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加藤久美子の乗ってナンボ

妊娠中もシートベルトを


 私は7年ほど前から、妊婦のシートベルト着用を啓蒙する活動をしています。この7年間で自動車メーカーの姿勢はかなり変わったと思われますが、一般ユーザーの認識はまだまだです。他の先進国と比較しても、妊婦や子どもに対する交通安全意識は、恐ろしく低いといえるでしょう。世界に誇れる自動車を数多く生産している日本ですが、安全意識はまだまだ世界に誇れるものではないようです。

 日本を除く先進国のほとんどは、妊婦のシートベルト着用が法律で義務づけています。法規制の有無に関わらず、自分の身は自分で守るという意識の高い国では、妊婦はシートベルト着用が当然という考えです。

 妊娠の話となると、どうしても男性にとっては「なんとなく恥ずかしい」「触れてはいけない世界」という意識が働くのか、たとえ自動車技術者であっても、警察官であっても、このテーマを敬遠しがちに思えます。

 チャイルドシート同様、「母と子の安全」に関する取り締まりや啓蒙活動が徹底しないのには、こんな背景が少なからずあると私は思います。やはり、法制化しかないのでしょうか。しかし、年々着用率が下がっているチャイルドシートの例を見ればわかるとおり、母親、父親はもちろん、社会全体で子どもを守るという意識向上なくしては、装着は定着しないような気もします。


 自動車技術会が主催したシンポジウムを取材してきました。自動車技術会とは、1947年に設立され、現在3万5000人の会員を持つ学術団体です。今回のシンポジウムのテーマは、「妊婦・幼児・子供と高齢者の交通安全」。少子高齢化のこの時代に、日本はもちろん、世界の自動車技術のトップに立つ人々が、交通弱者についてどんな風に考えているのか? 大変気になるテーマです。

 私がもっとも興味を持ったのは、やはり「妊婦交通外傷」に関する発表でした。独協医科大学助教授の一杉正仁先生による「妊婦交通外傷予防に向けた医学・工学的検討」と、(財)太田綜合病院附属太田西ノ内病院 篠原一彰先生による「当院ERにおける妊婦交通外傷の実態」という発表がなされました。


 一杉先生の発表の要旨は以下の内容です。

 妊婦の3.6%に交通事故の経験がある(郊外の大学病院での調査・日本)


 シートベルト着用をしている妊婦は約1/3(北関東地区での調査。ちなみにイギリスでは74.6%、アメリカでは83.8%)


 シートベルトを正しく着用することで事故の際の子宮に加わる衝撃は3分の1から4分の1に低減できる(アメリカでの調査)


 シートベルト非着用の妊婦の胎児死亡率は、正しく着用している妊婦さんの4倍。未熟児出生率は2倍(同)


 妊婦が運転席に座ったとき胎児がいる腹部とハンドルの水平距離は約14.5センチ、非妊婦に比べて10センチも近い→体が少し前方に押し出されても腹部をハンドルで強打してしまう。しかし、シートベルトを着用していれば、理論上、時速50キロ程度の前面衝突に遭遇しても腹部はハンドルと接触しないですむことになる。したがって、シートベルトを着用することは、腹部への衝撃を予防するうえで重要である。(妊娠30週前後の女性をを対象に一杉先生が調査)



 続いて、実際に交通事故で病院に運ばれてきた数多くの妊婦さんの救命にあたってきた篠原先生の発表の要旨です。

 95年から06年12月までの間に75名の妊婦が太田西ノ内病院救急救命センターに運ばれてきた。うち4輪自動車に乗っていて事故に遭遇したのは69名。妊婦が交通外傷を受ける場合そのほとんどが、『クルマに乗っているとき』というのが良くわかる。


 69例中、シートベルト着用は36例、非着用は30例。不明は3例。胎児が死亡したのは3例で、いずれも、妊婦独自のベルト着用法を実践していれば防げた可能性がある。


 これらの事実からわかることは、おなかの赤ちゃんを守ることはまず、妊婦自身を守ること。そのためにもっとも有効なのは、シートベルトを着用すること・・・。には変わりはありません。もし、この記事を読んでくださっているあなた自身や、あなたの周りにシートベルトをしないでクルマに乗っている妊婦さんがいたら、ぜひこの事実を教えてあげてください。

 シートベルトがおなかを圧迫しているようであればそれは、装着の仕方が間違っているかもしれません。肩ベルトはおなかのふくらみを避けて、腰ベルトは子宮の下あたりに、両腰骨を渡すように掛けます。ハンドル操作に支障をきたすほど、シートを後ろに下げる必要はありません。シート位置はブレーキやハンドルの操作が安全に出来る距離をまずは確保しましょう。

 しかし、そうはいっても妊婦それぞれの体型や、各々のクルマのシート形状やバックルの位置などによっては、正しく装着していても、腰ベルトがどうしても上にせりあがってくる事もあります。この状態を防いで正しい位置に定めるための補助具も、海外を含め、いくつかの育児用品メーカーなどから、発売されていますが、認知度は低く、それゆえ値段も高額でなかなか普及には至っていません。

 一番よいのは、もちろん、標準のシートベルトが、たとえ妊婦であっても安全に簡単に装着できる事です。そのための開発をぜひ頑張って欲しいと、自動車メーカー、シートベルトやシートメーカーにお願いしたいものです。お母さんと赤ちゃん2人分の命が掛かっているのですから・・・。

(2007/04/30)



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