|
|
|
1980年代前半にアメリカから始まったミニバンブームは、瞬く間にファミリーカー(とくに、ママの車)としての地位を不動のものとした。そのブームは、およそ10年後の90年代前半から日本でも始まる。マツダMPV、トヨタ・エスティマ、そして乗用車的ミニバンの先駆となったホンダ・オデッセイの登場によって、ミニバンは日本でもファミリーカーとしての社会的認知度をイッキに高めた。 理由は簡単。子育てファミリーにとって、あの形、あの機能は使いやすいのである。チャイルドシートの装着を考えれば室内高には余裕がほしい。家族で出かける時は、たくさんの荷物が積めて、たくさんの人が乗せられる。装備や乗り心地、安全性はセダン並だし、スライドドアは子供の乗り降りに便利。ミニバンは何かと心地いいのだ。 この10年の間に日本のミニバンは飛躍的にその質を高めた。安全性や乗り心地、快適装備や便利機能は、いまやどの車も大差ない水準である。では、今回のモーターショーに出品された最新の、そして近い将来のミニバンは、家族にとってどんな特長を持っているのだろう。
出展車の多くは、市販を見込んでいるので、かなり現実的な機能が多数盛り込まれている。それらを1台1台見てゆくと、結局、ポイントは、「ドアとシートと室内高」だ。広く大きく電動で開くドア、簡単な操作で楽しめるシートアレンジ、そして、ちょっとかがめば中で着替えができる程度の室内高……。ミニバンならではの個性がもっとも活かされる部分である。 ドアはそのほとんどがスライドドア。開閉方法は各車それぞれに工夫を凝らしている。たとえば、トヨタのNLSVは、来春以降に発売を予定している車で、「クルマを家に置き換えた」という発想だ。その象徴的な部分が助手席側の大型電動スライドドアで、これは家でいうところの玄関をイメージしている。助手席は超ロングスライドが可能で、一番後ろにセットすれば運転席にも楽にいける。フロアは段差が一切なく、乗り降りするのに底の厚いスニーカーやハイヒールでも引っかかることはなさそうだ。 同じトヨタですでに市販開始されているシエンタは、赤ちゃんを抱っこしたお母さんが楽に使えることを目標に各種の新装備が配されている。こちらも後部ドアはスライド式で、開閉を楽にする補助装備がつく。
マツダのコンセプトカー、鷲羽もユニークなドアを採用している。これはエアプレーンドアシステムと呼ばれるもので、外側にスイングして張り出すスライドドアである。開口部の幅は1100mmもあり、さらにルーフ部分にも回り込んでいるので、乗降の瞬間に頭を引っ込めることなく乗り降りは確かに楽。テールゲートは2分割ドアを採用。しかし、下部の下降式ドアは、実際にはおろしたときに邪魔で非常に使いにくいだろう。バンパー部分に格納するなどの工夫が欲しい。
近年、スライドドアを採用するミニバンが急増している。ドア開閉に場所をとらずに、大きな開口面積を確保できるという理由から、確かに日本の狭い道路や駐車場にはありがたい。電動化しやすいという事情もある。しかし、あくまでヒンジドアにこだわるミニバンもある。モデルチェンジしたばかりのオデッセイがそうだ。あくまで、セダン感覚をキープするため今回もヒンジドアである。オデッセイの開発担当者によると、「オデッセイはあくまで上級乗用車。そのイメージを損なわないためにも、いまだに商用車的イメージが抜けないスライドドアは採用しなかった。」とのことだった。
スライドドアは確かに便利だ。しかし、気になるのは、最近のスライドドアはかなり分厚いということだ。スライドして開いたとき、意外に場所をとって驚くことも。側面衝突時の安全性確保のために最低限の厚みは必要だし、電動化のために厚くせざるを得ない事情もある。また、ドアの室内部分にカップホルダーや収納ボックスなどが配される場合が増えており、どんどん厚くなっているようだ。前述した鷲羽も、ドアをあけた際、ボディから張り出す部分は400mmを越える。これではスライドドアのメリットも半減だ。逆に、トヨタのNLSVは極力厚みを抑えている。この程度なら場所を取らないスライドドアの恩恵を十分に受けられるだろう。さらに薄いのは、VWのマルチバン。ドアの内側にカップホルダーなどはないが、もちろん側面衝突時の安全性は十分に確保されている。
多くのミニバンが、すでに発売されているものも含めて「乗る人みんなに優しい車」といった意味のことをウリにしている。今回の出展車の中にも多数似たようなコンセプトを持った車があった。しかし、ここでいう「乗る人」というのは、現段階では、あくまで健康で体力のある大人であると思う。たとえば、子供。赤ちゃんからジュニア世代の子供までが安全に座れるチャイルドシートが、最初から車に組み込まれていたらどんなに快適で安全だろう。これまでも、その手のシートはあるが、適用身長は狭く、限られた世代の子供しか座る事ができない。二人分の命を抱えた妊婦が安全に締められるシートベルトも欲しい。現状、妊婦のことを考えて設計されたシートベルトを採用した車は世界のどこにもない。 シルバー世代のことももっと考えて欲しい。電動リフトアップシートや、車椅子のまま乗り込めるいわゆる福祉車両、介護車両は多数出てきたが、そこまでは必要ない老人のほうが実際には多い。たとえば足腰が弱っている、段差を乗り越えるのがきつい、ひざが痛くて階段が下りにくい、など。このような多くのお年寄りにとって快適な車は実は非常に少ない。 胎児、赤ちゃん、子供、妊婦、老人……。妊婦以外は、人間が誰でも一度は必ず経験する「弱者」の時代にも、安全で快適に移動できる車こそが、真のファミリーカーだと思う。また、このような弱者にこそ、車の必要性が大きいことも忘れてはならない。
|
検索 |使い方 |
asahi.comトップ|社会|スポーツ|ビジネス|暮らし|政治|国際|文化・芸能|ENGLISH|マイタウン