームストレートは都合2周できる計算になる。路面は午前中の雨がまだところどころに残った状態で、気温もかなり低かった。そして相手はGT−R。このシチュエーションに緊張感が高まるかと思いきや、意外なことに、筆者の心は躍っていた。それがGT−Rというクルマの魅力なのだろう。
最初に試したのはBlack editionだ。試せる周回数が極端に少ないため、日産のエンジニア氏のお薦め通りに、トランスミッション、ダンパー、VDC−Rのモードは全て「R」を選んだ。
ピットロードを出て中速の3コーナーへ飛び込む。加速ではアクセルを全開にしつつも、ブレーキングからターンインにかけては路面とタイヤの状況を確かめるように操作する。その「確認」の段階から、MY13の違いはすぐにわかった。
GT−Rに対して筆者は、ある種「サイボーグ」的な印象を持っていた。高い荷重でタイヤを押しつける“作動領域”(ニュル領域と言うべきか?)に入って初めて適正なダンピングを得るサスペンションは、路面が平らな国内サーキットでは、タイヤへ急激な入力を与える一面があった。当然、一般道での乗り心地は、カドこそ丸いがはっきりと硬かった。
MY12モデルではそこにしなやかさが加わって話題となったが、今回はさらに、ステアリングの切り始めに「吸い付き感」が加わった。これがフロントロールセンター位置の変更による効果なのだろうか。
もっとも今回の変更は、ニュルブルクリンク24時間耐久レースで得たデータをフィードバックしているというから、この追従性の良さは乗り心地への妥協ではなく、GT−Rとしての正常進化と言えるのだろう。とにかく運転しやすいのだ。
また今回の進化とは関係ないが、Rモードの電子制御も素晴らしかった。半乾きの路面をコーナリングする際に、メーターではVDC−Rがせわしなく点滅しているというのに、ドライバーは全くそれを意識しないで済む。最小限の介入で、まるでFRのように素直な旋回特性を示した後、550psのパワーを全開で路面に叩きつけることができる。
ただし速度レンジが上がると、フロントのロール量の多さを感じたことも付け加えておきたい。ロールセンターを低めた分だけ重心位置との距離が離れたせいなのか、コーナーを曲がったときにややフロントの重さが残る。タイヤが滑ってしまうほどのアンダーステアは出ないが、やや鼻先が重い印象がある。
■「乗せられるR」から「乗りこなしたいR」へ
次に乗った「Pure edition」は、それに対する回答のようなモデルであった。これにはGT−Rの開発ドライバー、鈴木利男氏が主宰する「NordRing(ノルドリンク)」と共同開発した専用のサスペンションをはじめ、チタン合金マフラー、ドライカーボン製リアスポイラー、「SpecV」用ブレーキ冷却用エアガイドといった専用カスタマイズオプション「For TRACK PACK」が装着されていたのである。
低められたロールセンターが、リニアにノーズをイン側に向けた後、少し強められた足腰がロールを支える。決して強烈にサスペンションを固めているわけではなく、体感的には2割増しといった雰囲気。だからコーナーへ入ると、スタンダードモデルのような鼻先の重さはない。かといって過敏にノーズを内側へ向けるわけでもない。同時にリアグリップも引き上げられているため、基本特性は弱アンダーステア。そしてBlack editionに対し、圧倒的に修整舵が少ない。
これをニュートラルステアに持ち込むまでには、周回数と、センスと、エスケープゾーンが大幅に足りなかったが、メーカーがアマチュアドライバーに用意したスポーツパッケージとして、非常に安全な仕上がりになっていることは確認できた。個人的にはこのフロントグリップレベルと、ノーマルのリアを組み合わせたら面白そうだと感じた。ともかくこのFor TRACK PACKは、GT−Rの可能性を広げたと思う。
正直これだけの完成度を誇るクルマが、「ニュル最速」だけで語られるのは惜しい。For TRACK PACKを設定したことで、GT−Rはロードカーとしての幅を得たのだと信じるからだ。
ちなみにSUGOの外周路でもMY13モデルを試乗した。まだ若干の硬さは残るものの、比較試乗車であったMY11モデルよりも、圧倒的に自然な乗り心地である。なぜ比較試乗車がMY12ではなくMY11だったのかはノーアナウンスだったが、それは両仕様の差が公道レベルでは少ないからだろう。それでも個人的には、何度も言うがFor TRACK PACKがあるのだから、スタンダードモデルはもっとしなやかであってもよいと思う。
今までGT−Rは、広く言えば誰が乗っても「切れば曲がるクルマ」だった。しかしその先のスイートスポットは狭く、本当にうまく曲げるには、一定以上のスキルが必要だった。今度のGT−Rも、依然としてその領域へ到達するためにはスキルが必要だが、ドライバーがこれに「チャレンジしよう」と思える優しさ、懐の深さを得た。
登場から5年目にしてGT−Rは、ドライバーが「乗せられていると感じるクルマ」から「乗りこなしたいクルマ」にまで進化したのだと思う。あらためて思うに、これはすさまじいことである。
(文=山田弘樹/写真=小林俊樹)