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イタリア発アモーレ!モトーレ!

ワイパーよ、さらば

2008年03月21日

■ワイパー悲歌

写真『イドラ』プロトタイプ。パワーは燃料電池もしくは電気を想定
写真ピニンファリーナ時代の名作、フェラーリ・デイトナ
写真『イドラ』のフロントガラス脇に装着された噴射口ダミー
写真水と空気の噴射イメージ(FIORAVANTI photo)
写真右からフィオラヴァンティ氏、子息のルカとマッテオ

 イタリアで路上駐車しているボクのクルマは、すぐに埃っぽくなってしまう。北アフリカから吹いてくる風・シロッコの仕業である。そのため毎回クルマを乗り出す前にウォッシャー液をピューピュー出しながら、ワイパーを数往復させ、地中海を渡ってきた砂を拭い落とす。

 だが、ときとしてワイパーは幾重もの筋をガラス面に残す。「路駐」の間に、ワイパーのゴムが太陽に晒されて劣化してしまうのだ。

 幸いにも数年前からディスカウントスーパーで、該当サイズのワイパーブレードが売られるようになった。下手にゴム部分だけ取り換えるより安かったりする。

 しかしイタリアでは洋服でも同じだが、安物は「それなり」でしかない。だから何度買い替えても、あっという間にだめになる。

 仕方がないので、「砂漠を走る(ダカール・ラリーの)増岡浩選手!」などと、たわいもないことを叫びながら、汚いウィンドーのまま走り続けていたりする。

 しかし劣化したワイパーのゴムは雨滴もきちんと拭き取れない。これは危ない。そこで日本から買って帰った窓ガラスに塗るケミカル剤、いわゆる液体ワイパーを使う。しかし効果が持続する期間が限られている。

 まあドイツ・ブランドの最新型ワイパーブレードをぽーんと買えばそれなりの効果は期待できるのだろうが、円換算で7000円近くする。加えて我が家のように青空駐車し、出発前に砂を払っていれば、いくら高級品でもこれまた劣化は早いだろう。

 ワイパーの性能向上やゴムの品質改良に取り組んでいる人たちには済まないが、もっと根本的に何とかならないのか。

 そんなボクの気持ちも知らず、目の前で黙々と往復を繰り返しているものだから、さらに悲しくなってくる。

 自動車好きご用たしの名作フランス映画『男と女』では、ワイパーを作動させながら走る初代フォード・マスタングがたびたび登場するが、ボクにとってはそれさえも鬱陶しいシーンに映ってしまう。

■水と空気を噴射

 と思っていたら、ワイパーのことをきちんと考えている人がいた。イタリアのカースタイリスト、レオナルド・フィオラヴィンティ氏である。

 イタリア車ファンにはお馴染みの名前だが、簡単に経歴を紹介しておこう。フィオラヴァンティ氏は1964年にカロッツェリア・ピニンファリーナに入社。24年間の在籍中に365GTB4デイトナや365GT4BBなど数々の名作フェラーリを手掛け、研究開発部門のトップにまで昇格した。

 1987年に自らのオフィスを設立。その傍らで、1988年から1991年までフィアット・グループで、フェラーリの役員やフィアット・デザインセンター所長も務めた。

 そのフィオラヴィンティ氏が、3月6日から16日に一般公開されたジュネーヴ・モーターショーに、ワイパーを取り払った『イドラ』を公開したのである。

 公開されたのはプロトタイプだが、アイディアは以下の通りだ。

 ウィンドスクリーンには、ナノテクノロジーにより撥水効果をもたせた4層の透明フィルムが貼られている。同時にガラス形状を研究したことにより、走行中の風圧だけできわめて効果的に雨滴や汚れが吹き飛ぶという。

 停止時にはどうするのか? というと、実はそこも「見せ場」だ。ウィンドーの上下左右に30ミリ間隔で開けられた小さな穴から、水と空気を噴射するのである。

 加えてフィオラヴァンティ氏は「霜も、今までのように寒空の下スクレーパーを使ってガリガリ落とす必要がなくなります」と力説する。

 このシステムは、鉄道、船舶、航空機と、あらゆる乗り物に応用可能という。

■取り残されたパーツ

 ところで、なぜフィオラヴァンティ氏はこの発明に至ったのか?

 それに対して、インジェネーレ(イタリアで工業を専攻した人に対する敬称)は、こう答えた。

 「昔、ある自動車競技に出場したときです。ワイパーを作動させたのですが、まともに機能しない代物でした。かえって使わないほうが視界良好なくらいで(笑)」

 そして、両手の指でワイパーが作動するジェスチャーをしながら、「以来、自動車誕生から100年、基本的に何も進化がないワイパーの存在に疑問を抱き続けていたのです」と付け加えた。

 冒頭のように、従来のワイパーに悩まされていたボクとしては、いたく感激する発明である。

 そこで自宅のパソコンで作成し持参した「ワイパー、ダメ」を、フィオラヴァンティ氏に持ってもらったのが5枚目の写真である。

 ちなみにこの日本語貼り紙、インジェネーレが大変気に入ったようなのでボクは進呈してきた。

 長男で1997年から父の仕事を手伝うマッテオによれば、すでに関連特許は取得済で、現在はフィルムの効果がどのくらい持続をするかをメーカーと検証中であるという。

 ワイパーが「歴史的部品」として自動車博物館のショーケースに入る日が、いつか来るかもしれない。

プロフィール

大矢アキオ Akio Lorenzo OYA
 歌うようにイタリアを語り、イタリアのクルマを熱く伝えるコラムニスト。1966年、東京生まれ、国立音大卒(バイオリン専攻)。二玄社「SUPER CAR GRAPHIC」編集記者を経て、96年独立、トスカーナに渡る。自動車雑誌やWebサイトのほか、テレビ・ラジオで活躍中。
 主な著書に『イタリア式クルマ生活術』『カンティーナを巡る冒険旅行』、訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(いずれも光人社)。最新刊は、『Hotするイタリア―イタリアでは30万円で別荘が持てるって?』(二玄社)。

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