現在位置:asahi.com>愛車>復活!風間深志のユーラシア横断> 記事 ![]() パトカーの先導で「熱烈歓迎」2007年07月18日 ◆7月9日 月曜日
安宿だから仕方がないが、昨晩は水もお湯も出なかった。朝になってようやく水が出るようになった。食事やベッドも大事だが、まずは水が出ないことにはトイレも我慢しなくてはならない。 今日はいよいよ当初の目的であるクルガン市のイリザロフ治療センターへの訪問の日。頭も体も洗っておらず気になるが仕方がない。P403号を南下して再びM51へ戻り西へ。クルガンまで186キロという看板のところで、聞き及んでいたとおりに出迎えのパトカーが待機していて、以降はパトカーに先導してもらいながら走る。ところが、そのパトカーの先導が実にすごかった。パトカーは中央分離帯の白線をまたぎながら青/赤の回転灯を回して走るのだが、ロシアの規則では向かってくる一般車両はこの緊急パトカーを確認し次第、速やかに路肩脇への停車か徐行運転をしなければならないことになっているらしい。もしもこれを怠ったり路肩への幅寄せが甘かったりした場合、パトカーは即座にサイレンと拡声器(かくせいき)で威嚇しながら躊躇(ちゅうちょ)なくハンドルを対向車に向けてこれを撃退する。まるで犬や猫を追い散らすのと同じ方法だから、最初は嫌な気分だったが、あまりに楽な「そこ退け!」気分。次第にまんざらでもなくなってくるのだから、人間とは恐ろしいもの。 そして、道路はクルガン市の入り口にさしかかる。何やら大勢の人たちが集まってこっちを向いている。マラソン大会か何かのゴール風景かと思いきや、なんと我々に対する正式な「お出迎え」らしい。TVカメラや新聞、雑誌の報道陣、日本とロシアの旗を振り持つ地元の人々、そしてバイクのライダーたちなど、その数はざっと50人。さっそく、「ここまでの旅で何が一番大変だった?」「クルガンの第一印象は?」などのインタビューや写真の撮影にこたえたり。ついさっきまで顔も洗えなかったはずの旅人が、一躍、町中のヒーローに豹変(ひょうへん)した。 地元ライダーたちも加わって市内までの大行進。そして、まるで宮殿のようなイリザロフセンターのゲートをくぐり正面玄関へ。ものすごい数の人々が、拍手とともに出迎えてくれている。同センター長をはじめクルガンの市長、地域の名士、婦人会、そして病院中の人々(アイスレースの世界チャンピオンまでがいる)。ここまでやるか? というほどのその熱烈な歓迎ぶりに、ただただこちらは戸惑うばかりだった。
◆7月10日 火曜日 今日は朝から終日イリザロフセンターの見学。案内人はセンター長のウラジミール・シェフトフ先生(70)と我々横断隊の総指揮・帝京大学付属病院整形外科の松下隆教授(前国際イリザロフ研究会会長)の2人だ。 まずは、このセンターの創設者イリザロフ博士の博物館から見学を始める。それによると、この画期的な治療方法(金属の創外固定器により、張力を使った皮膚、筋肉、骨の組織を作り出す方法)は、ロシア国内ではかつて東京オリンピックで走り高跳びの金メダリストとなったブルンメル選手のバイク事故による外傷後のやっかいな骨髄炎を治し、見事にメキシコオリンピックで復活させたことから旧ソ連政府から高い評価を受け、一躍脚光を浴びることに。そして、西側諸国に知られるようになったきっかけは「コンチキ号漂流記」で有名なイタリアの冒険家カリオ・マオリ氏が、冒険中に負った足の外傷による骨髄炎の治療に苦慮(ずっと治らなかった)していた折、アラスカで出会ったソ連兵に聞いた話からマオリがイリザロフ博士を訪ね、あっさりと傷を完治をさせたところからはじまる(1972年)。 同センターの病棟のベッド数は1000床で、現在は800人の患者が治療を受けていた。手、足、腕、膝(ひざ)、骨盤、脊髄(せきずい)、果ては頭蓋骨(ずがいこつ)など、内臓以外のすべての個所についての専門治療を行っている。それぞれの担当医師のレントゲン写真による説明と実際の患者を招いての治療後の経過説明など、懇切丁寧に一日がかりで病院中を見せてもらった。かつては自分にも経験のある病院での治療であるが、数多くの患者から勇気とエネルギーをもらったような気がした。「がんばって!」と声をかけながら自分にもかけがえのないパワーをもらったような気がした。 今や全世界から注目されているイリザロフセンターを実際に見ての印象は、さながら人間の「再生工場」のようだった。何百人もの患者の全員が明日への健康回復を願い頑張っている姿は、人間の本当の元気と健康の意味=運動器の大切さを教えてくれているようだった。 日本でも、最近になってイリザロフ法による治療は「コスメティック(美容)」の観点から注目されはじめたが、昨日まで健康だった人間を元の姿にして、一日も早く社会に復帰させるという外傷治療への貢献にこそその真価がある。 プロフィール
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