現在位置:asahi.com>愛車>イタリア発アモーレ!モトーレ!> 記事

PR情報



イタリア発アモーレ!モトーレ!

おかずのついでに「中国車」

2008年05月02日

■drというクルマ

写真

dr5と販売員のサルヴァトーレさん

写真

真剣な眼差しを注ぐお客は意外に多い

写真

展示スペースは文房具売り場の脇

写真

屋外に待機する試乗車

写真

これが噂のdrファッションだ!

 ここのところイタリアでは朝テレビをつけると、8時のニュースの直前に、あるクルマのCMが流れる。

 その名は『dr(ディーエッレ)』である。昨年11月にイタリア南部モリーゼ州で組み立てが開始された前輪駆動のSUVだ。

 だが何よりも話題となったのは、ベースとなっているのが中国・奇瑞(チェリー)製のSUV瑞虎(ティゴ)であることだ。ヨーロッパ初の記念すべき現地組み立て中国車というわけである。

 現在発売されているのは、『dr5』と呼ばれる5ドアモデルのみで、エンジンは奇瑞製の4気筒16バルブ1597cc、変速機は5段マニュアルのみだ。近い将来、フィアット製のターボディーゼル仕様や3ドアの『dr3』も追加されるという。

 装備はABS、革内装、エアコン、運転席・助手席エアバッグ、mp3/USB対応CDプレイヤー、パワーウィンドー、電動サンルーフ、盗難防止付きリモコンキー、電動ミラー、16インチアルミホイール、メタリックペイント・・・と盛りだくさんである。

 にもかかわらず付加価値税込15,900ユーロ(約257万円)という低価格も、イタリアでは格好のニュースとなった。

 さらに話題となったのは、イタリアの大型スーパー『イペル』を通じて販売されるということだった。ちょうど発売開始が昨年12月だったこともあり、クリスマス商戦のトピックとしても盛り上がったのを覚えている。

■文具売り場の脇で

 先日、北部コモ郊外の『イペル』に立ち寄ったときのことだ。文房具とパソコンの間に埋もれるように、1台のSUVが展示してあった。噂のdrである。

 クルマの横には簡単な事務&接客スペースが設営されていて、ひとりの青年セールスマンがいた。サルヴァトーレ君という彼は、さっそく説明を開始してくれた。

 「現在drは、イペル25店舗のみの販売です」

 フルオプション仕様の単一車種で、古いクルマの下取り業務を行なわない。配る資料もカラー1枚のリーフレットと、白黒コピーの価格表のみである。コストダウンが徹底されている。

 「メタンやLPG燃料を併用できる仕様も、今ならガソリン仕様と同値段で提供中」といった、スーパーマーケットっぽいキャッチも価格表に躍る。

 なおアフターサービスは全国の指定工場で受けられる。たとえばコモがあるロンバルディア州内には15カ所、ミラノ市内だけでも2カ所がある。さらに通話料無料のロードサービスもバックアップするという。

 何はともあれ、さっそく実車を見せてもらう。サルヴァトーレ君いわく

 「(トヨタ)RAV4にそっくりでしょ」

 おいおい、それを言うなよ!と思わず突っ込みを入れたくなった。メタリック塗装の輝度が一見するだけで均一性に欠けていたり、リアコンビネーションランプの縁にはプラスチックの“ばり”が見られる。ドアノブの造りも頼りない。

 革シートも、お客が乗り降りしただけであるのに、すでに座面のサイド部分がへたりを見せている。エアコンのダイアルの操作感も落ち着かない。

 タイヤも格安ブランドとして市中で売られているものだ。まあ、これについては自分のクルマに同じブランドのタイヤを履かせているボクとしては何も言えないが・・・。

■なかなかの滑り出し

 しかしイタリアには、細かいクオリティ云々よりも、ラフに使えるクルマが好きなユーザーが多いこともたしかである。10年ほど前までロシア製の『ラーダ・ニーワ』や『UAZ』、ルーマニアの『アロ』といった簡素なオフロードカーが人気を博していたことがそれを証明している。たとえクオリティが最高レベルになくても、多くのイタリア人ユーザーは器用で、ちょっとした修理なら自分でこなしてしまうことも、そうしたクルマの販売を支えたのだろう。

 サルヴァトーレ君によると、お客さんの所得階層は多岐にわたり、女性にも人気という。「フィアット・グランデプントの値段でフルオプションのSUVが買えるのは、やはり大きな魅力のようです」

 フロントフードには、すでに全店舗で1154台成約したことを示す紙が貼られている。過去5カ月で割り算すると月約230台である。イタリアにおけるトヨタ・プリウスの2月の登録台数が290台だから、それなりの成績だ。納車まで3カ月半待ちというのも人気を窺わせる。

 ボクがしばらく観察していると、スーパーに訪れたお客さんが次から次へと、ある人は奥さんとともに、ある人は子供を乗せたカートを置いてdrを熱心に眺めている。そしてかなりの確率でサルヴァトーレ君に質問し、今晩のおかずになると思われる買い物カゴにリーフレットを入れて行った。

■進むか?クルマの「腕時計化」

 『イペル』におけるdr販売期間は、現在のところ6月までだ。以後は結果次第のようだ。大学の法学部を卒業して販売員になったというサルヴァトーレ君の仕事も、現段階では6月までらしい。

 それでも彼は、展示車と駐車場に停めてある試乗車両方を、たったひとりで面倒をみている。少ない人員も低コスト車ならではだ。前述のようにクルマとしてのクオリティはまだまだの感があるが、販売手法としてはなかなか面白い試みだと思う。

 ちなみにボクが店を訪れた日、同じコモでは、往年の名カロッツェリアの復活版モデルのお披露目が行なわれていた。受注生産による一品製作を目指した超高級車である。

 30万円カーとして話題になったインド・タタ社の『ナノ』といい、近いうちクルマは腕時計の如く超高級品と低価格品の二極分化が進むのではないか?とさえ思ってしまったのだった。

 ついでながら楽しかったのはクルマの脇のショーケースだ。さまざまな『drグッズ』が売られていたのである。

 キャップ、ベルト、Tシャツ、全身drファッションで固められる勢いである。

 メルセデスやBMWではあるまいし、クルマ自体の知名度向上もまだこれからという今の段階で、グッズを買うお客さんなどまずいないだろう。だがメーカーの熱い思い入れを感じ、思わずジーンときてしまったボクだった。参考までに記すと、drとは組み立て会社の社長であるデ・リージオ氏の頭文字である。

プロフィール

大矢アキオ Akio Lorenzo OYA
 歌うようにイタリアを語り、イタリアのクルマを熱く伝えるコラムニスト。1966年、東京生まれ、国立音大卒(バイオリン専攻)。二玄社「SUPER CAR GRAPHIC」編集記者を経て、96年独立、トスカーナに渡る。自動車雑誌やWebサイトのほか、テレビ・ラジオで活躍中。
 主な著書に『イタリア式クルマ生活術』『カンティーナを巡る冒険旅行』、訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(いずれも光人社)。最新刊は、『Hotするイタリア―イタリアでは30万円で別荘が持てるって?』(二玄社)。


このページのトップに戻る