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アサヒ・インターネット・キャスター



エド村崎のフィルム・マニアーク November  12, 2004
スーダラ節 わかっちゃいるけどやめられねぇ
1962年・大映作品  監督=弓削太郎、出演=川口浩、川崎敬三、ハナ肇とクレージーキャッツ、レンタルビデオのみ
エド村崎
エド村崎
96年末から98年春にかけて、アエラ巻末の「in short……」欄に映画評コラム16本を執筆しただけで、この世から姿を消した幻の映画ライター、一説には本業は新聞記者だが、その、よこしまなドッペルゲンガーとなって、ひとりよがりの極致のような原稿を書いている。
バックナンバー 松尾慈子の漫画偏愛主義


終電に乗り損ねた夜更けの新宿を、うたた寝のできる漫画喫茶を探しながらうろつき歩いていて、ふと見上げると閉店間際のTSUTAYAがそこにあったのである。

前回も悲痛な叫びの残響をサイバーな虚空に駆け巡らせてしまったのだが、いい加減ジジイなもんで集中力の最大持続時間が15分しかないってのに、本業でしばらく超高圧ストレスがかかってたもんだから、ここんところ放心の日々なのである。しばらく放っといてほしいのである。よかったら癒してほしいのである……の甘えたアルアル探検隊に成り下がっていたわけだ。

再びふと見上げると、洋画のレンタルビデオの陳列棚がいつしかそこに。「ヌード・オブ・ザ・リング」「マゾリックス」「ハメナプトラ」「ザ・ビーチク」……オオッ、なんと、かすんだ目に幻覚のようなエロいタイトルが。なになに? 「MIB」「MI:2」……ってマトモやないか、と思ったら「メン淫ブラック」「ミッション・インサートフル2」だと!

ここはTSUTAYA最上階のアダルトコーナーではないか。いつの間に俺はここに。こんなものに元気をもらっている場合ではないと己にカツをいれつつ、閉店時刻までそこに立ち尽くすエド村崎なのであった。

もうバスタイムに聴くクレージーキャッツのCDだけでは立ち直れないのではないか、とおびえつつ前回に引き続きクレージー映画話なのだが、クレージーキャッツのグループとしての本格的スクリーン・デビューは東宝ではなくて、じつは大映だったのである。

あの東宝クレージー映画第1作にして最高傑作の「ニッポン無責任時代」が1962(昭和37)年7月に封切られる4ヶ月前、大映は「スーダラ節」の大ヒットに便乗して「スーダラ節 わかっちゃいるいけどやめられねぇ」(弓削太郎監督)を公開している。

青島幸男の原作を脚色したこの映画、ただし主演はクレージーキャッツではなく、川口浩と川崎敬三。でもって、サラリーマン物ではあるがテーストはまるで違っていて、破壊的トリックスターが登場するわけではない。

川口浩と川崎敬三は二人とも「日の丸商事」の新入社員。ハナ肇が課長を演じる渉外課へ配属されるのだが、社長と社長令嬢が渡米する際の随行社員が7人いる新入社員の中から選ばれることになる。川口、川崎は2人とも劣勢だったのだが、ライバルたちが結核になったり、上司の身代わりに北海道へ転勤させられたりして次々に脱落、ついに2人だけ残ってしまう。さて、その結末は……って物語で、ハナ以外のクレージーの面々は劇中、泥酔したハナ課長の飲み仲間となって登場し、バーに乱入してドンチャン騒ぎをしたりトラ箱にぶち込まれるのみ。キャラとしては添え物扱いというほかない。

川口、川崎の新入社員コンビも、無責任でもなく、C調でもなく、タイミングだけで生きているわけではない。「さぁ、いっちょうブワーッといくか!」ってな調子の周囲の迷惑、全然お構いなしの気合が入ってるわけでもない小心者なのである。

ハナ課長の顔色をうかがい、昇進、出世に差し支える言動、振る舞いは自重に自重を重ねながら、図らずも、あらぬことを口走ってしまったり、上司の機嫌を損ねるミスを犯してシオシオのパーになる見るからにお気の毒なサラリーマンたち。しかし高度経済成長下の会社喜劇としては、こちらがリアル・サラリーマンなのであって、戦中派世代しかいなくて、軍隊的規律とエートスに厳然と支配された戦後ニッポンの会社でお勤めするときの、ひた隠しにされた、いじましいミジメさは、こちらの方が如実に分かりやすい。かといって必見のおすすめでは決してなく、クレージーが出演しているから見るに過ぎないB級とC級のボーダー映画なので、ご注意を。

思うに東宝クレージー映画の、とくに「ニッポン無責任時代」「ニッポン無責任野郎」で植木等が演じた無責任キャラは、戦争には負けちゃったけども、サラリーマンを武器なき兵とした神軍を従え、高度成長神話を営々と築きつつあるニッポンそのものを体現していたわけなんですな。だからこそ、神兵たちのミジメさを吹っ飛ばして、魂を共振させた。

東宝クレージー映画は71年の第30作「日本一のショック男」を最後に製作を打ち切られる。オイルショックで経済成長が大失速する目前に、無責任キャラは、あたかもアポトーシスのメカニズムをあらかじめ仕組まれた自死細胞だったかのように死滅していったのである。



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