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勇気の決断

2009年6月14日

  • 筆者 明嵐正彦

写真拡大スタート前のムルシエラゴRGT―LM

 土曜日になりました。

 私たちのムルシエラゴRGT―LMは、練習走行では足まわりのトラブルで、わずか400メートルでストップ。予選では修復する部品の調達が遅れ、走り出したものの時間切れで予選不通過。さらに細かいトラブルを抱えていました。

 金曜日の昼間、則竹代表は熟考の結果、予選不通過を受け入れて、リタイアをしようという決心をしました。それを受けて、アピチェッラ選手はクルマで来ていることもあってイタリアに帰りました。私たちも土曜と日曜をどう過ごそうかと考えていました。

 そこへ主催者であるACOから連絡があり、予選はいいからスターティンググリットに並んで、できれば決勝も走れるだけ走ってほしいという要望がありました。このお誘いは大変ありがたいですが、すでにドライバーは2人ですし、一部のメカニックも帰ってしまって、今から再度決勝へ参加する事には大きなリスクがありました。

 それでも私たちのマシンは予選不通過後も整備をすすめ、問題なく走れるレベルにありましたし、日本人ドライバーも2人で走り切る意欲がありました。が、問題はスペアパーツが1点不足していることでした。

 今回、5000万円分の新品パーツを持ってきましたが、昨日さらに不足分のスペアパーツを日本から急いでメカニックに運ばせました。これでスペアパーツは万全と思っていましたが再度点検すると、あるパーツが不足していました。

 それはわずか2万円のものでしたが、レースで何かあったら替えがありません。ランボルギーニのマシンは特殊で、特にそのパーツは他のチームであるとか、町の中においそれとある物ではありません。

 もしかすると、1000kmレースならゴーサインを出すケースですが、それとは比較にならない距離を走るこのル・マンでは、ドライバーの安全と他のチームに迷惑をかけないことを考えなくてはいけません。そこで我々は、フォーメーションラップが終わりスタートしたら1周でピットに入り、そこでリタイアすることにしました。

 この悔しさは、11月に岡山と上海で予定されているアジア・ル・マンシリーズで晴らしたいと思います。そして来年こそは、このル・マン24時間レースで完走を果たしたいと強く思います。

 リタイアすることは、走ることより勇気がいります。もしかしたらうまくいって24時間走り切れるかも知れませんが、そんな賭けをするということ自体がこの偉大なル・マンに対しての冒とくです。自動車メーカーが運営するワークスチームが勝てないレースをリタイアするのは、勝たないと意味がないからです。でも、私たちプライベートチームが、走ることができるのにレースをあきらめるのは、なかなかできることではありません。

 私たちのメカニックは日本人とドイツ人、フランス人からなる集団ですが、リタイアすることが決まったとき、みんな泣いていました。予選でいいタイムを出す自信も、レースで完走する自信も、彼ら一人ひとりの心の中にはしっかりありました。そんなところにもル・マンの偉大さを感じずにはいられませんでした。

 というわけで、今ピットでリタイアしたマシンを前に、この原稿を書いています。

プロフィール

明嵐正彦(めあらし・まさひこ)

JLOC(日本ランボルギーニオーナーズクラブ)広報と、スーパーGTレースはTeam JLOCマネージャー兼、87号車の監督を務める。JLOC公式サイトも制作・管理している。自動車雑誌「GENROQ」元編集長だけあって、スーパースポーツカーに関しては世界的レベルの専門家。数十万円掛けたマウンテンバイクで、浅草界隈を毎日走るのが目下一番の趣味。 JLOC公式サイト http://www.jloc-net.com/

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