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1本の細い針金

小川フミオ(Ogawa Fumio 「NAVI」編集長)


 あけましておめでとうございます。

 新聞やテレビでは、水素と酸素を結合させて電気を取り出して走る「燃料電池車」の話題が多くて、あたかも内燃機関(ガソリンとかディーゼルの、いまのエンジンのことですね)がまもなく終焉(しゅうえん)を迎えるような印象をもっているひともいると思います。

 人類にとって残り時間はあとどれだけか、ということを人類誕生から現在にいたるまでを24時間時計のアナロジーでとらえた「終末時計」(2000年12月末の時点であと9分!)というのが、世界のどっかにあるらしいですが、自動車でそれを作ると、自動車が世界から姿を消すのはあと何分か。……なんて話題はどうも暗いですね。

■クルマをめぐる二枚腰

 日本と欧米とでもっとも異なっているのは、「移動」に対する考え方のようです。あちらでは個人の移動を大事にするから自動車を大切にして、こちらではどちらかというと大量輸送機関(鉄道など)に重きを置く。だから日本では、「自動車がなくなっても、まァいいか」なんて考えているひとがいるのかもしれません。欧米は違います。なんとか自動車を残そうとしている。

 あちらの自動車デザイナーと話をしていて、いっときどうもうまく話が噛み合わないことがありました。「これからの自動車はやっぱり小さくなるんでしょうか」と聞くと、「???」と向こうは反応するのです。これは、「小さいクルマでは長距離の移動が不便でしょ? なのにどうしてクルマを小さくしなくちゃいけないのか」ということなのです。

 ヨーロッパの考えかたはこうです。小さいクルマは都市用、大きなクルマは大陸横断用。そして、じつは、「環境問題を根本的に解決するために、究極の整合性を求める」というところまではつきつめない。「まあ、そのときの状況とうまくやっていけばいいんじゃない」というフレキシブルな対応を考えているようです。このあたりは、二枚腰ともいわれる欧州の政治のやりかたと似ているのかもしれません。

 たしかに、環境などの面から考えても、自動車をなくすのは消極的な解決法で、いかに上手につきあっていくか、それが大事なのだと僕は思います。クルマのおもしろさというのは、時代の気分に左右されるところで、「つねにオレはGT−Rだ!」ってひともいるでしょうが、僕なんかは自分のクルマ選びがその時その時で変わります。

■ちょっと頭をひねって

ルノー・セニック

 で、2000年に買ったのがルノーのミニバン、セニックです。買った理由は、路上での占有面積(簡単にいうと全長×全幅による面積)はコンパクトなハッチバック車と同じに抑えつつ、トールボーイスタイルにして、おとな5人の居住空間を実現するというコンセプトに共感をおぼえたからです。しかも、あんまり金をかけて開発していないところが、ますます共感できるところです。シャシーなんか既存のメガーヌのものを流用しています。

 このように、いまの僕には、オオゲサなものはあまりピンときません。ほんのちょっと頭をひねって生まれたアイディアこそ、すばらしいと思います。

小川フミオ
 そういえばボルボが海外で使っているポスターに、安全ピンをボルボのカタチにして、シンプルなクルマだということを強調しているものがあります。安全ピンって、1本の細い針金で出来ているんですね。じつにシンプルな工業製品です。あれこそ、クルマにおける2001年的な価値観だろう、と僕は思っています。

【小川フミオ】
1982年、二玄社に入社。1999年に、自動車専門誌「NAVI」の3代目編集長となる。2000年は月1回ぐらいのペースで海外取材にいったが、試乗して一番おもしろかったクルマは、ミドシップ・ハッチバック「ルノー・クリオV6」。一番つらかった体験は、取材づかれでヘロヘロの状態で帰国しようとバルセロナの空港にいったとき、すべての便が欠航していたこと。一番たのしかったのは、米国のギター会社、ギブソン社にいったとき、かな。

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