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知られざる小型車の魅力

文=森 慶太(Mori Keita 自動車ジャーナリスト)


■めでたいクルマ

 ヴィッツの大ヒットは、最近のニッポン自動車業界における最大のニュースのひとつだ。トヨタにおける欧州市場本格進出のための起爆剤、あるいは核として相応の意気込みとともに企画製作された同車を見て、ものすごく多くの日本人が「小型車の魅力」というものに改めて気がついた。

 それまでの国産小型車とは明らかにモノの違う本格派ぶり、みたいなものを濃厚に感じさせたからこそ、ヴィッツはバカ売れしたのだ、と思われる。なにより、従来のトヨタ小型車である、たとえばスターレットと較べたら、ヴィッツのデキはまさに段違い。もちろんいい。

トヨタ・ヴィッツU5ドア
トヨタ・ヴィッツU5ドア

 スターレット時代のトヨタ小型車は、デビューが3年も古い宿敵日産マーチに、販売台数で水をあけられ続けだった。大トヨタの強烈な販売力をもってしてもなお。要するに、「魅力のなさ」をお客に見破られていた。

 それが、ヴィッツになって状況一転。今度はマーチが完封負けに近い立場へ追い落とされてしまった。

 クルマとしてはいろいろいいたいこともある(私のオススメはむしろマーチやストーリア/デュエットだ)が、ヴィッツのような製品が日本のメーカーから出てきたという事実はとりあえずめでたい。肥大したミニバンやドーピング陽性のハイパワー車ばかりが魅力的なクルマではない、という大事な部分に光を当ててくれたのだから。

■「見る目」と「乗る目」

 で、そこから一歩先へ進む。小型車の魅力を堪能したいなら、本家はやはりヨーロッパである。トヨタがヴィッツでようやく目覚めた本格派小型車づくりを、アチラのメーカーは何十年も昔から必死になってやり続けている。日本車にもその昔はビンビンに気合の入った小型車がまだしも多かったが、残念なことにここしばらくはほとんどの場合タルんでいた。その差はデカい。

 それに関してはお客であるわれわれの真剣さも足りなかったのだろう。

 小型車 → 魅力は安さ → デキはそれなりでも我慢、ぐらいの安易な認識しかしてこなかった。厳しい市場のないところには、やはりそれなりの製品しか出てこない。だからトヨタも、短期間だったとはいえ、ヴィッツとスターレットを平気な顔で同時に新車として売ったりした。

 その点、ヨーロッパの国々では、クルマの主流がいわゆる小型車である。しかも、速度や距離に関する使われ方のスケールが、日本の場合より格段にデカい。走って使うモノとしての性能に対する要求がシビアだ。

 あるいは、ぶっちゃけたハナシ、彼らはケチないし強欲なのだということかもしれない。安くて小さいクルマがたんに安くて小さいだけでは満足しないというのは。

 それに、概してアチラの国々の人々は平均的な運転能力レベルが日本人の場合よりも明らかに高い。つまり上手い。見る目もさることながら“乗る目”もきっと肥えているのだろう。ヘタなモノは出せない。

■ルノー、シトロエン、そしてフィアット

 「知られざる」というテーマでのオススメ物件検索となると、たとえばフォルクスワーゲンやプジョーやオペルの小型車は人気銘柄だから対象外。で、それ以外のいわゆる不人気銘柄のなかにも、実はいいのがけっこうある。むしろ、人気車種をはるかに凌ぐデキのいいクルマも珍しくない。

ルノー・メガーヌクーペ ルノー・ルーテシア
ルノー・メガーヌクーペ ルノー・クリオ
(日本名・ルーテシア)

 たとえば、東京−大阪間の往復を月に何度もこなすような人にはルノーがいい。というか最高。

 ルーテシアにしろメガーヌ/セニックにしろ、ヘビーデューティな移動のための実用小型グルマとしてはおよそ世界一である。速度や道路状況を問わない安全な走りと快適さはちょっと並ぶものがない。ただし、週末にチョイ乗りして喜びたい向きには不向き。なんというか、大物すぎて可愛げがない。

シトロエン・クサラVTR
シトロエン・クサラVTR

 こみいった日本の道路状況あるいは駐車場事情その他に対してどうか、ということも考えてゴルフ級≒カローラ級各車を較べると、現状で総合ナンバーワンはシトロエンのクサラだと思う。

 シトロエンらしからぬ(?) きわめてオーソドックスな(凡庸な、という意味では断じてない)ハッチバックで、名車ゴルフIIIの後継としてもっとも相応しい。そして、ゴルフIIIとは較べモノにならないほど甘美な乗りアジ。痛快な走り。図抜けて静か、というか爽やかな音環境。他車を大きく引き離しつつメガーヌと僅差で争う、絶品の後席空間。特にオススメは1600cc、つまり排気量の小さいほう。

フィアット・プント
フィアット・プントELXスピードギア
 楽しいマーチ級実用車としてはフィアット・プント5ドア。

 空間利用効率の高さは依然としてお見事。後席の居心地は、たとえばルーテシアを敵としない。具体的には、天井が高くてラクなのが大きい。

 1200少々とは思えぬ強力なエンジンは、ブン回した際の音や振動の質もいい。トルク特性も優等生で、小型4気筒のひとつのお手本。CVT のデキも秀逸。ビックリするほど速い。静か。当たりの優しい乗り心地。たっぷりした前後のシート。内外装の色柄のセンスはひたすら脱帽。走りも含め、ヴィッツが当面の到達目標とすべき1台。

 ここにあげたクルマは、どれも私が自分で買ってもいい、あるいは積極的に買いたいと思っているものばかりだ。もっというと、私は昨春、ルノーのメガーヌを実際に買った。

【森 慶太】
1966年静岡県生まれ。筑波大卒。自動車雑誌編集部を経て96年からフリーランスに。著書に、「乗れるクルマ、乗ってはいけないクルマ」(三笠書房)「『中古車選び』これだけは知っておけ!」(三笠書房)など。

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