| 松尾慈子の漫画偏愛主義 November
26, 2004 |
ヒストリエ
岩明均
講談社 本体533円 3巻以下続刊 |
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松尾慈子
1992年朝日新聞入社、金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。
一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。 |
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エド村崎のフィルム・マニアーク
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「寄生獣」の岩明均が、またやってくれた。アレキサンダー大王の書記官・エウメネスの生涯を描いた表題作。先日、1、2巻が同時発売され、私は一気に読み切ってしまった。次巻が待ち遠しい。
とにかく圧倒される。時代は紀元前343年。エウメネスは主人公でありながら、彼の名は20ページほど先まであかされない。奴隷のような服装で「異民族(バルバロイ)ですよ、たぶん」と自らを表現する。その一方で、ギリシャ式の名を名乗り、歴史の父・ヘロドトスの書を読んでいることも明らかになる。機知に富み、教養あふれるこの若者の正体は? 最初からぐんぐん引き込まれていく。1巻途中から2巻最後までエウメネスの回想シーンなのだが、それも十分に楽しめる。
岩明作品の特徴は、「体温の低さ」と表現したくなるような、「人物が熱くならない」点ではないだろうか。表題作でも、直接的な感情表現は極力抑えられている。それでいて、ふとした描写に登場人物たちの押し殺した感情が読み取れる。エウメネスは、母の悲惨な死に様を、それが母と知らずに繰り返し夢に見て、寝床で涙を流す。自分の出自を知ったときにも、ただうなだれる姿を描いてその感情を示す。単純に涙を描くより、エウメネスの受けた衝撃と悲しみが伝わってくる。
そして岩明均は、現当時の人間を現代社会の価値観で短絡的に断罪しない。ギリシャ人の作り上げた奴隷制度を淡々と描きつつ、時に自由市民の一人、時に奴隷として扱われる微妙な立場のエウメネスを描くことで、奴隷制度の非人間な面を浮き彫りにする。
中条省平氏は「岩明均の貧乏くさい絵が暗鬱なリアリズムを生んだ」とある。確かに、岩明の絵は暗い。初めて手に取った人には抵抗があるかもしれないが、読み進めていくうちに、それも味に思えてくるはず。表題作は少々残酷なシーンが多い。しかし、それも作品上必要なこと。お嫌いな方も、ぐっと我慢して読み進めて欲しい。
岩明均は「ヘウレーカ」(白泉社)でも紀元前のローマ・カルタゴ戦争を取り上げた。漫画でも小説でも、歴史ものを描くのは大変な苦労を伴う。莫大な資料が欠かせないからだ。当時の服装から食事の用具まで、調べておかないと絵には描けない。作家自身も勉強が必要だろう。だからなのか、近年の読者に歴史への興味が薄いからか、最近歴史漫画が少ないような気がするけれど、ぜひ岩明均にはこの路線もがんばって欲しい。
ところで、エウメネスは、木材もないところで船の櫂(かい)を作るなど、様々な苦境を機知に富んだ発想で切り抜ける。読者としては壮快な気持ちになるが、その発想はもうすでに現代人には真似できないほどなのだ。発想力に乏しい私なんかは「人類は2千年たっても、あんまり進化してないんじゃないかなあ」と思ってしまう。
とりあえずこの「ヒストリエ」、岩明均にとって、「寄生獣」につづく代表作になる予感大だ。
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