現在位置:
  1. asahi.com
  2. ライフ
  3. 愛車
  4. イタリア発アモーレ!モトーレ!
  5. 記事

東京モーターショーの未来を見た

2008年12月12日

  • 筆者 大矢アキオ

写真オペルのフラッグシップでイタリア初公開のインシーニャ写真トヨタiQは、会場でも高い関心を呼んでいた写真ローマから来た若者たち。中国・イタリアの合弁SUVに乗る写真フォードの写真撮影。横から見ると、かなり間抜けである写真ベネヴェントの若者。コンパニオンとカメラに収まる

■「女性割引」はあるものの

 先日の特別編で書いたとおり、トリノ・ショーなき今、ボローニャ・モーターショーはイタリアで唯一の国際自動車ショーである。

 ※ボローニャ・モーターショー報告

 ※ボローニャショー写真特集

 それでありながらイタリアの多くのブランドやカロッツェリアは、より国際色が強く、ニュース性が高い世界5大モーターショーで新型車を発表するようになってしまった。

 ボローニャからは、トリノのカロッツェリアで最後まで唯一出展していたピニンファリーナもいなくなってしまった。小さなメーカーも年を追うごとに出展を見送るようになった。ついでにいえばデ・トマゾも、事業の清算とともにボローニャ・ショーから消えた。

 にもかかわらず、ボローニャ・ショーは入場料が高い。大人24ユーロ(約2880円)である。

 世界5大ショーのパリサロンが半額の12ユーロ(約1440円)、ジュネーブ・ショーがさらに安い14フラン(約1060円)なのと比べると、いかに高いかがわかる。加えて、ボローニャではインターネットによる前売りは手数料名目で2ユーロが加算される。日本における「前売り券イコール格安」の常識からは想像できない料金体系になっている。

 唯一評価すべきアイディアは、週末に限り4ユーロ引きの女性優待券が設定されていることだ。

■目立つ若者

 しかし一般公開日の6日(土曜日)に会場を訪れてみると、開門の8時半前から、来場者による多くの車が押しかけた。テレビやラジオの交通情報も、早くからボローニャ見本市会場インター近くの渋滞を報じ始めた。ローマから来たある男性は、職場の同僚3人と早朝に家を出て400キロ近くを走ってやってきたという。

 周辺には、ピサ、ジェノヴァなどイタリア各地からキャンピングカーで来た来場客も多く見られた。

 会場に入った途端気づくのは、若い来場客たちが多いことだ。妙にハイになっているグループがいるので聞けば、南部ベネヴェントから来た若者たちだった。バールマン、コンピューター関係、自営業、失業中という4人組である。彼らは、早朝0時半に現地出発のモーターショー観光ツアーのバスに乗り、朝9時過ぎに到着したという。

 パリサロンといいジュネーヴ・ショーといい、最近は会場を訪れると、年配の来場者が目立つ。それに対して、ボローニャにそうした「来場者高齢化」の気配は、まったく感じられない。

 若者たちは、好みのコンパニオンの腰に腕をまわし、友達と写真を撮りあっている。親が見たら泣くであろうその姿、どちらかというとチューニング系ショーの「のり」である。それもオーディオやパーツ系のみならず、主要自動車メーカーのコンパニオンとも同様に記念撮影しているではないか。

 そうした若者たちの心をつかもうと、多くのスタンドが人気FM局とのコラボレーションでDJショーを催す。

その多くが来場客をステージ上に招き、日本のラジオにおける毒蝮三太夫のごとく「お客さん、どこから来たの?」から始まるトークを繰り広げる。そしてちょっとしたゲームのあとにノベルティを贈呈する。

 ちなみにもっと簡単ながら意外に人気を呼んでいたのは、フォードのスタンドだった。ラリー・ドライバーのレーシング・スーツである。お客はその背後に回り、顔だけ出して記念撮影するという企画たせ。日本の観光地に昔からあるものと同じ手法だが、かなりの人だかりができていた。経営危機ゆえB級映画並みの低予算で済ませなければいけなかった(であろう)フォードとしては、ほっと胸を撫で下ろしていたに違いない。

■邪道でないかもしれない

 こうしたボローニャの姿をモーターショーの「邪道」と片付けるのは簡単だ。

 しかし、モーターショーというものの存在自体が問われる中、それは生き残るためのひとつの方法ともいえる。

 何しろ若者のクルマに対する関心が冷めつつある今日においても、彼らをここまで繋ぎ留めているのは驚くべきことである。

 そんなことを考えて歩いていると「エイ(=ヘイ)!)」と声をかけられた。見れば前述のベネヴェントの若者たちが笑っている。こういう“即座に友達のり”がイタリアのショー会場らしい。

 自動車業界の危機をどう思うか?とのボク質問に、彼らのひとりは、「経済危機は深刻でも、自動車業界の危機は早めに去るぜ」と答えた。

 同様にボクが聞いた地元ボローニャの青年も「乗るクルマを経済的なモデルに乗り換えれば、凌げるさ」と言う。そういえば、前述のローマから来た4人組のひとりも「イタリア人のクルマ好きは止められないよ」と大らかに証言していた。

 もちろん彼らの答えにまったく根拠はない。だがそういう幻想をいっときでも抱かせるなら、ボローニャ・ショーはエンタテインメントとして成功している。彼らにとって24ユーロの入場料は“1日お楽しみ”の代価として、納得できるものに違いない。

 たとえ世界の主要ショーとして数えられなくても、イタリア唯一の国際モーターショーは自らの道を見出している。

 それは我が東京モーターショーにとっても未来の姿として、ひとつの選択肢かもしれない。ついでに、中国車や中国メーカーとの合弁車が目立つのも、日本の未来の姿?というのはブラックユーモアが過ぎるだろうか?

プロフィール

大矢アキオ

歌うようにイタリアを語り、イタリアのクルマを熱く伝えるコラムニスト。1966年、東京生まれ、国立音大卒(バイオリン専攻)。二玄社「SUPER CAR GRAPHIC」編集記者を経て、96年独立、トスカーナに渡る。自動車雑誌やWebサイトのほか、テレビ・ラジオで活躍中。

 主な著書に『イタリア式クルマ生活術』『カンティーナを巡る冒険旅行』、訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(いずれも光人社)。最新刊は、『Hotするイタリア―イタリアでは30万円で別荘が持てるって?』(二玄社)。

検索フォーム
キーワード:

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内